田中 英樹 院長の独自取材記事
池上メディカルクリニック
(大田区/池上駅)
最終更新日:2025/04/24

東急池上線・池上駅から徒歩4分。駅前商店街の中ほどにある「池上メディカルクリニック」は、2017年10月に開業。院長の田中英樹先生は、総合診療を行う医師になるため、大学病院や医療過疎地域の病院で研鑽を積み、「地域の皆さんが安心して医療を受けられる環境をつくりたい」と、昔ながらの医師のように、一般的な疾患から原因不明の不調まで幅広く対応しながら、訪問診療と往診にも力を入れる。爽やかな笑顔と穏やかな語り口が印象的な若き医師は、かつてバイクが趣味だったというが、今は「休みの日はもっぱら家族サービス」という家庭的な一面ものぞかせる。そんな田中院長に、総合診療を手がけるに至ったきっかけや訪問診療や往診への想い、診療の際に心がけていることなどについて聞いた。
(取材日2023年5月24日)
総合診療の提供をめざし、さまざまな疾患に対応
どういった患者さんが訪れますか?

訪問診療の患者さんが多いですが、外来の患者さんもいらっしゃいます。年代的には高齢の方が中心ですね。何科で診てもらったらいいかわからない方や、生活習慣病など一般的な症状の方、がんを抱えた方で痛みをコントロールしたい患者さんなどが来られています。訪問診療でも外来でも、必要に応じて利用してほしいと思います。いずれもその方らしい楽しい生活を長く続けるためにはどうしたらいいのか、ということを意識して診療しています。
開業までの経緯を教えてください。
大学卒業間近まで整形外科に進もうと考えていたんですが、研鑽を積むうちに総合診療を提供するクリニックとして開業したいという想いが強くなりました。総合診療を行う医師というのは、昔ながらの開業医のようなイメージで、プライマリケア(初期診療)を行い、必要に応じて専門の先生に紹介する役割があります。当時「何科にかかればいいのかわからない」という患者さんの声を耳にして、診療科の枠を越えて、さまざまな疾患を診る医師が必要なのではないかと思ったんです。同時に、ちょうどプライマリケアが注目され始めたんですね。一方で、在宅医療を経験して、退院後の患者さんやご家族の想いにふれて、在宅の患者さんもしっかりケアしたいと思うようになったんです。そこで、大学病院や医療過疎地域の病院で研鑽を積み、総合診療の利点を生かしてさまざまな疾患を診療しつつ、訪問診療や往診も行うという形で開業しました。
診療の際に心がけていることは何ですか?

患者さんと目線を合わせてしっかりとお話を聞くことでしょうか。普段から、患者さんにどういう生活習慣があって、どの程度の運動量があって、どのような食事を好むのかなどを把握するようにしています。そして、「ナラティブアプローチ」といいますが、患者さんの背景に合わせて、「本当はこちらの薬がいいと思うけれど、その生活なら副作用が強く出るから、違う薬を使おう」などといった形で提案します。患者さんの中には医師とは話しづらいという方もいらっしゃると思いますが、「実は薬を飲んでいなくて……」ということを正直に伝えていただけるような関係性がいいですね。なので、医療相談のように近い距離で話しながら、患者さんと一緒にどうすればいいかを考えていこうと思っています。私の医学的な見解と患者さんの想いとのちょうどいいところを取って、お一人お一人に合った治療法や解決法を見つけていくようにしています。
地域住民が安心して医療を受けられる環境づくりを
訪問診療、往診に力を入れていらっしゃるそうですね。

訪問診療は、高齢の方や肝不全、悪性腫瘍の方を中心に定期的に訪問しています。訪問する頻度は状態が安定していれば月に1回、芳しくなければ週に2回以上など、患者さんの状況に合わせています。往診は、ご家族から「急に動けなくなった。どうしよう」という連絡が多いです。皆さん、緊急時に「救急車を呼ぶべきかどうかわからない」とよくおっしゃるんですが、「それならば私たちがお伺いします」というスタンスですね。その場で対応可能であれば経過観察し、心筋梗塞が認められたり全身状態が悪ければ、救急車を呼んで適切な病院につなげます。最近は、ご自宅でも適切な検査や診断ができるように、持ち運びできるエックス線撮影機器も導入しました。なるべく外来と同等の医療の提供をめざしています。患者さんだけでなくご家族にとっても通院の負担を減らして、安心して医療を受けられる環境がつくれたらいいなと考えています。
往診は24時間365日体制だと伺いました。
現在は、機能強化型在宅療養支援診療所、緩和ケア充実診療所として体制を整えています。私自身診療できない状況になることもゼロではありませんので、そういった場合に同じような考えで診療している先生たちと連携を取って、お互い何かあったときに協力体制を取れるようにしたかったんです。また、通常の診療も、外部の医師を増やして診療にあたり、患者さんの「来てほしい」という要望に最大限応えられるようにしています。夜間に関しては何か起こればいつでも私に電話がつながるようになっているのですが、そちらも週に1度は外部の先生にお願いしています。その際、誰が担当してもこれまでの詳しい状況がわかるように、カルテの共有や口頭での情報の伝聞は徹底しています。幸いスタッフに恵まれ、皆スピーディーに対応してくれていますが、他の医師が担当する日に看取りになる場合や不安なことがあるときは、私も必ず伺うようにしていますね。
今後は近隣のクリニックとの連携を強めたいという思いがあるそうですね。

そうですね。最近は病院レベルの機器をそろえているクリニックが増えているので、総合病院や大学病院を受診されている方も、実は地域のクリニックでもっとケアすることができるんじゃないかと考えているんです。そのためには、近隣のクリニックの先生方との連携が重要だと思っています。私が総合診療の観点から診断をして、専門性の高い治療が必要な場合は大きな病院をご紹介しますが、クリニックでも対応できそうなら、近隣の先生をご紹介します。患者さんにとって一番いい方法を提案していきたいと思っています。
気軽に相談できる身近なかかりつけ医に
遠隔での診療も行っているそうですね。

そうなんです。スマートフォンやパソコンなどを使って診察や処方を受けていただける、遠隔診療のためのアプリケーションを導入しています。例えば、高血圧の方が急に出張になってかかりつけのクリニックにお薬を取りに行けず、お薬を飲まないと血圧が上がって危ない。そんなときでも、このアプリケーションを使えば、かかりつけのクリニックでお薬を処方することができます。もちろん時々は直接受診してほしいですが、忙しい方や来院することが難しい方であっても、いつでもどこでも診療を受けていただけるため、導入しました。利用には一度直接受診していただく必要があるのですが、興味のある方はまずはお問い合わせいただければと思います。
池上を開業の地に選んだのはなぜですか?
一つは、東邦大学医療センター大森病院が蒲田にあって、大学時代からずっとこの地域にお世話になってなじみ深かったからですね。もう一つは、訪問診療や往診をさせていただくにあたって、救急ですぐに行ける範囲は半径4キロぐらいと考えて、大田区で円を描いたときにほぼ真ん中が池上だったからです。少し狭い範囲ではありますが、患者さんと密に接することや、ご家族からのご相談をしっかり聞くことができると思い、エリアを設定しています。
最後にメッセージをお願いします。

私ができることは患者さんに医療面でのバックアップをして、なるべく元気で楽しく生きていけるようにサポートすることです。終末期はどなたにでも訪れるので、終末期をどこでどう迎えるか、という選択肢の一つに患者さんの中に在宅があるのなら、楽しく最期まで過ごせる環境を作りたいと思っています。その一つとして、患者さんから「実はこういうことをしたかった」などご意見が出てきた場合、かなえられるような方法を考えたいと思います。例えば「旅行したい」でしたら、宛名のない紹介状を書いて渡すなど、在宅診療に入ってもやりたいことをなるべく実践できるようお手伝いします。目標を機に、食事が取れるようになったりすることは、わりとよくあることです。患者さんご本人が満足して、目標を持ってより良く楽しく生活できるよう最大限サポートしたいと思います。困っていることがあれば、何でも相談してほしいですね。