菊池 大和 理事長の独自取材記事
きくち総合診療クリニック
(綾瀬市/高座渋谷駅)
最終更新日:2024/09/26

神奈川県綾瀬市のショッピングモールに「きくち総合診療クリニック」はある。2024年4月には大幅な拡張を行い、モールの建物一棟をほぼ占めるようになった。菊池大和理事長の白衣の袖には“Generalist”という文字が刺繍されており、理事長の決意表明として、診察室の壁には「いつでも、なんでも、だれでもまず診る」と記した額が掲げられている。外科や救命に長らく携わってきた菊池理事長が同院でめざすのは「総合診療かかりつけ医」。「患者さんが不調を覚えたら、まず来ていただけるクリニックでありたい」と胸を張る。そのために20人以上の医師が在籍し、MRIやCTなどの機器を備え、病院との連携体制を確立。日本の医療を見据えて情報発信をしている菊池理事長に、同院で実践している医療や今後のビジョンについて話を聞いた。
(取材日2024年04月26日)
「何でも診る総合診療かかりつけ医」を増やしたい
こちらではどのような診療を行っているのですか?

「いつでも、なんでも、だれでも、まず診る」です。例えば体の調子が悪いときに何科のクリニックに行くか、どうやって決めていますか? 中高年の皆さんや若い世代の方ならば症状を検索して、「おおよそこういう病気かな?」と推定した上で、行くクリニックを決めると思います。しかし、高齢の方だと調べる手段やコミュニケーションがないことも多いかと思います。そんなときに「何科」とかにかかわらず、自分のことを全部しっかり診てくれる、命を守ってくれる医師がいたら助かりますよね。僕は患者さんが行く病院は一つでいいと思います。どんなときでも、まずはここに行けばなんでも診てもらえるかかりつけ医、そういう存在でありたいと思っています。
先生は、ご自身のような総合的な診療が行える医師をもっと増やしたいとお考えなんですか?
そうですね。一番は患者さんのためなのですが、開業すると経営的なところも考えなければいけません。日本のドクターを教育する制度の影響もありますが、現状のクリニックの多くは「専門性」を強調する傾向にあります。しかし地域のかかりつけ医に求められているのは、困ったらまず相談できる場所です。かかりつけ医として何をやりがいとしてやるべきなのか、そしてかかりつけ医の責務を果たすことでかなえられることがどれだけ魅力的なことなのかを継続的に発信しています。
菊池先生が「総合診療かかりつけ医」について積極的に発信されているのはどうしてでしょうか?

日本医療の将来に危機感を抱いているからです。2050年には65歳以上の高齢者が国内人口の半数近くを占めるといわれています。また未婚率の高い世代が高齢期に入り、高齢者の単身世帯も増加するでしょう。ご高齢になると、いくつもの病気と付き合っていかなければなりませんが、お一人でそれぞれの症状ごとに適切なクリニックを探し、受診することは非常に困難だと思われます。そんなとき地域に「いつでも、なんでも、だれでも、まず診る」というクリニックがあったら、どんな症状でもまず受診していただいて、クリニックでできない処置が必要というものだけ然るべき機関にご紹介することができます。受診した機関でその症状が診れず、たらい回しになることが一番怖いと思いますので、こういった「かかりつけ医」という存在がもっと増えてほしいと切に願っています。
専門病院との密な連携で患者に安心感を提供
先生は日本の医学部で勉強されたんですよね? なぜ大学で語られない問題点に気づいたんですか?

もともと、「医師だったらなんでも診る」という意識が自然とあったんだと思います。僕自身、医師になって外科の手術ばかりやっていましたが、花粉症で困っている患者さんには症状を聞いてアドバイスしたり、内科のことを聞かれてもわかる範囲で答えたりすることもありました。先ほどお話ししたように、日本の医療は細分化されていますが、日常的な症状なら診ることができるぐらいの教育は受けていますし、経験も積んできています。しかし勤務医の立場だと限界があるので、患者さんが、何科とか気にせず気軽に受診できるクリニックが絶対必要だと思い、このクリニックを開業したんです。医師の専門分野を気にすることなく、患者さんが気軽に体のことを相談したり、病気の話ができたりすれば、重篤化して手遅れになることも少なくなるのではないかと思ったんです。
こちらのクリニックの診療の流れと、他院との医療連携について伺います。
患者さんが来られたら、とにかくお話を聞いて、当院でできる最大限の検査をします。検査結果をもとに診断を行い、当院で治療できる場合は引き続き通っていただき、より細かな検査や専門的な治療が必要な場合は、大学病院や総合病院をご紹介します。このような「病診連携体制」の構築にはとても力を入れています。調子が悪くなっても、いきなり大学病院には行けませんから、当院が最初の窓口になって、専門の医療機関、専門の医師につなげる。それが、かかりつけ医の大きな役目です。ですからいろんな病院にあいさつに行って、しっかり僕のことを知ってもらい、僕も連携先の先生のことを知るようにしています。半ば友達のような(笑)、密な連携体制をつくることがとても大事なんです。かかりつけ医が責任を持って、いかにスムーズに専門の医療機関に誘導できるか。患者さんに安心していただくための関係づくりですから、決して手は抜けません。
患者層についてはいかがでしょう。

当院には、かかりつけとして通院していただいている患者さんだけでなく、初診の方も多いんです。毎年新規の患者さんは右肩上がりで増えているのですが、恐らく、他の複数のクリニックに通われていて、それを当院で一つにまとめたいという方が多いのではないかと思います。例えば、腰が痛くて整形外科に通われていた方が内臓の病気を発症した場合でも、一つのクリニックで治療を完結することが可能です。そこは総合診療を行うクリニックの強みですね。
総合診療を行うかかりつけ医が地域医療の未来を担う
規模の大きいクリニックですが、他の先生やスタッフさん方との連携はいかがですか?

実は開業してから2、3年は1人ですべての患者さんを診ていましたが、今では80人を超えるスタッフが在籍しています。ありがたいことに年々患者さんが増えていき、僕一人だと患者さんの待ち時間も長くなってしまうので、医師やスタッフを増員しました。人数は増えましたが、「なんでも診る」という当院の姿勢を崩さぬよう、スタッフ全員が同じ志を持って働いています。どんな症状の方でも診るということはもちろん、受付対応にしても、かかりつけクリニックとして安心して通っていただけるよう、患者さんと目線を合わせてお話ししたり、丁寧に説明することを心がけてもらっています。スタッフ全員同じ想いを共有できているからこそ今のクリニックの形があると思います。
医師としてのやりがいを感じるのはどんな時ですか?
患者さんに感謝していただいた時、それに尽きますね。たくさんの人たちの感謝があるからこそ、毎年患者さんが増えて、クリニックの拡張につながっているのだと思います。そこにやりがいを感じられないと、この仕事はできないでしょうね。総合診療を行うかかりつけ医というのは、医療従事者の中でも一番患者さんに近い存在で、まず何かあったら相談しに来てもらい、患者さんの健康と命を守らなければいけませんから、とにかく責任重大です。医学部で学んだ知識を大学病院や総合病院で生かすのも素晴らしいことですが、その知識を地元に帰って地域医療を担うかかりつけ医として活用しようという人が増えてくれればとてもうれしいですね。
最後に、今後の展望について伺います。

医学部の学生だった時は、診療所というのは田舎にあって、細々診察しているみたいなイメージで、憧れの対象ではなかったんです。ただ、今の当院の在り方は全然違いますよね。そうした古い概念を打破し、ゼネラリストの分野にもっと光が当たれば、「自分もやりたい」と思う人が出てきてくれるのではないでしょうか。そのためにも、医学部で学ぶ段階で、地域医療やかかりつけ医がいかに大事かを学ぶ時間をつくってほしいと思います。あとは、人気の俳優さんを配役して、ゼネラリストのドクターが活躍するドラマがあれば、なんて思ったりもしますね。患者さんからの些細なご相談はもちろん、「総合診療かかりつけ医」に興味がある方からのご相談もお待ちしておりますので、何でもご相談ください。