石垣 和寿 院長の独自取材記事
小竹向原こころのクリニック
(練馬区/小竹向原駅)
最終更新日:2023/10/02
小竹向原駅4番出口から徒歩1分にある「小竹向原こころのクリニック」。豊富な臨床経験を持つ院長の石垣和寿(かずひさ)先生が、不眠や不安、パニック障害など、心の不調に対して幅広く対応している。平日は夜7時まで診療していることもあり、学生や働き盛り世代でも通いやすいだろう。中でも最近は発達障害に関する相談が増えているため、臨床心理士によるカウンセリングや心理検査を院内で実施できる体制も整えた。やわらかな自然光が差し込む待合室には、他人を気にせず過ごせるカウンター席を設けるなど、さりげない配慮が行き届いている。「心の悩みは一人で抱え込まないのが大切です」と、静かにほほ笑む石垣院長に、診療にかける思いなどを詳しく聞いた。
(取材日2023年8月30日)
気軽に通える地域密着型のメンタルクリニックをめざす
まず、医師をめざしたきっかけやご経歴を教えてください。
鹿児島にあるラ・サール中学校・高等学校で寮生活を送り、仲間たちと切磋琢磨しながら勉強したのも一つのきっかけかもしれません。中学は8人部屋で楽しかったですね。大学卒業後は東京大学医学部附属病院で研鑽を積んだ後、JR東京総合病院を経て東京武蔵野病院に勤務しました。入院病棟もあったため重度の患者さんを診る機会も多かったですね。一方、この地域にはちょっとした心の不調や「もしかしたら発達障害かもしれない」というようなお悩みで気軽に通えるクリニックが少ないことに気づき、2017年に開院しました。
地域のメンタルクリニックとして何を大切にしてきましたか?
患者さんの話にしっかりと耳を傾けることです。特に初診時は30分かけて、どんな悩みを抱えてここへ来られたのか、問診票に沿ってじっくりお話を伺います。心の病気はその人の人生や日常生活の問題と切り離すことはできません。例えば、学生さんならば親と意思の疎通はできているのか、学校の先生やスクールカウンセラーと相談できているのかといった環境面も確認していきます。基本的に薬は少なめを心がけ、場合によっては漢方薬を処方することもありますし、心理療法だけの患者さんもいらっしゃいます。心理療法にはさまざまな方法があるので、一人ひとりに合わせたアプローチが可能です。同じことを伝えるのであっても、患者さんによって受け止め方はまったく違うので、言い方を変えるなどの工夫も大切にしてきました。
どのような患者さんが多いのでしょうか?
不眠、不安、うつ、パニック障害などさまざまな方がいらしゃいます。新型コロナウイルス感染症流行下ではうつを訴える人も多かったのですが、単に新型コロナウイルス感染症への不安が原因というケースはまれでした。在宅勤務が増えるなど生活スタイルが変化して家族との関わりに問題が生じるなどして、心のバランスを崩した人が多かったですね。ただ、新型コロナウイルス感染症によって誰がいつ、うつになってもおかしくないのだと認知され、心療内科や精神科への受診ハードルが下がった点は良かったと考えています。その他、情報依存の方も増えていますが、これはもう今後減ることはないでしょう。一般的な職業に就いている方でも、ゲームやネットの趣味の影響で生きがいを失ってしまったと真剣に悩んでいらっしゃる例もあります。そして、最近、特に増えているのが発達障害に関するご相談です。
発達障害の診断と治療にも注力
なぜ今、発達障害の相談が増えているとお考えですか?
いつの時代にも生きづらさを表現するフレーズがあって、かつては「アダルトチルドレン」「境界性人格障害」などがありましたが、今は「発達障害」という表現が主流になっているからでしょう。「アダルトチルドレン」では生育環境に原因があると考えるため、自らの人生を他人のせいにしてしまい主体的に向き合わないケースが見受けられました。一方で、若い女性を中心にリストカットなど激しい自傷行為を繰り返し「境界性人格障害」と診断されるケースも一時期より減ってきています。「発達障害かもしれない」と、自分を疑うことを「言い訳にしている」と、責める人もいますが、気にしないでほしいです。そうすることで、生きづらさが多少なりとも軽減したり、死なずに済んだりするのであれば、それに越したことはありません。
ご自身やご家族が「もしかしたら?」という軽い相談でも問題ないですか?
まったく問題ありません。インターネット上にも発達障害テストなどがあふれていますが、そういうものをきっかけにいらっしゃる方もいます。たとえ、発達障害の可能性は低いという結果が出たとしても、少しでも気になることがあるならばお話を聞かせてください。お子さんが発達障害で「もしかしたら自分も?」と、いらっしゃる方もいます。発達障害への不安から訪れる患者さんの大半はグレーゾーンで、必要があれば院内で臨床心理士による心理検査を受けられるように体制を整えました。ADHDとアスペルガー症候群、両方を抱えているという結果が出ることも多いのですが、いずれにせよ単純な病気ではなく、その人の特性として長い目で見守っていかなければいけません。
臨床心理士とも力を合わせて、どのような発達障害の治療を行っていますか?
ADHDに対しては脳内の神経伝達物質の働きを助けるための薬を用いて、社会適応の改善をめざせますが、あくまでもサポート的な手段です。当院では臨床心理士のカウンセリングによって不安やストレスへの対処法を一つずつ話し合っていくことを大切にしています。また、できないことばかりに目を向けるのではなく、長所を伸ばすようにしていかなければいけません。例えば、アスペルガー症候群ならば営業職ではなく技術職を選択するなど、環境を調整していくことも時には必要です。ご自身だけではなく、発達障害かもしれないパートナーの仕事が長続きせず、暴言や暴力を振るわれて片頭痛や体重の増減、無気力などの心身の不調を感じて来院する方もいますので、一度ご相談ください。
少しでも気になることがあれば気軽に心療内科の受診を
この仕事をしていて良かったと思うのはどんな時ですか?
仕事や職場で強いストレスや悩みを抱えながら働いている患者さんは増える一方です。メンタルヘルスの不調から休職している方も少なくありません。私自身、企業で働く方たちの健康管理についても専門的に研鑽を積んできたので、開院当初からそのような患者さんを数多くサポートをしてきました。例えば、休職していた方が久しぶりに社会復帰でき「先生に診てもらえたおかげです」などと言ってもらえたら、本当にうれしいと思います。リラックスした状態で身体感覚に集中して、普段とは違う物の見方へと導くマインドフルネスを用いたアプローチなどもしているので、復帰後もストレスなどを感じたら気軽に来てほしいです。
先生ご自身のストレス発散法はありますか?
野球が大好きで大学時代は野球部に所属していましたが、さすがに今は観戦がメインです。ドームやスタジアムに行って大歓声の中で応援すると、ものすごくスッキリしますね。最近は忙しくてなかなか現地に足を運べないのが残念です。患者さんにもいつもお伝えしているのですが、自分なりのストレス発散法を見つけるのはとても大事です。野球でもテニスでもバスケットボールでも、お笑い番組を見ることでも、何でも構いません。愚痴を言うだけでもストレス解消になりますし、しゃべる相手がいないならば、私や臨床心理士に聞かせてください。一人で抱え込まないことが何よりも大事です。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
腹痛や熱がある時は内科へ行くように、心の不調を感じたら気軽に心療内科を受診してください。「やる気が出ない」「人間関係がうまくいかない」「なかなか寝つけない」そんなお悩みでもかまいません。町のメンタルクリニックの良さは、買い物ついでや会社帰りに立ち寄れるところです。ご自身はもちろん、ご家族に気になることがあれば、遠慮せずにご相談ください。お子さんの引きこもりや不登校、親御さんの認知症など、ご本人の来院が難しい場合は家族相談も行っています。繰り返す頭痛や胃痛の原因がストレスだったという例も少なくありません。内科的な治療が必要と診断されれば他院への紹介も行っていますし、体調不良の際は「まずは心療内科を受診する」という選択肢もあることを、伝えていければと思っています。