北川 容子 院長の独自取材記事
成城ハートクリニック
(世田谷区/成城学園前駅)
最終更新日:2025/04/10

小田急線の成城学園前駅から徒歩1分ほど。「成城ハートクリニック」は成城通りに面したビルの一角にある。大学病院や地域の中核病院の循環器内科で、狭心症や心筋梗塞など急性疾患の診療経験を重ねた北川容子院長が、2016年に開業。心臓などの循環器に悩みがある患者を中心に幅広い層が訪れている。2025年には院内の機器を一新。受付から会計までをシステム化し、院内での待ち時間の短縮に役立てている。北川院長は、「シンプルにできることは効率化し、患者さんとの対話の時間を増やしたいですね」と話し、患者の不安な気持ちに寄り添う。診療の心構えや患者への思いについて話を聞いた。
(取材日2025年3月6日)
DX化で効率性を追求し、患者と接する時間を増やす
開業時から、何か変化はありましたか。

大きなところでは、患者さんの待ち時間を減らすために、新たなシステムを導入しました。これは受付から会計までをアプリで管理し、患者さんにアプリをダウンロードしてもらえばすぐに会計ができるシステムです。現金でもクレジットカードでも会計ができますし、待ち時間の短縮にもつながります。若い方はもちろん、ご年輩の方も意外と抵抗がないようで、積極的に使ってくださっています。また同時期に、心臓のエコーや心電図などの機器も新しくし、画質も格段に良くなりました。効率化し余裕ができたことで、患者さんへのサービス面をもっと充実させたいと思い、その取り組みの一環としてスタッフがSNSへの投稿を始めました。駅から当院までの道筋を動画で案内するなど、頑張ってくれています。今後は健康についてなどもっと広く発信していきたいと考えています。
どのような症状・疾患に対応されているのでしょうか。
心不全や狭心症、不整脈、動脈硬化など、私の専門である循環器疾患はもちろん、風邪、気管支炎、気管支喘息、頭痛、高血圧や脂質異常症、糖尿病などを含む生活習慣病まで、一般的な内科疾患は基本的にすべて診ています。そのほかに、動悸は更年期障害の症状の一つですので、循環器内科で診る機会も多いです。睡眠時無呼吸症候群や女性の排尿障害、骨粗しょう症なども診ています。月経トラブルに悩む中高生など若い方も多く、学生さんからお年寄りまで幅広い年齢層の方を受け入れています。加えて最近では、病院や他のクリニックから患者さんを紹介されたり、またこちらから患者さんを紹介したりといった医療連携にも力を入れています。どの先生も広い視野をもって知識のアップデートを欠かさない方々なんです。異なる専門性を持つ町の複数のクリニックが密に連携を取り、町全体で一つの総合病院のような役割を果たすことができればと考えています。
最近、特に気になる症状はありますか。

この辺りにはご高齢で一人暮らしの方や、ご家族と同居でも昼間はずっとお一人といった方が多くいらっしゃいます。そういった方々の中には、お元気でいらっしゃっても、家の中でじっと1人で過ごす時間が長く、歩く機会が減り、足が弱ってくるケースがあります。出かける先が病院ぐらいしかないんですね。そういう方々には、デイサービスのような場所に行って運動をするようにお声がけするようにしています。抵抗のある方も、いざ行ってみると楽しいと感じるはずです。もちろん運動も大事なのですが、コミュニティーに入って人と関わることを、絶やしてはいけないと思うんですね。病気を診るだけでなく、QOLやADL(日常生活動作)が良い状態に維持できるよう、一歩も二歩も手前から対策を考えるのもわれわれの務めだと思っています。
患者の困り事を引き出せるような診療を
診察の際、心がけていることは何ですか。

患者さんが何に困っているかをきちんと聴き取ることですね。ご本人の中で何が一番引っかかっているのか頭の中で整理できず、診察では本当に言いたいことがうまく話せないというケースも多いものなのです。まずは何でも患者さんに話してもらって、「これが気になっているのでしょうか?」、「ここを直したらいかがでしょう?」と、患者さんの困り事を引き出し、解決につなげることが医師の役割だと思います。特に、若い10代の患者さんなど、病気についての情報も少ないですし、うまく表現できない場合もあります。なので、こちらから「こういうことなのかな?」と整理しながら、どんどん引き出していくように努めています。中には、事前にインターネットで症状のことを調べたり、この病気なんじゃないかと思ってから来る方もいらっしゃいます。どんな情報を見て、どのように解釈したのかといった部分まで理解するように努めています。
勉強会によく参加なさっていると聞きました。
そうですね。大学病院にいた頃よりも、たくさん勉強会に出席しているかもしれませんね。開業してからの勉強会は、大きなデータを扱いながら研究していた病院時代とは異なり、日々クリニックに来られている患者さんたちに自分が抱く疑問がスタートにあるので、より身近です。切実な課題を目の前にして勉強することはとても身になりますし、意欲も湧いてきます。
院内のデザインでこだわった点などはありますか。

医療機関というと、普通は白くて清潔な雰囲気で、オーソドックスなデザインの椅子が置いてあるなど、いかにも「病院に来た」という印象になりますよね。そういう印象を払拭したいと考えたのです。ホテルのラウンジのような空間にすればリラックスできるかなと思い、参考にしています。落ち着いたブラウンを基調とし、窓から入る自然光を生かして照明はまぶしすぎない優しいニュアンスのものにしました。壁面の絵は、患者さんが作者の方を連れてきて「ぜひ飾ってほしい」と言われいただいたものなんです。一目見てしっくりきたので、飾らせていただいています。
自分と向き合うことを大切に
医師をめざしたきっかけと、循環器を専門に選んだ理由を教えてください。

父が医師だったのですが、兄がいたので兄が医師になるだろうと思い、私自身は最初は医師をめざしていませんでした。芸術系の領域に興味があり、将来はその方面を考えていたんです。父を見ながら、医師は日常的に生死と関わる特別な仕事だという認識はありました。その父がある時、私に脈を取ってもらって死にたいと言ったんですね。物事には縁というものがあるのか、抗ってもそちらの方向へ進むように導かれていったような気がしています。循環器内科を選んだのも、一つは父の勧めがあったからでした。今後高齢者が増え、重要になる仕事だと先のことが見えていたのかもしれませんね。それと、臨床研修で配属になった病院では、緊急性のある患者さんのもとへ、循環器の先生方がすぐに集まってこられることがよくありました。労を惜しまず、フットワークが軽い先生方に憧れ、循環器内科の道に進もうと思いました。
お忙しい毎日かと思いますが、休日は何をされていますか?
数年前に登山を始めました。もともと股関節や腰を悪くしていたので登山は諦めていたのですが、新型コロナウイルス感染症が多かった時期に筋力トレーニングを始めてからだんだんと元気になって、ある時、主人が低山に登るというのでついて行くと意外に歩けたんです。朝もやの雨の中、杉木立の道を歩いている時、「これか!」と何か感じるものがありました。それからは、暇さえあれば山へ行っています。歩いている時は考えを整理したり、逆に頭を空っぽにしたりすることができるんです。登っていると息が上がりますが、肉体的にきついことをするとリフレッシュできるんでしょうね。山ではけっこう危ない場面にも出会うので、生死に向き合っているとも感じます。山ライフは、私にとって仕事とともにある大事なものですね。また、体に故障があっても、鍛えれば何歳でもチャレンジできるということも確認できました。
読者に向けて、メッセージをお願いします。

世の中には家事や仕事など、きちんとしないと気が済まないタイプの人がたくさんいます。特に中高年の女性には、きちんとできていないことにストレスを感じやすい方が多いように思います。そういう時には、家事や仕事と全然関係のないこと、例えば趣味などを一つ持っていると良いのかもしれないですね。私の場合はそれが山です。もし、家族がいなくて、会社もなかったら、あなたは何が好きですか? 何をしたいですか? 自分にそういう問いかけをして、自分の生き方を探していくと良いのかなと思います。そうやって自分を見つめ、自分に向けてアドバイスすることが、心身とも健康に生きるためのヒントになるかもしれませんね。