井ノ上 馨之 理事長の独自取材記事
いのうえこどもファミリー歯科
(奈良市/富雄駅)
最終更新日:2025/07/29

奈良交通バス・杵築橋バス停のすぐ近く。スーパーなどの商業施設と併設する医療モールの中に「いのうえこどもファミリー歯科」はある。同院では予防歯科と矯正歯科を柱に、子どもから大人まで幅広い年代の歯科診療に対応。井ノ上馨之(よしゆき)理事長は、2015年の開業当時から「患者さんの大切な時間を無駄にしないように」と完全予約制を導入し、患者1人ひとりの診断と説明にしっかりと時間をかける。これは井ノ上理事長が幼少期に悲しい経験をしたことから、同院のモットーにもなっている。今後の治療方針を間違わないよう、そして患者が治療方法を選択できるよう、診断と説明が重要視されているのだ。われわれのインタビューに対し、一言一言丁寧に答える姿から、患者にも同じような姿勢で接しているであろうことが想像できた。
(取材日2025年6月6日)
自身のつらい経験が繰り返されないよう歯科医師の道に
歯科医師をめざしたきっかけを教えてください。

人の役に立ちたいという思いが昔からあったのと、健康であるためには不自由なく食事ができることだと考えて、歯科医師をめざしました。実は私には永久歯が1本足りていないのですが、小さい頃に「生え替わりの時期だから」と健康な乳歯を抜かれてしまったんですね。今はブリッジで歯を入れています。ただ子どもの時に歯を削ってブリッジを入れてしまったので、ブリッジの部分に虫歯が見つかり、結局神経の処置をすることになりました。永久歯が生えてこないという症状は決して珍しくないんです。永久歯が生えてこないからと、本当に乳歯を抜いてしまって良かったのか。ブリッジ以外の方法はなかったのか。今でも考えますね。そんな経験から、これから育つ子どもたちに私のような経験をしてほしくないと思い、歯科医師をめざしました。
開業して大変だったことはありますか?
当院は患者さんをお待たせしないために完全予約制を取り入れています。しかし、完全予約制の歯科医院というのは開業当時珍しく、患者さんにはハードルが高い歯科医院だと感じられたようで、最初は苦労しました。でもやり続けることは大事ですね。今では皆さん予約を取ってくださいますし、予約の時間に遅れないよう気をつけてくださっています。こちらがきちんと時間を守ることが前提ですが、おかげさまでほとんど待っていただくことはなく、あっても2~3分ほどですので、これからも徹底していきたいですね。
完全予約制は患者さんにとってのメリットが大きそうですね。

忙しい方が多いので、待ち時間が短く、時間を有効に使えるのは喜んでいただけていると思います。また、働く側としても、決まった時間で治療が行えるのは働きやすさにつながります。スタッフのお話も少しさせていただくと、当院にはベテランのスタッフが多く、互いにコミュニケーションを取りながら、いい雰囲気の中でそれぞれの役割を担って働いてくれています。新しいスタッフにもベテランスタッフがしっかりと指導してくれるので、こちらとしても助かっていますね。
診断と説明を重要視。小児歯科の難しさも考える
治療する上で心がけていることはありますか?

どんな治療をするか選択をするのは患者さんですから、しっかりと説明するようにしています。これはどんな患者さんに対してもそうです。中には「すぐ治療してほしい」という患者さんもいらっしゃいます。歯科医師によっては何の説明もせずすぐに治療を始める人もいるでしょう。しかし、治療した後に「こんな治療法もあった」とわかっても遅いんです。治療費用を抑えたい患者さんもいれば、自費診療で構わないからいい素材や技術を使ってほしい患者さんもいらっしゃいます。患者さんの希望と状態に合致する治療方法を可能な限り探し、それを説明して患者さんに選択してもらうのが、私の理想とする歯科医師の姿です。
診断を大事にしていると伺いました。
当院では、メンテナンスの継続だけでどれだけ健康な歯を維持できるか、ということに重きを置いています。そのための前段階として、患者さんの口腔環境や歯の状態などの診断をかなり重要視しているため、診断にとても時間をかけているんです。よって初診では、痛みのある患部を応急処置する以外の処置はしていません。初診では患者さんのお話を聞き、説明するだけです。この部分も、開業当初はご理解いただけないケースもあり、苦労しましたね。それでもこのスタイルを続けているのは、私の中で初診が大事であるという意識があるからです。診断と説明に時間をかけることが大切だと思っています。
小児歯科も標榜していらっしゃいますが、子どもの治療で難しい部分はありますか?

治療の質以外が関わってくることですね。例えばお子さんが嫌がって治療できないとき、押さえつけてでも治療するか、お子さんが治療できるようになるまで待つか、そんな選択が出てきます。この場合、当院では何度か来院してもらい、スモールステップを踏んで成功体験を重ねながらお子さんが治療できるようになるまで待つようにしています。それから、いずれ抜ける乳歯を治療するかどうかの選択など、どれも大人にはない、治療の前段階でストップすることが少なくありません。それに治療方法などを選択するのは親御さんがほとんどです。そうするとこちらの意図が親御さんに伝わっていないこともあるので、そこも難しいですね。壁は多々ありますが、治療を終えたお子さんの笑顔を見られると、私もうれしくなります。これからも試行錯誤しながら続けていくつもりです。
予防と矯正で、家族みんなの歯と口の健康を守る
今後の展望を教えてください。

ファミリーという名前のとおり、ご家族皆さんで通っていただき、お子さんが成長されて、またそのお子さんにも通っていただけるような歯科医院にしたいですね。当院が得意とする予防と矯正歯科にもつなげていけたらと思っています。予防と矯正歯科のどちらかに特化した歯科医師は多いと思いますが、両方できる歯科医師は少ないように思うので。歯列矯正は方法によって虫歯が増えてしまう原因にもなりますし、歯列矯正でワイヤーを入れると、どうしても歯磨きがしにくくなるんです。実際に歯列矯正で虫歯になった経験がある方も多いと思います。また、歯列不正を改善することは、審美面だけでなく、虫歯や歯周病の予防にもつながります。お子さんだけでなく、成人された方の歯列矯正も行っていますから、気になる方はお気軽にご相談ください。
健康志向の高まりで、歯への意識も高まってきているように思います。
そうですね。当院でも治療の頻度は減っていて、予防やメンテナンスがメインになってきています。加えて歯列矯正を希望される方も多いので、歯並びに影響を与えるお口の機能的な習慣についても、今後意識を高めていけたらと思っています。診療の際には、食べ方や唇の形も診ているのですが、なぜ診るのかというと、それをうまくつくれていないお子さんが今すごく多いということもあります。例えばクチャクチャと音を立てて食事をするお子さんは、行儀が良くないということだけじゃなくて、実はそうやらないと食べられない、舌の使い方がちゃんとできていないケースがあるんです。他にも、いびきや歯ぎしりなど、口全体にまつわる相談も増えてきています。矯正と併せて口腔機能のトレーニングにも介入していくことで、歯の健康だけでなく口全体の健康も守っていきたいですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

最近のお子さんは習い事が多くて歯科医院の予約が取りにくいことも多いと思います。だからこそ、時間をきちんと守れているクリニックで受診していただくことをお勧めします。お子さんの歯列矯正についてはまだ知られていないことが多く、「様子を見ましょう」と言われた経験がある方もいらっしゃると思います。でも様子を見ているうちに歯が生え替わることもあるので、気になったら早めに来院いただきたいですね。それから歯列矯正でなくても、永久歯に生え替わる5歳~6歳になったら、永久歯に異常がないか確認するために一度来院されることをお勧めします。近年、お子さんと一緒に親御さんも歯列矯正を始められる方が増えてきました。当院では子どもも大人もマウスピース型装置を用いた矯正を導入しています。ワイヤーのみの歯列矯正よりもメリットが多いと思いますので、気になる方やこれまで諦めておられた方も一度ご相談いただければと思います。
自由診療費用の目安
自由診療とは一期矯正/41万8000円〜、マウスピース型装置を用いた二期矯正/33万円~、乳歯の反対咬合/6万6000円、成人矯正/77万円~