松原 清二 理事長の独自取材記事
まつばらホームクリニック
(西東京市/保谷駅)
最終更新日:2026/05/22
西武池袋線・保谷駅から徒歩3分の場所にある「まつばらホームクリニック」は、訪問診療を中心に行う在宅療養支援診療所だ。理事長の松原清二先生は、大学病院などで循環器内科医として勤務する中で在宅医療の重要性を考えるようになったという。2015年には同院を開業。自宅にいながら病院と同等の検査や治療を提供できるようにと、心臓病や認知症、がんなどを患う患者を中心に訪問診療を実施。行政や医療機関とも連携し、緩和ケアや、認知症サポート医として、認知症の患者や家族へのサポートにも取り組む。「家には患者の心を癒やす大きな力がある」。地域のかかりつけ医として幅広い疾患や症状に対応する同院の在宅医療について、松原先生に話を聞いた。
(取材日2026年4月16日)
安心できる自宅で病院と同等の診療を受けられるように
在宅医療を行うクリニックを開業した経緯を教えてください。

もともと大学病院や総合病院に循環器内科医として勤務し、心不全などの患者さんを多く診てきました。特にご高齢の患者さんでは、入院すると認知症が進行してしまうことが多いと感じていました。付き添うご家族も、入院が長引くにつれて疲弊されることが多く、そのような状況を目の当たりにして「ご自宅で過ごせたほうが良いのではないか」と考えたのが、在宅医療に取り組むことになったきっかけです。実際に勤務医として訪問診療に取り組んでみると、在宅でできる治療の範囲が限られていることを実感しました。そこで、家にいても病院と同等の診療が受けられる設備や体制を整え、自分の経験を患者さんに還元したいと考え、2015年に開業しました。
クリニックでは、どのような在宅医療に取り組んでいるのでしょうか?
移動が大変な方、定期的な通院が困難な方などを対象とし、数多くの患者さんに定期的な訪問診療を行っています。心不全や認知症、がん、神経難病などの患者さんが多いですが、町のかかりつけ医として地域のニーズに応えるべく、高血圧症や糖尿病などの慢性疾患の管理から、薬の調整、ケガや褥瘡(床ずれ)の手当てまでする、もう「何でも屋さん」ですね(笑)。携帯型エコーやエックス線撮影装置、タブレット心電計などの検査機器も装備し、検査に精通する臨床検査技師や看護師、診療アシスタント、社会福祉士、ケアマネジャー、運転手など、20人ほどの多職種チームで取り組んでおり、病院の外来診療でできる検査や治療は、ほぼできると考えています。もちろん、さらに精密な検査や高度な治療などが必要な場合には、連携する医療機関にご紹介しています。
診療において大切にしていることを教えてください。

病院での診療や入院には一定のルールがあって、それは必要なことではありますが、決まった時間にこれをしなければいけないとか、ベッドにいなければならないなど、患者さんが負担を感じることもあるかと思います。慣れ親しんだ場所で生活しながら医療を受けられるなら、患者さんやご家族にとってそれが良いこともあるのではないかな、と思うのです。ただ、患者さんそれぞれに治療へ求めることや「どう生きたいか」という考え方はさまざまです。特に長く病気とお付き合いしてきた方の中には「もう疲れたからあまり治療はしたくない」と考えられる方もいます。ですので、できることの「引き出し」は多く持ちつつ、医療者側の押しつけにならないよう、患者さんと十分に相談しながら、治療の決定はなるべく患者さんにしていただけるよう心がけています。
病気や治療だけでなく生活や家族も含めたサポートを
患者さんだけでなくご家族のケアも重視しているのですね。

やはり、ご家族にも不安なお気持ちはありますよね。ですから、ご家族の不安が具体的に何に対する不安なのか、例えば、この先の病気がたどる道や症状に対する不安なのか「買い物に行けない」「夜寝られない」など生活が制限されることについての不安なのか、仕事に行けないことや治療費などによる経済的な不安なのか。できるだけ丁寧にお話を聞いて理解すること、その上で、必要に応じて適切なサポートにつなげることが大事だと考えています。
緩和医療も行っているのですね。
痛みや息苦しさが和らぐように、お薬を出すなど医療的な緩和ケアもしていますが、それに加えて重視しているのが、丁寧にお話を聞くことです。例えば、食事一つ取っても、入院中はいろいろ制限もあって好きな物が食べられないと、それをつらく感じる方も多いと思います。家で過ごせて、好きな物を食べられて「ああ、良かったな」と喜んでもらえたら、「在宅医療を導入できて良かった」とうれしく感じます。緩和医療では、身体的なつらい症状を取ることも大切ですが、それだけでなく「家にいられて良かった」「家族と過ごせてうれしい」「ごはんを食べられて良かった」と、そのように思えることを一つでも増やせるように、対話をして患者さんの望みをくみ取ること、そして、その方の生活や生き方を尊重したケアができることが大事だと思っています。
認知症の診療にも積極的に取り組んでいると伺いました。

約10年前に開業した頃と比べても、認知症の患者さんはとても増えていると感じます。疾患の種類は異なりますが、高血圧症や糖尿病などと同じようによく知られた病気の一つになっていると言えるでしょう。医療的には、病気の種類や進行度を評価し、適切な治療をすることになりますが、認知症の方は、例えば3年間お風呂に入っていない方や、物を片づけられないという方もいらっしゃいます。そういう方の中にはフットケアもまったくできていないために、足の爪が90度ぐらい曲がってしまっているというような方もいます。ですから、そういう方には、まずはフットケアをしながら身体的なケアに少し興味を持ってもらって、そこから、毎日着替える、お風呂に入る、片づける、そういうことができるように、生活や環境を整えるためのサポートも一緒にしていくことが必要だと考えています。
家には心を癒やす大きな力があると知ってほしい
行政や他の医療機関とも積極的に連携しているのですね。

ご高齢の方や認知症の方の診療は医師だけでできるものではなく、医療・介護・行政を含む多職種で連携し、ご家族や生活面も含めた支援が必要です。当院でも、地域包括支援センターや、認知症の支援体制として西東京市が行う「認知症初期集中治療チーム」事業などと連携して、認知症患者さんの診療やご家族のサポートにあたることもあります。医療機関については、より精密な検査や入院治療などが必要な場合に連携する医療機関に紹介するほか、「東京都立多摩北部医療センター」の血液内科の先生が2人、非常勤で来てくれています。その先生方が入院中に診ていた患者さんを、退院後に在宅でも継続して診たり、連携する医療機関と検査データなどの診療情報を共有できたりすることで、スムーズな診療と、患者さん・ご家族の安心につながればと思いますので、今後はもっとそのような医療機関を増やしていきたいですね。
コラムや動画配信などで情報発信をしているのはなぜですか?
最初は、在宅医療について市民の方々に知っていただきたいという思いから、タウン情報誌にコラムを掲載してきました。ただ、文字を読むのが大変という方もいらっしゃるので、最近では動画配信サイトでも情報発信しています。在宅医療の現状をお伝えするほか、認知症患者さんのご家族や、がんでご家族を亡くした方の体験談なども紹介しています。私の信念として、在宅医療というサポートの方法もあること、何より「在宅医療って良いものだよ」ということを伝えたいという思いがあります。そして、在宅医療では患者さんだけでなくご家族もみることが大切なので、同じ境遇の方の体験談にふれることで少しでもご家族の心を軽くすることにつながれば、という思いもあります。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

循環器疾患という自分の専門だけでなく、町のかかりつけ医として基本的な病気の標準的な治療はできるように努力を続けたいです。それが医師としての責務だと思っていますし「80歳90歳になっても、認知症になっても、この町に住んでいれば安心」と思ってもらえるような地域にしていきたいですね。患者さんが住み慣れた家で自分らしく生活できるように。ご家族も、自分たちの生活を守りながら患者さんを支えていけるように。これからも在宅医療というかたちで地域医療を支えていきたいと考えていますので、何かあればご相談いただけたらと思います。

