加藤 吉晴 院長の独自取材記事
かみあわせナゴヤデンタルクオリティ
(名古屋市中区/金山駅)
最終更新日:2021/10/12
金山駅から徒歩約5分。川沿いに建つ4階建てビルの2階に「かみあわせナゴヤデンタルクオリティ」がある。ビルの入り口に看板があるものの、それ以外にはクリニックであることを示す表示はない。完全予約制による自由診療のみで診察にあたるのは、敬虔なクリスチャンでもある加藤吉晴院長。スタッフは置かずに受付から診療・技工まで、全てを先生一人でこなしている。診療台も1台のみで、患者を一人ずつ診察。併行同時診療は行わない。外観を目立たせないのは、マンツーマンの診療を邪魔されたくないからだという。クリニック名が示すように「噛み合わせ」とそのクオリティに対して徹底的にこだわった診療で独自のスタイルを築き上げた加藤院長に、いろいろと話を聞いてみた。
(取材日2016年7月19日)
噛み合わせは、バランスあわせとモノづくりと考える
開業は1983年とお聞きしましたが?
もう30年以上になりますね。開業からこの場所で、最初は「加藤セントリック歯科診療所」という名称で始めました。セントリックというのは、噛み合わせの専門用語です。その後私がクリスチャンになって、「神の愛診療所歯科」という名前に変更しました。信仰を持って何年かしてから「心・肉体・歯」を合わせた名称にしたいと考え、「神の愛(心)・診療所(肉体)・歯科(歯)」という言葉をつなげたんです。その後、もう一度噛み合わせに関した名前に戻したくなり、現在の名称に変更しました。最後を「クオリティ」としたのは、「質にこだわる」という意味からです。
歯科医師をめざしたきっかけを教えてください。
近所に歯科医師がいたことと、そして大学で何か資格を取りたいと思ったのがきっかけです。大学在学中に噛み合わせについて興味を持ち、卒業後に東京の研修研究機関で噛み合わせを学びました。元々「モノづくり」が好きだったことも、義歯・入れ歯を作ることにつながっています。歯を治すということは「治療」というより「修理」に近い一面があります。歯科的には「修復」と言うんですが、「形を元に戻す」ことが治療なんですね。歯の場合は自然治癒はありませんから、欠けてしまったら人工物で修復します。そういった治療の工程は、他の病気やけがとはかなり違います。しかも最終的な噛み合わせがどうなるかは、修復物を作る医師や技工士の腕にかかっている。つまり歯科の歴史というのは、モノづくりの歴史でもあるわけです。
それで噛み合わせとものづくりがつながるんですね。
私が受験した当時は、国家試験にも入れ歯作りという実技科目がありました。私が受けた3、4年後ぐらいでなくなりましたが。現在は歯科技工士さんに依頼する歯科医師がほとんどとなりました。「先生、自分で作るんですか?」と驚かれることもありますが、私は現在も自分で入れ歯を作っています。それは自分が好きで、楽しいからやっているのです。従来は歯型を取り自分で作っていましたが、現在はデジタル・デンティストリーと言って、スキャンした画像をコンピューターでデザインし、切削加工機で削り出して作ります。歯型を取る必要がなく、その日のうちにできあがります。ただし、品質を決定する最後の仕上げは自分でやります。その噛み合わせの仕上げの技術に、当院の強みがあると自負しています。
歯の寿命を左右するのは「虫歯、歯周病、噛み合わせ」
噛み合わせの治療でいらっしゃる患者さんが多いんですか?
来院される患者さんは、噛み合わせの重要さがわかっている方ですね。歯の寿命を左右するのは、「虫歯、歯周病、噛み合わせ」の3つなんです。噛み合わせについては、何かを噛むと歯に力がかかるでしょ。その負担が上手く解消できていないと、歯の寿命を縮めることにつながります。例えば下の前歯が歯周病になることが結構多いんですが、いちばん磨きやすい歯なのに何故歯周病になりやすいかというと、原因のひとつが噛み合わせなんです。噛み合わせが悪く歯に負担がかかっていると、いくらきれいに磨けていても、歯が動いてしまい、歯周病になることがあるんです。一般的に歯の健康には、虫歯と歯周病が大事だと言われてきましたが、私としては「噛み合わせに対する力のコントロールも重要です」と言いたいですね。
確かに、噛み合わせの重要さが取りあげられる機会は少ないですね。
歯科大学病院などに行くと、虫歯なら保存科、歯周病なら歯周病科にかかります。噛み合わせはどの科にも関連しているので、ほとんどの科で診てくれますが、診断や治療の方針は統一されていません。さらに視野を広げると、頭痛や肩こりとも関係があるので、歯科だけでなく医科の領域にもまたがっています。そういった関連性や重要性を、患者さんに有益な情報としてもっと提供したいんですが、噛み合わせに関しては、まだ統一された見解がありません。それは噛み合わせの本質が解明されていないからです。「噛み合わせがこうなっていると頭痛が起きる」とか「この噛み合わせは肩こりの原因になる」といった因果関係を整理したデータを、まだ誰も持っていないんです。
それは先生が研究されてきたことでもあるんですね。
ひとつの糸口は、自分での体験です。誰でもひとつは噛み合わせを持っているわけですが、他の人の噛み合わせは体験することができない。それなら体験してみればいいのではないかと考えて、わざと異常な噛み合わせになるかぶせ物を作り、自分でつけてみたりということを、30年近く前からやっています。それで因果関係がわかれば、診療に役立てることができると考えたんです。そうやっているうちに、噛み合わせが身体や精神面に与える影響が少しずつわかってきて、自信の裏付けになりました。また、加齢による噛み合わせの変化もあるので、それもわかった上で、正しい噛み合わせになるようなかぶせ物も作ってきました。そういった体験から、噛み合わせをどうすればいいか、ある程度は解明できたと思っています。
ここは「茶室歯科」。私は茶室の亭主のようなもの
現在は自由診療のみを行われているんですね。
1989年に保険診療を止めて自由診療だけにしました。私は「安くていいものはない」と思っていて、質のいいものにはそれなりの代価が支払われるべきだと考えています。つまり診療の評価と金額が釣合っていることが重要なんです。そのために、自分もいいものを提供するように一生懸命やっていますし、患者さんもそれに対して納得できる金額を支払っている。自由診療というと、お金持ち相手の診療のように受け取られることもありますが、決してそういうことはなく、治療の内容も特殊なものではありません。現在まで自由診療のみで続けてこられたのは、来てくれる患者さんの理解のおかげです。責任治療でお返ししなければ決して続けられなかったでしょう。
スタッフを置かずに先生一人で全てやられているんですか?
最初はスタッフも雇っていました。でも保険診療で1日20人患者さんを診るには人手が必要でも、自由診療で1日5人ぐらいだったら、全部自分だけでできると思い、一人でやることにしたんです。治療も技工も受付も掃除も、全部一人でします。自分ではこの環境を「茶室歯科」と呼んでいるんですが、私は茶室の亭主のようなものです。狭いけれども無限の広がりがある世界で、一人の患者さんをお待ちし1対1で向き合って、治療を行うわけです。一人で全てを手がけ、責任も全部自分が負う。患者さんのほとんどは他の方からの紹介で、その中には噛み合わせで悩んでいる歯科医師もいらっしゃいます。住んでいる場所の割合だと、名古屋市内や市外、県外からの患者さんが3分の1ずつぐらいですね。遠い所ですと、国内では石垣島、国外からも、スイス、ドイツから来られる患者さんもいらっしゃいます。
最後に、読者の方に向けて何かメッセージはありますか?
歯に関しては、治療して終わりではないということです。病気やけがの場合は、治れば病院に行く必要はなくなりますが、歯科はそうではありません。症状がなくても、自分で気づかないところをチェックしてもらうために行く必要があるんです。最初に歯科医師にかかる原因はいろいろだと思いますが、それが解決したところから、歯科医師との本当のつきあいが始まります。噛み合わせは、一定でも固定でも不変でもありません。噛み合わせは、「力」によって変わります。長い間、噛んできた「減り」によって変わります。だから、噛み合わせの健康チェックと、必要があれば噛み合わせの調整をして、自分の歯はもちろん、人工の歯もいっしょに、歯を長生きさせるのです。