野中 玲子 院長の独自取材記事
金町耳鼻咽喉科クリニック
(葛飾区/金町駅)
最終更新日:2024/07/05

金町駅から徒歩1分、この地で大正時代から続く「金町耳鼻咽喉科クリニック」を訪ねた。現院長の野中玲子先生は、同院を開設した曽祖父の代から数えて6代目。「医師と患者さんの関わり方も時代とともに変わってきましたが、診療にあたっては『もし自分がこの患者さんの立場だったら……』という視点を変わらず大切にしています」と語り、患者目線に立った温かな診療を実践してきた。施設は老朽化に伴う建て替えで医療ビルとして生まれ変わり、2023年12月にリニューアルオープン。患者を見守り続けてきたクリニックの歩み、リニューアルした院内のこだわり、耳鼻咽喉科の中でも自身が専門とするめまいの診断・治療についてなど、インタビューでじっくり話を聞いた。
(取材日2024年1月31日)
大正時代から続く地域密着型のクリニック
大正時代から6代続くクリニックだそうですね。

はい。曽祖父が開業し、内科の診療を行っていたのが当院の始まりで、祖父、祖母、父、伯母と続いて、私で6代目です。祖父がわりと早くに亡くなった後、祖母が耳鼻咽喉科の医院を運営しながら父と伯母を育てたと聞いています。その後、父が内科医に、伯母が耳鼻咽喉科医になり、一緒に診療していました。数年前に伯母が体調を崩したことをきっかけに、私が耳鼻咽喉科の診療を担当するようになって、内科・外科の診療を受け持つ父と協力しながら、1つの建物の中に2つの医院があるような形で運営してきました。老朽化に伴う施設の建て替え工事のために、ここ1年ほどは近隣に構えた仮の診療所で対応してきましたが、ようやく新しい建物が完成し、2023年12月からなじみ深いこの場所で診療を再開することができました。
新しくなった院内のこだわりを教えていただけますか?
新型コロナウイルス感染症の流行を経て、医療者側も患者さん側も医療機関での感染症のリスクをより強く意識するようになりました。ですから、そうした観点で患者さんの動線を考え、診療室、処置室、吸入器のブースなど、移動の際に患者さん同士が交錯したり、一ヵ所に何人もの患者さんが滞留したりすることがないように、院内の配置を工夫しました。24時間換気システムを導入したことに加え、特に感染症リスクが気になりがちな吸入器のブースを窓際に配置して換気を徹底し、可能な限り感染症リスクの低減に努めています。また、待合室も広めのスペースを確保して、混雑時も患者さんが密集しないよう配慮したり、ベビーカーや車いすのままスムーズに院内に入って来られたり、お子さま連れからご高齢の方まで安心してご利用いただけるように環境を整えています。
診療にあたって心がけていることは?

「もし私がこの患者さんの立場だったら、どうしてほしいかな?」ということを常に考えていますね。医療機関は誰しも何らかの不調があっていらっしゃる場所ですから、症状に伴うつらさや不安など、患者さんのお話をじっくり聞くことを大切にしています。また、耳の中はもちろん、鼻や喉の奥の様子は自分の体の一部でありながら、自分自身で見ることはできません。だからこそ診察時にファイバースコープや小型カメラで撮影した患部の様子を随時モニターに映し出してお見せし、今どんな状態なのか、どんな処置を受けてどう変化したのか、そういった一連の経過を患者さんの目で確認していただくプロセスを欠かさないようにしています。見えない部分の状態や、これまでよくわからなかった処置を「見える化」することで、患者さんの安心感や治療に対する納得感につながればと考えています。
めまいの検査、補聴器専門の外来にも注力
先生が医師の道を志したきっかけを教えてください。

代々続く家業とはいえ、初めは自分も医師になりたいとはあまり考えていませんでした。そんな中、中学生の頃に3度ほど入院を経験して、自分が患者の立場になり、医師という職業に対する見方が変わったことが一つのきっかけになったように思います。お世話になった医師に対する感謝の念もありつつ、「もし自分が医師になったらこうしたいな」といったことも考えたりしました。もちろん父の影響もありますが、私にとってはどちらかといえば、同性で医師の仕事をしていた伯母の存在が大きかったですね。女性の医師が圧倒的に少なかった時代に、男性医師になんら引けを取ることなく働く姿に憧れていました。
専門はめまいの診療だそうですね。
めまいは平衡感覚の異常で生じることが多い一方、脳梗塞など脳の疾患に起因するケース、ストレスや貧血などの内科的要因から生じる場合もあります。めまいの検査には、CCDカメラを内臓したゴーグル型の検査装置を用いて眼球の動きを撮影し、眼球が左右に揺れ動く眼振の有無を調べます。眼振があれば平衡感覚の異常が考えられる他、もし眼振がなくても内耳障害によるめまいの可能性もありますから、原因を慎重に見極めた上で内服治療を行います。めまいの症状が強いうちは体調が優れないため受診しづらく、落ち着いてからでは眼振が確認できないといったケースもあるため、受診のタイミングによっては診断が難しいという特徴があります。
補聴器を専門に扱う外来にも注力されていますね。

補聴器は眼鏡と同様に、生活の質、いわゆるQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を保つ上で必要なツールなのですが、日本では高価なこともあり、特別な医療機器というイメージが強いですよね。補聴器には音を聞き取る力をサポートする役割を果たすだけにとどまらず、ひいては認知症予防にもつながる道具として注目されています。補聴器を使用すると周囲の音の聞こえの改善が望めるので、ご家族や友人など身近な人と円滑なコミュニケーションを図ることも可能となり、精神の安定、認知症や老人性うつの予防にもつながるといわれています。一昔前は一定程度以上の難聴でなければ補聴器は必要ないと考えられていましたが、軽度の難聴の段階で使い始めるほうがよいといったデータもあります。聞こえづらいことによる不自由を感じている方がいらっしゃいましたら、一度お早めにご相談ください。
患者のQOLの向上を手助けするために
近年話題になっているアレルギーの舌下免疫療法についても教えてください。

スギ花粉症が国民病といわれて久しいですが、アレルゲン物質を少量ずつ体に取り込む舌下免疫療法に取り組む方の割合が年々高まってきました。治療方法も簡単で、毎朝服薬するだけ。ただし、最低でも3年から5年続けなくてはいけないため、その間、経過観察や薬の処方のために毎月1回通院することを負担に感じる方もいらっしゃるとは思います。期待できる効果には個人差がありますし、必ず花粉症の対症療法のお薬を完全に卒業できるわけではないのですが、花粉のシーズンを少しでも快適に過ごしたり、対症療法の薬の量を減らしたりしたいという方にとっては有用な治療法だと思います。毎年スギ花粉でお困りの方は、お気軽にご相談くださいね。
耳鼻咽喉科は乳幼児の来院が多いイメージですが、ご自身の子育て経験も生かされているのでは?
そういった場面もありますね。わが子はもう成人していますから、子育ても一段落した世代ですが、私自身も子どもたちが小さい頃は保育園を利用していました。子育ては苦労も多かったので、薬の処方などを考える際には、親御さんたちにお願いするご自宅でのケアができるだけ楽になるように意識しているつもりです。赤ちゃんを連れて来院される親御さんたちの中には私の娘と同世代の方も増えてきて、もう私も今はおばあちゃん世代なのだなあと、月日の流れをしみじみと感じます。中にはお子さんの耳鼻咽喉科の処置を初めて目の当たりにして、心配される親御さんもいらっしゃるかと思いますが、安全に配慮して適切な処置を行っていきますので、お子さんのそばで励ましつつ、安心して見守っていてほしいですね。
最後になりますが、今後の展望と読者に向けてメッセージをお願いします。

難聴、耳鳴り、めまい、花粉症などは命を脅かすほどの症状・疾患ではないものの、症状のつらさは快適な生活を大きく損なうものです。私たちの主な役割は患者さんのQOLの向上のために手助けすること。患者さんの生活スタイルやご希望に応じて、適切と考えられる治療をご提案します。院内もリニューアルをして広くなりましたから、将来的には、めまいの治療を終えてふらつきが残っているような方を対象にした「めまいのリハビリのための外来」を設置できればと考えているところです。耳・鼻・喉で何か不調がありましたら、些細なことでも我慢せず、お気軽にご相談ください。