小林 徳行 院長の独自取材記事
ホームケアクリニック田園調布
(大田区/田園調布駅)
最終更新日:2024/07/05
大田区近辺で末期がん患者の看取りをする医療機関が限られていたことから、2014年に開院した「ホームケアクリニック田園調布」。院長の小林徳行先生は、同院で訪問診療を提供。大学病院などで麻酔科の医師として約20年間勤務し、さまざまな痛みを診てきた専門家だ。日本ペインクリニック学会ペインクリニック専門医の資格を保持し、硬膜外ブロックや神経ブロックなどの専門的な治療にも対応する。地域包括支援センターやケアマネジャー、訪問看護ステーション、自治体、大学病院などと連携を取り、チーム医療を促進する同院。患者と家族の希望に耳を傾け、より良い治療、あるいは看取りをめざす。取材では、終始穏やかな笑みを絶やさず、言葉の端々から優しさがにじみ出る小林先生の診療に対するモットーや、在宅での看取りへの思いを聞いた。
(取材日2024年5月31日)
365日24時間の訪問診療し、痛みにアプローチ
訪問診療とは、どのような医療なのでしょうか。
訪問診療は通院が困難な患者さんのために、医師が定期的に患者さんのいるご自宅や施設へ伺う医療サービスです。主に、診察・検査・薬の処方などを行います。訪問診療では、できることが限られるのではと思うかもしれませんが、そんなことはありません。総合診療に加え、痛みの治療や緩和ケアも行っています。血液検査や心電図検査、超音波検査もできる上、薬も一般の医療機関と同じものを処方することが可能です。近年は、自宅で過ごすことを希望される患者さんやご家族が増えています。高齢化が進む社会で、今後ますます求められる医療の形といえるでしょう。
クリニックの強みを教えてください。
患者さんの訴えが多い、痛みのコントロールにきめ細かに対応できることです。当院を開院するまで、私は日本医科大学付属病院をはじめ、総合病院なども含めて麻酔科の医師として約20年間勤務し、さまざまな痛みの治療を経験してきました。手術と集中治療中の患者さんの全身管理や痛みのケアを担当し、全身麻酔や局所麻酔、ペインコントロールなど患者さんの病態に合わせて適切な処置を行っていました。そのため当院では、硬膜外ブロックや各種神経ブロックの注射など、痛みをコントロールするための専門的対応も行っています。また、当院には常勤と非常勤を合わせて7人の医師が在籍しています。内科や神経内科、呼吸器内科、消化器外科などさまざまな診療科の専門の医師がそろい、認知症や糖尿病といった疾患の治療を得意とする医師もいるので、患者さんの幅広い悩みに適切に対応しています。
どのような患者さんがいらっしゃるのでしょうか。
年齢層は80~90代が中心ですが、最高齢だと106歳、30代で末期がんを患う方もいらっしゃいます。扱う病気は、主に末期がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や慢性心不全などさまざまです。脊柱管狭窄症などが原因で膝や腰などに痛みが発生し、通院ができずに訪問診療を依頼されることも増えました。また、一人暮らしの高齢者で、1人では外出できない認知症の方も目立ちます。患者さんやご家族は、「こういう病気や状態でも診てもらえるのだろうか」と心配される方も多いように思いますが、まずはご相談ください。主治医に「入院するしかない」と言われた病態の方でも、自宅で過ごすことが可能になる可能性もあります。
チーム医療で情報共有を心がけ、医療提供をスムーズに
訪問診療を始めるまでの手順を教えてください。
まずはお電話でご相談ください。簡単に患者さんの病態を伺いますが、その後、主治医からの詳しい医療情報をいただき、患者さんやご家族と打ち合わせをします。訪問看護ステーション、ケアマネジャー、地域包括支援センター、大学病院などとも、患者さんがつながっていれば連携して対応いたします。入院中の方からのご依頼であれば退院前に伺って、関わっているケアマネジャーなどがいれば同席をお願いしながら、訪問診療の日程を決めます。ご家庭の環境や介護の方針について、全員が共通した認識を持つことが大切なので、時間をかけて打ち合わせをしています。当院は基本的に、月2回程度、医師と看護師の2人で伺うシステムです。ただし末期がんなら週に1回など、患者さんによって対応を変えています。
地域包括支援センターやケアマネジャーなど、外部機関との連携が必要なのですね。
寝たきりや外出が困難な患者さんの医療には、地域包括支援センター、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、ホームヘルパー、大学病院など、多くのサポート機関やスタッフが関わっています。訪問診療には、これらが連携したチーム医療が不可欠なんです。そのため、こまめな情報共有を大切にしています。例えば、こちらが「吸引器や酸素吸入器を入れました」と訪問看護師へ伝えることもあれば、逆に「患者さんの状態が悪いので、診ていただけませんか」と提案された場合は対応します。外部スタッフだけでなく、当院の中でもチームワークを重視しています。事務スタッフから医師まで参加する月1回のミーティングを開催し、すべての患者さんの病態を把握して、共通の認識を持つよう心がけています。訪問診療は関わるスタッフが多いぶん、連絡を密に行うことが必要で、それが患者さんへのスムーズな支援につながっていくのです。
診療する上で、大切にしていることを教えてください。
患者さんの気持ちに寄り添い、傾聴の姿勢を大切にすることです。末期がんの患者さんなど、根治的治療法が尽きて亡くなることを意識される方は、気持ちを整理できない方もいらっしゃいます。「何で自分は死ななければいけないのか」「そもそも自分は何なのだろう」といった不安を多くの人が抱えられているのです。答えが出る問いではないので、ひたすら患者さんの気持ちのはけ口となり、心にたまった複雑な思いを共有するように努めています。また、「このまま、家族のお世話になり続けて良いのだろうか」という悩みを持つ方もいます。そんな時は「緩和ケア病棟という選択肢もありますから、ゆっくり考えましょう」など、必要な情報をお伝えするようにしています。訪問診療を卒業されてもなにか困ったことがあったらいつでも頼ってもらえるような環境を整えることを意識しています。
患者や家族の不安に寄り添い、看取りまで真摯に対応
訪問診療では、ご家族とも接する機会が多いですね。どのようなことに配慮されていますか。
在宅医療をしているご家族は、たくさんの不安を抱えています。そのため、現在の患者さんの状態をきちんとご報告した上で、痛みの発生や呼吸困難など、この先起こり得る症状や対処法を十分に説明しています。緊急の症状が起こると、慌てたり怖がったりすることがあるので、知っているだけでも冷静に対応できたり、落ち着いて私たちへ連絡したりできるでしょう。いつ体調が急変するかわからないので、患者さんやご家族に安心していただけるように、当院は365日24時間、いつでもご相談が可能です。医師が交代で診療に伺う体制を整えています。
どんな時にやりがいを感じられますか?
患者さんのニーズにきちんと応えられたときですね。本当は自宅で最期の時を過ごしたくても、主治医に止められたり、家族にケアをする自信がなかったりと、さまざまな理由で二の足を踏む方も多いでしょう。そんな時は地域のケアマネジャーや訪問看護ヘルパーさんと協力をして、患者さんとご家族をチームで支える提案をします。そうして、患者さんの最期を自宅で過ごす希望をかなえられると、うれしく思います。医師の第一の目的は病気を治療することですが、再発や進行したがんなど手立てのない病気もあります。そんな病気を抱えた患者さんに希望どおりの医療を提供し、人生の最期に立ち会うことも、医師の仕事として重要だと思っています。
今後の展望を教えてください。
当院は大田区、世田谷区、目黒区、川崎市を診療エリアとし、大学病院や地域包括支援センターなどから紹介を受けることも多いです。今後も医療の質を落とすことなく、地域の皆さんのご依頼に対応できたらと考えています。また、「外来診療をしていただけませんか」という患者さんの声もあるので、ご相談くだされば予約で対応することもあります。私の専門とするペインクリニックや、内科領域もできる可能性を考え、今後は外来診療を設けることも検討しています。幅広い地域の皆さんにより良い医療を提供できるように、いっそう力を尽くしていきたいです。