小林 徳行 院長の独自取材記事
ホームケアクリニック田園調布
(大田区/田園調布駅)
最終更新日:2025/12/12
2014年に開設された「ホームケアクリニック田園調布」は、大田区・世田谷区・目黒区・品川区・川崎市エリアを中心に訪問診療を行うクリニックだ。大学病院などで麻酔科の医師として約20年間勤務し、痛みの治療の専門家でもある小林徳行院長をはじめ、神経内科や呼吸器内科、消化器外科、総合診療科などさまざまな専門分野の医師が在籍し、365日24時間体制で、通院が難しい患者の在宅療養を支えている。「訪問診療は“最後の手段”ではありません。早めに利用することで訪問診療を“卒業”される患者さんもおられます」と、話す小林院長に、同院の特徴や強みとする痛みのコントロールなどについて、話を聞いた。
(取材日2025年9月19日)
365日24時間体制の訪問診療で在宅療養をサポート
開業の経緯を教えてください。

開業前は大学病院や総合病院で麻酔科医として20年以上勤務しました。訪問診療に関心を持つようになったきっかけは、大学病院で緩和ケアを担当したことです。当時は、ペインクリニックでがん患者さんの痛みの治療を依頼されることもありましたが、緩和ケアについては理解が十分でなく、まずは勉強会に参加するところからのスタートでした。やがて緩和ケアの外来を担当しつつ、自ら企画責任者として勉強会を開くようになり、その中で訪問診療に取り組む先生方と出会いました。それまでは、病気の治療は病院で行うものだとしか思っていなかったのですが、多くの患者さんが病院ではなく自宅での療養を望んでいることを知り、自宅でできる医療について考えるようになったのです。その後は大学病院に勤めながら訪問診療クリニックで非常勤として経験を重ね、最終的に大学病院を退職して、2014年に開業しました。
訪問診療とは、どのような医療なのでしょうか?
訪問診療とは、通院が困難な患者さんのご自宅や施設に医師と同行の看護師が定期的に伺い、診察・検査・薬の処方を行う医療サービスです。限られたことしかできないと思われがちですが、総合的診療に加えて痛みに対する治療や緩和ケアも行い、血液検査や心電図、超音波検査も可能です。薬も医療機関として処方できます。在宅医療イコール看取りという印象を持つ方もおられると思いますが、訪問診療を受けて病状が回復できれば、再び通院に切り替えることもできます。一人暮らしで認知症のあるご高齢の方が、訪問診療を受けながら自宅での生活を続ける例もあり、高齢化が進む社会で今後ますます求められる医療の形といえるでしょう。
院長のほかにも、さまざまな分野を専門とする医師が在籍されているそうですね。

はい。一般内科をはじめ、神経内科、呼吸器内科、消化器内科、消化器外科など多様な専門を持つ医師がそろっています。2025年7月からは総合診療と皮膚科を担当してきた女性医師も加わり、診療の幅がさらに広がりました。対応する病気は、末期がんや脳梗塞後遺症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全、パーキンソン病などの神経難病、糖尿病などの生活習慣病、認知症など多岐にわたります。脊柱管狭窄症による膝や腰の痛みで通院が困難となり、訪問診療を希望される方も増えています。また、在宅医療の経験が豊富な看護師も複数人在籍し、基本的に医師と同行の看護師で月2回程度、定期的にご自宅や施設を訪問します。さらに、急な体調変化にも365日24時間対応できる体制を整え、患者さんとご家族が安心して療養を続けられるよう支えています。
痛みをコントロールして生活の質の向上をめざす
クリニックの強みを教えてください。

患者さんの訴えが多い「痛み」に、きめ細かく対応できることです。大学病院では麻酔科医として、手術や集中治療の患者さんの全身管理や痛みのケアに携わり、全身麻酔や局所麻酔、神経ブロックなど幅広い経験を積んできました。そのため、在宅診療においても専門的な痛みの治療を行うことが可能です。例えば、在宅で提供している医療機関が少ない硬膜外ブロックなどの神経ブロック注射を、携帯型の超音波装置を使ってご自宅で実施しています。また、ポンプを用いた持続的な鎮痛薬や鎮静薬の投与にも対応しています。持続鎮痛には「硬膜外鎮痛」と「脊髄くも膜下鎮痛」があり、後者は少ない薬の量で改善が図れる点がメリットです。当院では、こうした専門性を生かして患者さんの痛みを少しでも軽くし、安心して生活していただけるよう全力で取り組んでいます。
脳卒中の後遺症にも対応されていると伺いました。
はい。脳梗塞や脳出血の後遺症では、手足のつっぱり(痙縮)や片麻痺といった運動障害がみられます。痙縮があると、手指が握ったまま開きにくい、肘が曲がったままになる、足先が下に向いてしまうなどの症状が出て、日常生活に支障をきたします。当院ではこの痙縮に対して、ボツリヌス毒素製剤を注射する「ボツリヌス療法」を行っています。筋肉の緊張を和らげることで、着替えや歩行などの動作がしやすくなり、介護者の負担も軽くなります。また、注射だけでなくリハビリテーションを組み合わせることで、姿勢や動作の改善が期待できます。そのため、事前に院外のリハビリスタッフへ注射の実施を伝えるなど、連携を大切にしています。
訪問診療では、地域の多職種・多機関との連携が必要なのですね。

寝たきりや外出が難しい患者さんの医療には、地域包括支援センターや訪問看護ステーション、ケアマネジャー、ホームヘルパーなど、多くの機関やスタッフが関わっています。訪問診療では、こうした関係者が連携するチーム医療が欠かせません。そのため、日頃からこまめな情報共有を大切にしています。例えば、こちらから「吸引器や酸素吸入器を導入しました」と、訪問看護師に伝えることもあれば、逆に「患者さんの状態が悪いので診ていただけませんか」と、依頼を受けることもあります。院内でもチームワークを重視しており、毎週月曜の朝と月1回金曜日にミーティングを開いて、すべての患者さんの病状を全スタッフで共有しています。訪問診療は関わる人が多いからこそ、密な連絡が欠かせません。それが患者さんへのスムーズな支援につながると考えています。
「家で暮らしたい」という患者の思いに寄り添う
診療する上で、大切にしていることを教えてください。

患者さんの気持ちに寄り添い、傾聴の姿勢を大切にすることです。末期がんの患者さんなど、根治的治療法が尽きて死を意識すると、気持ちを整理できない方もいらっしゃいます。「なぜ自分は死ななければいけないのか」といった不安を抱える患者さんに対しては、ひたすら気持ちのはけ口となり、心にたまった複雑な思いを共有するように努めています。また、「このまま家族の世話になり続けて良いのだろうか」と、悩む方もいます。そんなときは「緩和ケア病棟という選択肢もありますから、ゆっくり考えましょう」など、必要な情報をお伝えするようにしています。訪問診療を卒業した後も困ったことがあればいつでも頼ってもらえる環境を整えることを意識しています。
今後、分院を開設されるそうですね。
はい。2026年4月に、世田谷区に開設する予定です。以前から「外来診療も受けたい」と多くの声をいただいていたので、その声にお応えするために訪問診療と外来診療の両方をできる場所として分院の開設を決めました。分院長が訪問診療に出ているときは当院の医師が外来を担当するなど、互いに連携して診療を進めていく体制です。私自身も、分院で痛み治療を専門とした外来を担当したいと考えています。世田谷区に分院を設けることで、大田区の当院だけではカバーしきれなかった地域にも訪問診療を広げられるようになり、より多くの患者さんやご家族の在宅療養を支えていければと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

訪問診療の対象は「通院が困難な方」であり、特別な条件はありません。年齢や疾患を問わずご利用いただけます。若い方でも「線維筋痛症の痛みが強くて外出できない」という理由から訪問診療を利用されることもあります。大学病院や地域包括支援センターなどからの紹介患者さんも多いですが、紹介がなくてもご相談いただけます。介護タクシーや介護サービスを利用しながら通院するよりも身体的・経済的な負担を抑えられるかもしれませんので、困ったときにはどうぞお気軽にご相談ください。これからも地域の皆さんの「自宅で過ごしたい」という思いに応えるために、スタッフとともにより良い療養環境づくりに力を尽くしてまいります。

