瀬崎 和典 院長の独自取材記事
にこにこハート内科クリニック
(東松山市/東松山駅)
最終更新日:2025/03/24

東松山市の地域医療に貢献すべく、2014年より街のクリニックとして診療を続けている「にこにこハート内科クリニック」。瀬崎和典院長は急性心筋梗塞や心不全など循環器疾患の治療に長く携わり、数多くの症例に対応してきた。だが東日本大震災直後、地域医療が完全に崩壊した現場を目の当たりにし「病院で待つのではなく、より地域に根差した医療を実践したい」と決意。医療過疎が進むこの地での開院に至ったのだという。病気そのものを防ぐことに重きを置き、「患者さんが元気になっていく姿を見ることが喜びです」と語る瀬崎院長に、医療にかける思いを聞いた。
(取材日2024年11月27日)
街のクリニックとして、できることを一生懸命に
10年以上、この場所で診療されていると伺いました。

2014年に開業したのですが、1月だったこともあり、すぐに大雪に降られましてね。ここは60cmも積もったのですよ。玄関の階段も雪で埋もれて、作ったばかりの自転車置き場の屋根も折れてしまって。雪かきしようにもスコップもないですし、本当に途方に暮れました。そうしたら、ご近所の皆さんが道具を持って集まって手伝ってくれました。ありがたいことに当時も今も本当にいろんな方に助けていただいています。実は埼玉県でも西の方は医師が少ないのです。特に循環器疾患を診られるクリニックは限られています。当院を育ててくださったこの地域の皆さんに、まだまだ恩返しをしていきたいですね。
先生はもともと開業を考えていらしたのですか?
いいえ。以前は開業などまったく意識していませんでした。一つのきっかけになったのは、2011年に発生した東日本大震災です。震災直後に岩手県に向かいましたが、地域医療が完全になくなってしまっていて……。東京に戻ってからも、ずいぶんと考えさせられました。その当時は、新山手病院の循環器病センター長を務めており、外来に救急にと大変忙しく、平日は病院に寝泊まりをして週末だけ自宅に帰るという慌ただしい生活を続けていました。ですが私も年齢を重ねて体力の衰えも感じるようになり、「自分がこれから、最大限できることは何だろうか?」と考える時期でもありました。病院で患者さんを待っているだけではなく、街のクリニックの医師として私にできることに全力で取り組んでみたい。そう思い、この地でこれまでの経験を存分に生かすことに決めました。
開業後もお忙しく、平日の夜は今もクリニックに泊まられているそうですね。

私の専門である循環器疾患の患者さんの他、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病、咳や発熱など、街のクリニックである当院には患者さんが次々といらっしゃいます。ですが忙しいからといって検査や説明をおろそかにしたくはないですし、患者さんにはしっかりと向き合いたい。曖昧なまま薬を処方することはできない性分ですから、診断もきちんと行いたいですし、診断後の患者さんの状態に応じた服薬の調整もしたいですからね。そうすると、その日の診療が終わるまでコーヒー2杯しか飲めない日も多々あります。ここで寝泊まりするほうが効率的なのと、緊急のときにはクリニックを開けられるようにしたいので、帰宅は週末のみ。家庭人としては失格かもしれませんね(笑)。私の生活サイクルを見ている娘はどのような職業を選ぶのかと思っていたら、なんと私と同じ医師になりました。今は大学病院で働きながら、非常勤で当院を手伝ってくれています。
「治す」だけでなく、病気そのものを「防ぐ」医療を
先生が感じている、医師としてのやりがいをお聞かせください。

やはり一次予防に徹せられて、最悪の事態を未然に防ぐことができるのが一番のやりがいです。開業前に病院で行っていたのは、病気が起こってしまった後の結果を治療する、いわば二次予防です。心筋梗塞なら血栓を取り除いて再開管理をする、重症の不整脈が起きたらカテーテル治療を施したり、ペースメーカーを入れたりする。いずれにせよ、その病気を防ぐことはできなかったんですね。症状の変化を見ながら病気の予防に力を入れられるのは、開業医だからこそできることだと思います。
病気そのものを「防ぐ」ために工夫していることはありますか?
患者さんご自身が、何のために治療を受けているのかについて理解し、「よし、頑張るぞ」と思ってもらえるような説明を心がけています。脳卒中も慢性腎臓病も、その多くは生活習慣病の悪化からです。生活習慣病の患者さんは定期的な血液検査による健康管理が必要なのですが、そのデータを分析すると、例えば、糖尿病の患者さんなら「このままだと、あと何年で脳卒中や心筋梗塞のリスクがどれくらいになるか」など見えてくることがあります。このような数値やグラフを用いた説明をすることで、患者さんご自身の気づきにつなげられるよう工夫しています。
管理栄養士による栄養指導も取り入れているそうですね。

はい。その患者さんに必要な水分量や塩分の制限などについて管理栄養士と共有し、管理栄養士から患者さんへカロリーに関する説明や具体的な献立の提案などを行っています。また患者さんから実際の食事内容を写真で送ってもらい、管理栄養士がそのカロリーや塩分量をチェックして私に報告。それを患者さんへフィードバックするなどして生かしています。
検査設備についても教えてください。
血液や尿などの基本的な検査の他、24時間ホルター心電図検査や、胸痛や動悸が不整脈や心筋虚血によるかを調べるためのイベントレコーダー、脈波検査での血管年齢の算出など、循環器疾患の病気の発見や、正確な診断のための精密検査を行える設備を整えています。狭心症の診断や不整脈の検出が可能な運動負荷試験にも対応していますし、健診で心電図異常や心雑音を指摘された方には心臓エコー検査を行います。また、エックス線検査機器にはAIによる画像分析機能が搭載されており、肺がんや間質性肺炎などの早期発見に有用です。
患者が元気になっていく姿を見ることが、何よりの喜び
ところで、先生はなぜ医師を志したのですか?

実は私、進路を早くから決断できなかったのです。高校3年生の進路相談では、あまり深く考えずに理学部の天文学科に第一志望を出していました。そうしたら教務の方に呼び出されまして、私の適性を考えてくださり「法学部か、医学部がいいんじゃないか」とアドバイスをくださったんです。そのようなきっかけで医療の道に進むことになりましたが、もし最初の希望どおり天文学部に進んでいたら、また違った人生を歩んでいたのでしょうね。今でもその当時お世話になった教務の方とは、年賀状のやりとりをする関係です。
そうして実際に医師になり、喜びを感じるのはどのような場面でしょうか?
地道に患者さんを治すのが、私たち医師の役目だと思っています。理念がなかったらできない仕事ですし、医療を必要とする患者さんに向き合えることをありがたく感じます。何より臨床には、患者さんが元気になっていく姿を直接肌で感じられる喜びがあります。これは論文を書いているだけでは絶対に味わえないものです。私にできる限りのことを施して、後から患者さんと「ずいぶん良くなってきましたね」と一緒に振り返ることができたら、本当にうれしいと思います。皆さん一人ひとりに人生があり、私が辿らなかった別の人生についてお聞きできるのも、また楽しいことですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

病気になってから医療機関に行くだけでなく、病気を未然に防ぐためにも日々の生活習慣に気をつけることが大切です。例えば長年にわたって高血圧の薬を飲んでいる方も、食事や運動などの生活習慣を見直すことにより、薬を減らしたりやめることが可能になるかもしれません。私だけでなく管理栄養士もサポートしますから、一緒に頑張りましょう。もちろんそれ以外にも心配な症状があればいつでもいらしてください。発熱時や診療時間前にご利用いただけるよう、駐車場スペースにエアコンを備えた屋外待合室もご用意しています。