大石 泰史 先生の独自取材記事
大石クリニック
(横浜市中区/阪東橋駅)
最終更新日:2026/04/15
ブルーライン阪東橋駅すぐの「大石クリニック」は、30年以上の診療実績を持つ依存症患者の治療を専門的に手がけるクリニック。外来で依存症治療を行うクリニックとして、1991年に院長・大石雅之先生が開院。患者の社会復帰をゴールとし、デイケアやグループホーム、就労移行支援などと連携を取り、治療から社会復帰まで一貫したフォローを展開。近年は、ホスト依存や性嗜好にまつわる問題の相談にも対応している。同院の取り組みについて、雅之院長の息子で常勤医として治療に当たる大石泰史先生に聞いた。
(取材日2026年3月18日)
依存症治療から社会復帰まで総合的にサポート
クリニックの概要からご紹介いただけますか。

当院は、1991年の開院以来、依存症を専門に治療を行っている精神科クリニックです。アルコール、薬物、ギャンブルといったさまざまな依存症の治療に対応し、それぞれの症状に合わせた外来治療プログラムを行っています。平日の夜間に通える治療プログラムを複数用意しており、各疾患のプログラムを幅広く持っている点が、他にはない当院の特徴だと思います。
どんな患者さんが多いですか?
アルコール、ギャンブル、薬物依存の患者さんはやはり多いですね。ただ最近は、20~40代の女性を中心に万引き依存や10代の若者などのインターネットゲーム依存の相談もあります。また、ホストや推し活へ過度にお金を使ってしまう依存については、他院で受診を断られるケースが多いようで、「何とかできませんか」とご家族からご相談を受けることが近年増えています。そのため、現在は院長がこの分野にも力を入れて対応しています。他の依存へのご相談も併せて、全体の3割はご家族さまからのご相談でしょうか。患者さんご本人が自ら来院されるのは正直珍しく、ご本人は困ってないけれど、家族が困っているから仕方なく来た、という方が多いです。また、盗撮や痴漢などを繰り返してしまう方が、警察や弁護士の先生から紹介されて来院というケースもあります。
患者さん本人向けとは別に家族相談も行っているのですね。

依存症は、正しい知識がないと家族が困ってしまう病気です。正直なところ、本人より周囲が困ることも多いと言えます。例えば、酒を飲んで自分では動けない状態で「酒を買ってこい」と家族に要求し、断られると物を壊したり暴れたりするケースがあります。家族は困り果て、関係を悪化させたくないので、しぶしぶ酒を買ってきてしまうことも少なくありません。しかし依存症は、問題行動が習慣化した状態のため、家族が「酒をやめて」と訴えても、本人は言われたからといって簡単にやめられないのです。こうしたトラブルを避けるには、依存症について正しい知識や対応を知ってもらうことが大切です。そのため、本人が治療につながらなくても、家族相談としてカルテを作成し診察を受けてもらっています。全体の2~3割はご家族のみの受診です。本人が来られる場合は、本人と話した後、できるだけ時間を取ってご家族にも望ましい対応などをお伝えしています。
治療のゴールは、生きづらさを楽にすること
本人への治療はどのようなものですか?

「依存症は気持ちの問題ではなく、脳の病気ですよ」と伝えることが最初の入り口です。依存症は、もともとストレスや不安、生きづらさを和らげるために取っていた行動が習慣化され、その結果、別のストレスや不安につながる悪循環に陥ってしまうケースが多いです。自分の気持ちを言葉にしたり、SOSを出すのが苦手な人や、ストレスや不安を抱え込みやすい人が、それらを解消しようとして問題行動に頼りすぎてしまうと、依存症につながりやすいと感じています。対策として、同じ依存症を抱える患者さん同士の話し合いなどを通じて、自分の考え方や行動の癖がどうして問題行動にたどり着いてしまうのか、どう行動すれば良いかを考えたり、練習してもらったりしています。ただ、問題行動を止めることをめざすのはとても大事なことですが、本質はそれだけではないのです。
治療の最終目標はどこでしょうか。
問題行動が止まった状態を目標にするだけでなく、本当の意味での回復は、時間をかけて自分自身の生きづらさを自分で楽にできるようになることだと思います。仕事のストレスや人間関係の悩みに遭遇した時、一人で抱え込まず、上司や同僚、家族、友人などに相談できる力をつけることです。依存症治療では、「何年ギャンブルをしていないか」といった、問題行動が止まっている期間に注目されがちです。もちろんそれも大切ですが、私は患者さんに「以前と比べて、行動や考え方はどう変わりましたか」と問いかけるようにしています。そして「ここが変わった」と自分で実感し、言葉にできることこそが重要ではないかと考えています。たとえ1年間問題行動がなくても、その理由が「なんとなく」であれば、また「なんとなく」同じ行動を取るでしょう。考えと行動がどう変わったかを言葉にできるなら、過去に戻らないブレーキにもなってくれると思うのです。
同じ依存症を抱える患者さんが集まって、話し合いができる場を設ける取り組みもされているとか。

当院ではこれを「ミーティング」と呼んでおり、10~20人で1時間半ほどかけ、1人ずつ自分自身のことを話していきます。テーマは多くが依存症に関わるものなので、話したくない話も多くなります。ただ、同じような体験をしている方がいることで、話すハードルが下がると考えています。そして「話す」ということが、自分自身の考えや気持ちを言葉にしたり、伝えたりする練習になります。なお当院ではかつて同じ問題に苦しんだ方々が、その方の回復状況と働く意思に応じてリカバリースタッフとして働いてくれています。医療者だけでなく、そういったスタッフが関わってくれることで、当事者同士だからわかることや響く言葉もあり、とても助けられています。
依存症は孤独な病気。医療機関をうまく利用して
先生のご経歴について教えてください。

将来的にクリニックを継ごうとは考えていたため、当院の常勤になる前は、依存症を扱っている県内病院で経験を積ませていただきました。精神科を選んだのは院長の影響もありますが、僕自身人と話すことは割と好きだと気づいたことで、精神科に向いているのではと思ったからです。また、僕は勉強ができるタイプではなく、高校に行けていなかった時期があります。大学も浪人・留年を経験したので、そういう経験をしているからこそ似たような境遇の患者さんに寄り添えるかもしれないという考えもありました。
診療の際に大切にされていることは何ですか?
できるだけ患者さんに寄り添って考えることです。依存症は、困り事が人によって違う病気。例えば、周囲からはお酒が問題に見える場合でも、本人は自分の困り事とお酒の関連性に気づいていない、または見ないようにしているケースもあります。そのため、まずは患者さんが何に困っているのか聞く所から始め、本人が気づけていない困り事と問題行為の関連性に気づくきっかけを与えられるように、また、患者さんが自分自身でSOSを出せるようになるお手伝いをさせていただいています。医療では助けられないこともありますが、患者さんのお話を聞いて、これからどうしていこうか一緒に考えるように意識しています。
これから力を入れていきたいことは?

依存症はよく孤独な病気だと言われるので、こういったクリニックが患者さんにとって居場所の一つになるといいなと思っています。当院ではそのために、外来だけでなく、デイケアやグループホーム、就労移行支援などとも連携し、依存症治療ができる組織づくりを進めてきました。依存症治療は、その人が社会に復帰し、役割や居場所を持つことや、うまくいかないことや嫌なことがあった際に、自分を守る力を身につけることが必要だと考えています。そういった力を育むためにも、治療から社会復帰までの一貫したフォローに今後も力を入れていきたいと思っています。
受診を迷われている方や家族の行動にお困りの方にメッセージをお願いします。
依存症で困っていて何とかしたいと思っていても、家族や友人に話しづらいと感じる方も多いと思います。医療の立場からお話を聞くことで力になれることがあると思うので、迷ったらひとまずご相談ください。また、ご家族だけの受診でも家族関係のトラブルを避けることや、ご家族が自身の身を守るお手伝いもできると思います。医療機関だけでなく、サポートをしてくれる自助グループもあるため、抱え込まずに相談していただくことをお勧めします。

