小谷 圭 院長の独自取材記事
こたに糖尿病内科クリニック
(神戸市灘区/六甲道駅)
最終更新日:2021/10/12

「こたに糖尿病内科クリニック」は、JR神戸線の六甲道駅から徒歩約3分の医療モールにある。阪急神戸本線の六甲駅からは徒歩約6分、阪神本線の新在家駅からも徒歩約10分でアクセスできる。院長の小谷圭先生は、大学病院での治療や英国での研究を経てクリニックを開業。身近なクリニックの良さを生かしながら、専門的な医療を提供している。糖尿病は長く付き合っていく病気のため、患者が続けられるかどうかが重要との考えから、その人に適した治療を提案するのが同院のモットーだ。小谷先生に医師としてのポリシーや糖尿病治療におけるクリニックの取り組みについて、話を聞いた。
(取材日2019年1月23日)
国内外でインスリンの研究に取り組む
いつ頃から医師をめざしておられましたか。

父が内科の医師で、子どもの頃「大人になったら何になるの?」と聞かれると、お父さんと同じお医者さんになって、人を助けたいと答えていました。患者さんが来て、治してあげるという医師の仕事は子どもにとってもわかりやすく、警察官や消防士などのように、子ども特有の正義感をくすぐる部分があったのでしょうね。実際のところ、小学校の頃には野球選手になりたかったし、医師は第2の選択肢でした(笑)。
中学・高校時代はどんな毎日でしたか。
地元神戸の中高一貫校に入学しました。その学校には「スキー・登山部」があり、その名のとおり夏は登山、冬はスキーをするクラブでした。2つの種目を楽しめるというので私も入部して、大いに登山、スキーを楽しみました。進学校だったのですが、小学校の頃から勉強は好きだったので、勉強はそれほど苦痛ではありませんでした。「わからない」というのが嫌いで、わかりたい、わかるようになりたいという気持ちが強かったからだと思います。
内科を選ばれたのはお父さまの影響ですか。
限られた部分を深く追求する診療科にするか、幅広く診られるところにするか悩みましたが、父のアドバイスもあって人間の生死に深く関わることができる内科を選びました。卒業後は大学病院などで消化器内科の臨床を3年間経験して、大学院に行きました。そこで東京から赴任してこられた、糖尿病の権威的存在の方にめぐり会ったのです。研究に対する先生の熱意に巻き込まれるようにして、大学院ではインスリンの働き方について研究しました。
留学を経験されていますね。

ロンドン大学でインスリンの研究に取り組みました。当初は2年間の予定だったのですが、現地で仕事を見つけて結局3年半滞在しました。帰国しないので先生からはかなり叱られましたね(笑)。そのまま研究を続けるという選択肢もあったのですが、研究者が目的ではなかったので神戸に戻りました。帰国後は研究と臨床の両方に取り組めるという理想的な環境を得られたのですが、病院の規模が縮小され、研究と臨床のどちらかを選ばなければならない状況になりました。研究は非常におもしろかったのですが、もともとは医者になるために医学部へ進んだので臨床に専念することにしたのです。
身近なクリニックで専門性の高い治療を
開業を決意されたのはなぜですか?

先端の糖尿病研究を経験したので、臨床に専念するようになると当時の糖尿病の臨床が遅れていることに驚きました。改良すべきところがたくさんあり、臨床で患者さんを診ながら臨床研究をするというスタンスで勤務医を続けました。しかし、人材不足で外来の患者さんと入院の患者さんの両方を診ることが難しくなり、外来に専念できる開業について真剣に考えるようになったのです。
院内は落ち着いた雰囲気ですね。
勤務医時代に地域のクリニックから依頼されて、半年間ほど糖尿病の患者さんを診たことがあります。その時に、「病院が嫌い」という人が多く、病院勤務しか知らなかった私には驚きでした。病院でも症状がかなり悪化してから受診する患者さんがおられ、そういう方は病院の雰囲気が苦手なのだと気づいたのです。私自身も、病院では患者さんにリラックスしてもらうために、音楽を流すなどいろいろなことを試してみましたが、すべて病院側から反対されました。それで、自分のクリニックは医療機関の無機質な感じをなくして、患者さんがリラックスできる空間にしようと思ったのです。特に糖尿病のクリニックは長期間にわたって通院してもらう必要があるので、心地よく通える空間でないといけません。
どんな患者さんが多いですか?
病院で診ていた患者さんのほか、病院から紹介されて受診される方も多く、いろいろなタイプの患者さんがこられます。病気の状態もさまざまで、重症の方もおられます。症状が重い方はこまめな診察が必要なケースも多いのですが、頻繁に病院を受診するのは難しく、クリニックに紹介されるのです。診療の頻度が高くなることで症状の悪化を防げ、入院せずに治療を続けられることも少なくありません。もちろん、必要が生じたときには、すぐに病院に送れる連携システムも整えています。
「専門的な医療とかかりつけ医の気楽さ」をポリシーに掲げておられます。

病院にある糖尿病の外来が身近なクリニックにあるという状態をめざしました。患者さんが最も気にされるのは血糖値コントロールなので、迅速に測定結果が出せる検査機器をそろえています。また、医師はもちろん、看護士、栄養士などの顔ぶれがあまり変わらないのもクリニックの良さだと思います。患者さんのことをよく知ったスタッフが診療やケアを担当するので、リラックスして受診していただけると思います。
患者に合わせた治療を提案していく
患者さんと接する時はどんなことを心がけていますか?

患者さんの話をよく聞くこと、よく聞いた上で話の内容を鵜呑みにしないことです。うまく伝えられないことや医師には隠したいということもあるはずなので、時間をかけてコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことを大事にしています。そうしないと、患者さんに本当に合った治療は提供できないと考えています。基本的な治療はありますが、すべての患者さんがそれを続けられるとは限りません。私の経験上、医師のいうことをきちんと守って治療を継続される方は全体のわずか2割程度です。大切なのは治療を継続できない8割の方を見放さず、なぜできないのかを考え、その方に適した治療を提案することです。
糖尿病の治療では生活習慣の指導が大切と伺いました。診療の中で工夫されていることはありますか?
患者さんに気をつけてほしいことを、「見える化」するように工夫しています。例えば、清涼飲料水にはたくさん砂糖が含まれていますと言葉だけで伝えるより、実際のボトルと砂糖を組み合わせたモデルを見るほうが、砂糖の多さを実感できます。パンも「何枚たべていますか?」と聞くのではなく、厚さの違うモデルを見せて「どれですか?」と尋ねるほうが正確な情報をつかめます。ご飯は皿に盛ると少なく見えますが、実際はお茶碗2杯半もあることもモデルで示せばよく理解できます。こうしたモデルはすべてスタッフの手作りです。
ところで、先生のリフレッシュ方法はありますか?
4年ほど前に登山を再開しました。日本100名山の踏破を目標にしていますが、年齢とともに体力が落ちて行くので、まずは3000メートル級の山をすべて踏破したいと思っています。スキーも昨年後輩に誘われて、道具をレンタルして10年ぶりにやりました。最初はおっかなびっくりだったのですが、スキー検定1級を取得しているので、すぐに滑れるようになり、今年は道具を新調しました。
読者にメッセージをお願いします。

糖尿病は、医師の適切な指導のもとで治療を受けることが大切です。正しい情報を知ることで、治療のハードルが下がります。間食をしないように食事をたくさん取る方がおられますが、血糖値が急上昇、急下降しておなかが空き、間食が増えます。むしろ、適量を食べておなかが空いたら少し足すのが正解です。また、患者さんの中には、普段よりたくさん歩いたことで、アドレナリンが出て血糖値が上がってしまった方もおられます。体を動かすなら、リラックスしてできる運動がいいですね。一般に洋菓子より和菓子のほうが健康的といわれますが、実際は大福よりシュークリームのほうが糖質は少ないのです。甘いものはダメといわれるとつらいですが、シュークリームやプリンは食べていいですよといわれると、治療継続の意欲も上がりますよね。糖尿病は血糖値がコントロールできれば怖い病気ではありません。正しい情報を知り、治療を受けられることをお勧めします。