小澤 司 院長の独自取材記事
双泉クリニックいけがみ
(大田区/池上駅)
最終更新日:2025/05/01

2台の往診車を持ち、近隣に温かな訪問診療を届けている「双泉クリニックいけがみ」。生まれも育ちも大田区の小澤司院長が気さくな笑顔で待っていてくれる。東邦大学医療センター大森病院心臓血管外科に約30年間勤務し、手術責任者も務めてきたスペシャリストでもある小澤院長。カナダ・トロントへの留学時代には再生医療工学について学び、数多くの論文を執筆した経験も持つ。職人肌にして研究肌。小児の心臓血管手術を専門とし「小さな命を救いたい」と重ねてきた経験を今、最期の時に向かう命にも惜しみなく捧げている。訪問診療から戻る小澤院長を待つ間も、スタッフたちの気配りがしみじみと感じられた。心地良い思いやりのあふれる同院で、小澤院長に診療にかける思いなどを聞いた。
(取材日2025年3月31日)
訪問診療と外来診療を柱とする「町のかかりつけ医」
まず、クリニックの概要からお聞かせください。

ここにはもともと長く近所の方々に親しまれていた「阿部クリニック」があり、私が2023年に継承して「双泉クリニックいけがみ」として再出発しました。その時に訪問診療も始めたのですが、旧院に通われていた方々が困らないように外来診療も月・火・水の午前中に継続しています。「町のかかりつけ医」として生活習慣病、感染症、外傷はもちろん「どの診療科に相談したらいいのかわからない」といったお悩みにまで幅広く対応しています。私は生まれも育ちも大田区。開成中学・高等学校に通い、トロント大学に留学していた時期以外は、概ね大田区で学び働いてきたので、こうして近隣の方々の健康を見守る役目を担えることを心からうれしく思っています。
こちらの訪問診療の特色はどんな点でしょうか。
訪問看護を専門とする看護師、地域包括支援の経験が豊かな医療ソーシャルワーカーや保健師、エリアの交通事情に詳しいドライバーなど、自慢のスタッフたちが一生懸命に取り組んでいるのが一番の特色です。継承開業にあたっても建物を改装するよりも、まずは有名な戦国武将の「人は城、人は石垣」の精神でチームメンバーを大切にしたいと考えました。他の事業所との連携も強化していて、ケアマネジャーさんやヘルパーさんから「◯◯さんの様子がおかしい」といった要請があれば、急な往診にもかけつけます。近年は酷暑の中、ご本人が気づかないまま熱中症になっている例も少なくありません。1本の点滴が命を左右するような事例も増えていて、油断できないところです。
患者さんの自宅での外科的処置も得意とされているそうですね。

例えば褥瘡でお困りの方も多く、私は早めに処置するようにしています。また、自宅内で転倒された切創に対しての処置をすることも可能です。そういった外傷でも、感染症に最大限配慮して縫合するようにしています。大学病院時代に「せっかく手術が成功した患者さんを、術後の感染症で悪化させたくない」との一心で感染管理について専門的に学んだ経験が役立っていますね。ご自宅でできることには限りもありますが、患者さんがご自宅で転倒されて皮膚が切れているケースでも往診して縫合することもあります。また、褥瘡で膿がたまってしまった部分を切開して排膿するケースもありますね。さらに、巻き爪で周囲に炎症を起こしている爪囲炎のケースでは局所麻酔下で外科的に処置したりすることもあります。
心臓血管外科で命と真摯に向き合った経験を生かして
先生が医師を志したきっかけを教えていただけますか。

北陸の旧家の家系に生まれ祖父も父も兄も親戚も、周りは医師ばかり。半分冗談めいた話になりますが、三途の川を渡る時に先祖たちに「よくやった」と言ってもらえるかどうか、いつも肝に銘じています。でも、医師を志した一番の理由となったのは、大井町で小児科医院を開業していた父でした。早朝でも深夜でも自宅にまで電話がかかってくる時代でしたが、嫌な顔一つせず対応していましたね。主婦だった母の内助の功も素晴らしかったと思います。亡くなる10日前まで診療を続け、地域医療に一生を捧げた人生だったと尊敬するばかりです。この心臓模型は学生時代に父からもらった形見です。留学先でも勤務先でもいつも自分のそばにあったので、35年来の宝物になっています。
なぜ、心臓血管外科の中でも小児を専門にしようと決めたのですか。

先天性の心臓病自体が多種多様なので、手術方法も極めて多くのバリエーションがあります。しかも人工弁や人工血管などの人工物を使用すると成長の妨げになるので、自分自身の組織を駆使して修復するというクリエーティブな術式が多い点に魅せられ、この道を選ぶことにしました。先天性心臓疾患の発症率は100人に1人と、けっして珍しいものではありません。自分自身は新生児や乳児を執刀することが多く、1kg未満の低体重児を執刀することもしばしばでした。一方、先天性心臓血管病は成人してから初めて診断されるケースもあり、手術することも数多くありました。現在も、東邦大学医療センター大森病院心臓血管外科の客員教授として、月に1回ですが、大学病院の手術室で、若い心臓外科医の指導と医学生の教育に携わっています。
一隅を照らし、隅々まで必要な人に医療を届ける
今後の展望についてお聞かせください。

新たに消化器内科の先生も加わり、循環器だけではなく消化器についてもより専門的な診療を提供したいと思っています。外来診療がある月・火・水も朝から訪問診療に回れるような体制も整えていきたいです。当院は定期的な訪問診療だけではなく、体調が急変した際の往診の方も多いのは、近隣に大規模病院が多いのも一因といえるでしょう。急性期が過ぎて自宅で過ごしている方も増えているので、積極的にサポートしていきたいです。新生児科や小児科の先生方から小さな命のバトンを渡された時のように、急性期病院の先生方が真摯に治療した患者さんを責任感を持って在宅で診療したいと考えています。
お忙しい毎日ですが休日はどうお過ごしですか。
大きな池の周りを愛犬と一緒に約1時間かけるスロージョギングを楽しんでいます。マルプーなのに坂道ダッシュが大好きな犬なので、いつも引っ張られています。中学から大学時代までバスケットボール部に所属していたので、今も1人で公園でシュート練習をすることもあります。大学のOB戦にできるだけ参加するようにしていますが、最近は情けないプレーばかりなので少しは切れ味がいいプレーがしたいですね(笑)。いまだに体育会気質が少しは残っているのかもしれません。開成中学、高校時代はバスケットボール部と運動会に熱中していました。進学校のイメージが強い開成ですが、実は男臭い学校なんですよ。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

このように堅苦しい人間ではないので「地元の町内会のおじさん」くらいの気持ちで受診していただければと思っています。まずは、体のどこかに違和感があるといったことでも構いませんので、気軽に相談に来てください。もし、訪問診療を検討されているならば医療ソーシャルワーカーが詳しくお話を伺うこともできます。時にはお看取りをすることもあり「いかに幸せに人生の最終段階のお手伝いができるか」と考える毎日です。人生はさまざまで、大都会の片隅で誰からも忘れ去られているような方も少なくありません。だからこそ「一隅を照らす」という言葉をモットーとして、さまざまな境遇に置かれた患者さんの人生に寄り添っていければという願いで在宅訪問診療に携わっています。