地域の中で失語症や高次脳機能障害を支える
言語聴覚士の存在とは
中西整形外科
(岡崎市/大門駅)
最終更新日:2021/10/12
- 保険診療
言葉を話す、相手の話に耳を傾ける、手紙を書く、本を読む……日常生活において「言葉」は欠かすことのできないものだ。しかしそれがある日突然、病気や事故によって奪われることがある。その喪失感、疎外感は計り知れないことだろう。脳血管障害の後遺症に伴う失語症などの言語障害の回復には、専門的な支援やそれを担う言語聴覚士の存在は不可欠だ。しかしながら、専門的なサポートを受けられる機会は限られているのが現状でもある。そんな中、「中西整形外科」の中西啓介院長は、地域の健康を支える立場から「地域の中での言語障害者の支援の場」として「デイサービス花」を開設。開設のきっかけとなった言語聴覚士・杉本雅子さんとともに、施設の在り方、地域の中での支援の在り方について詳しく話を聞いた。
(取材日2017年1月17日)
目次
言語聴覚士が地域の中で失語症や高次脳機能障害のある人に寄り添い、新たな人生の謳歌を支える
- Q「デイサービス花」の開設までの経緯について教えてください。
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A
【中西院長】杉本さんとは以前病院で一緒に仕事をしていて、私が開業した後もご縁があり、医師と言語聴覚士という双方の立場から患者さんに対する思いをよく話していたんです。その中で、彼女が抱いていた「失語症の方を対象に、地域の中で病院退院後の生活支援に取り組みたい」という思いにふれまして。私にできることがあれば、という思いから施設立ち上げのバックアップを申し出たのです。言語に関する障害は、回復に時間がかかるとされており、「発症から10年以降が伸び盛り」ともいわれています。しかし病院での支援は、基本的には発症より半年から1年程度。その実情を知る彼女だからこそ、思いも強かったのでしょう。
- Q言語や脳機能の障害のある方を支援する、言語聴覚士の役割とは?
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A
【杉本さん】言語聴覚士は、その名の通り言語機能を支援する存在で、対象は小児と成人に分けられます。小児は主に自閉症やダウン症といった発達障害や聴覚障害などに伴う言語の遅れをフォローするのがメイン。対して成人のメインは失語症などの言語障害で、脳血管障害の後遺症に伴う言葉の障害や、発音の障害(構音障害)に対してアプローチしていきます。最近はこれらに加えて、咀嚼や飲み込みといった嚥下障害に対するアプローチも領域として加わるようになりました。言語聴覚士の略称「ST」の「S」は、「Speech(発話)」から来ているのですが、最近は「Swallow(飲み込み)」の「S」ともいわれるようになってきていますね。
- Q失語症とはどのような状態を指しますか?
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A
【杉本さん】失語症は、脳梗塞や脳出血、脳の外傷などによる脳損傷の後遺症によって、「話す」、「聞く」、「書く」、「読む」といった、言語に関するさまざまなことが困難となる障害です。これまで日常生活で使用していた言葉が、ある日突然なじみの薄い異国の言葉にすり替わってしまうような状態、といえば想像しやすいかもしれません。また当施設では失語症とともに注意力や記憶力、判断力、空間認知能力が低下してしまう高次脳機能障害の支援にも注力しています。どちらも若い年齢層でも発症の可能性があり、専門的なサポートも要することから、高齢者の多い一般的なデイサービスではなじみきれないという側面も持ち合わせています。
- Qこちらの施設の特徴を教えてください。
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A
【杉本さん】病院では一対一の訓練が基本となりますが、ここでは言語に関する悩みを抱えている方が、だいたい7~8人で過ごし、集団訓練などに励んでいただきます。ここでの時間は利用者の方の「心の垣根」を低くするものと思うのです。というのも、しゃべれる方の中にいるとどうしても萎縮し、「しゃべりたい」という気持ちも抑制されてしまいがちです。しかし「うまくしゃべれない」という前提が皆さんにあれば、「少しくらい詰まっても大丈夫」とも思えるでしょうし、自信にもつながります。また大勢での交流を通して、利用者同士で自分なりのコミュニケーションを模索することも可能です。これも当施設ならではといえるでしょう。
- Q利用者の日常生活を支える方に向けてアドバイスをお願いします。
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A
【杉本さん】今までできていた「話す」ということができなくなってしまうと、どうしても「話せるようになる」ということばかりに目が向き、時にご家族は“訓練者”になってしまいがちです。でもそうではなく、“よき理解者”であっていただきたいと思います。失語症の度合いはさまざまですし、病前と変わらない部分もあります。変わらない部分を大切にすることも、とても重要なこと。「話せなくなった」ということは「何もできなくなった」ということではありません。ご家族の方に、「しゃべれないけど、他にできることがあるよね」と、残された部分に目を向けていただければ、それもまたご本人を支えるものとなるのでは、と思います。