大塚 康久 院長の独自取材記事
塩谷ペインクリニック
(品川区/目黒駅)
最終更新日:2021/10/12
目黒駅近くにあるビルの2階・3階に位置する「塩谷ペインクリニック」は、神経ブロック注射への対応を中心に、痛みの診療を専門に行うクリニックだ。人がいなくなった診療後には「趣味のチェロや三線をここで弾くこともあります」という院長の大塚康久先生は、優しく朗らかな笑顔が印象的な医師。同院の提供する診療は非常に専門性の高いもので、「注射の精度はミリ単位が求められる」こともあるそう。開設者である前院長時代から勤務する看護師2人も含め、スタッフ一丸となって、患者に寄り添った対応を心がける。その患者への思いや、誤解を受けやすいペインクリニックの診療について、語ってもらった。
(取材日2020年10月28日)
前院長の遺志を引き継ぎ、患者の痛みに真摯に対峙
こちらは、前院長の塩谷正弘先生から引き継がれたそうですね。
そうなのです。塩谷先生はもともと、ペインクリニック分野で歴史のあるNTT東日本関東病院で長年にわたって勤務されておりました。そこで培った神経ブロック注射の技術をもとに、街中で待ち時間も少なく同等の治療を受けられる医療機関をつくることを志されて、2004年に当院を開設されました。私自身は、やはりペインクリニックに力を入れていた琉球大学医学部で麻酔科に進みました。サブスペシャリティーとして経験したペインクリニックの研修を、NTT東日本関東病院で受けた時に、塩谷先生に師事していたのです。その後、沖縄での病院勤務を経て、出身地である東京に戻ろうという時に塩谷先生をお手伝いすることとなり、2006年より常勤で当院に勤務することになりました。そうしてたくさんのことを教えていただき、経験を積んでいたところ、2017年に塩谷先生が急逝され、引き継ぐこととなったのです。
小杉志都子先生も、長くご一緒にやられてきたのですか?
小杉先生も、NTT東日本関東病院から塩谷先生とご縁がありました。2人とも、塩谷先生の技術とお考えをしっかりと引き継ごうという思いで、日々診療にあたっています。それで院名もそのままにしているのです。塩谷先生のお考えを引き継いだ当院の特徴としては、患者さんを早く痛みから解放して差し上げたいと、初診の段階から神経ブロック注射を行っていることが挙げられます。考え方によっては、いきなり神経ブロック注射には着手せず、まずは侵襲の少ない処置から試していく場合もあると思うので、これは当院の特徴といえるでしょう。
他にもこちらならではのお考えはありますか?
ペインクリニックというのは痛みに対処するわけですが、痛みは多分に感覚的なところがあります。MRIなどで診て、同様の状態の患者さんでも、人によって痛みを強く感じていたり、痛みがなかったりと個人差があるのですね。また、医師として治療できたと思っていても、患者さんがまだ痛みを感じるとおっしゃれば、治療は終わりません。その方がどう感じられるかが大事なので、精神的なフォローなども心がけています。また、痛みの診療ではよく「10段階でどれくらいの痛みか」を聞かれますが、毎回聞くと患者さんが常に、今何段階くらいかと痛みを意識されてしまいます。そうならないよう、当院では「仕事はちゃんとできていますか?」「今日はここまで楽に歩いてこられましたか?」など、生活に則して様子を伺っています。できるようになったことに意識がいくと、前向きになり、治療への意欲も湧くもの。それも塩谷先生から学んだことです。
脊柱管狭窄症では、手術より前に神経ブロックの検討を
痛みに対処するペインクリニックですが、腰痛の患者さんは多いですか?
脊柱管狭窄症やヘルニア、頚椎症に関連する腰下肢痛や頸肩腕痛を訴えられる方が多いですね。整形外科から、いろいろ治療をしてもなかなか改善が見られずに紹介されてくる方もおられます。また、ぎっくり腰などの急性痛にも神経ブロック注射は非常に有用です。1~2回の施術で済むこともありますので、次にぎっくり腰になってしまった時にも皆さんすぐ当院にいらっしゃいますね。慢性痛に関しては、一度患部の炎症が治まって痛みの緩和につながると、患者さん自身で動かすことによって、根本的な改善へと向かうことができるのですね。その状態へと促していくために、通院を続けていただくわけです。
痛みが再発することはありませんか?
それが誤解を受けやすい点なのですが、神経の狭まっている所に薬を入れて炎症を取ることができれば、それだけで改善がめざせるケースもあります。また、神経の痛みにはその日の調子というものがありますが、それを神経ブロック注射によって、状態のコントロールを図っていくことも可能です。痛みが軽くなれば、生活の質は上がるもの。そうした良い循環を感じていただきたいと考えています。患者さんによって個人差はありますが、ヘルニアや脊柱管狭窄症の場合、手術を行っても、手術自体の負担やビスを入れたことで別の不調が出るリスクもあり得ます。入院で寝ついてしまったり、メンタルに影響が出る可能性もあるでしょう。一方、神経ブロック治療にはそういったリスクは少なく、薬液は体に吸収されますし、手術のような大きな負担はないものと考えます。一度試してみる価値は多いにあると思いますので、ご検討いただきたいですね。
いわゆる痛み止めなど、内服薬による治療よりも良い点はありますか?
内服薬では患部の痛みを取るための薬が全身に作用してしまいます。しかも、薬の成分は血流で流れていきますが、痛みの箇所は骨に挟まれるなどして血流も悪いので、肝心の場所に薬が届かないことにもなりかねません。神経ブロック注射であれば、必要な場所に直接薬を届けることが図れるのです。大事なのは、狭い部分にも精密に針を刺し、痛みのもとである箇所に薬を入れていくこと。そのためには、経験豊富で高い専門性を持つ医療機関にかかることが大事です。高齢で腰が曲がっていると、模型のようには骨が並んでおらず、どれがどの骨かわかりにくいこともあります。圧迫骨折による変形が見られるケースもありますから、そうした狭い箇所に針を通していける技術が重要なのです。
帯状疱疹後神経痛や三叉神経痛など、難しい症例に対応
神経ブロック注射は、腰痛以外には、どんな症状に対応できるのですか?
帯状疱疹後神経痛の方もよく来院されます。若い方だとインターネットで調べてご自分で来られるのですが、高齢者向けには、帯状疱疹を診ている内科や皮膚科の先生に神経ブロック注射を知っていただくための活動も必要かもしれません。2年前に医師会のご協力で目黒駅周辺の開業医の先生を対象に、小杉先生が神経ブロック注射に関する講演をしたのを機に、整形外科からのご紹介は増えました。ペインクリニックは歴史が浅い分野なので、医療関係者への啓発にも努めていきたいところです。あとは、三叉神経痛の診療も多いですね。
三叉神経痛というと、顔の神経が痛む病気ですね。
神経ブロック注射の中でも、顔への注射ということで、高い専門性や経験を特に要する、難しい処置です。塩谷前院長がそうした難しいケースを多数診られていたので、経過観察を含め、その患者さんを私が引き継いでもいます。三叉神経痛はエックス線画像を見ながら精密に位置を把握しながら行っていきます。また、電気で神経を焼くような処置も当院では行っています。いずれも、行える医療機関が少ないので、当院にも秋田県や種子島から通院されている患者さんもいらっしゃいます。三叉神経痛は手術しても再発する場合があり、神経ブロックが最後の選択肢となることが少なくありません。痛みを抑えられないと食事ができず、痩せてしまうこともありますので、本当に責任重大なのです。
読者へのメッセージをお願いします。
痛みには、体が発しているサインの意味合いもありますが、当院で扱うのは、神経が骨に挟まっているための痛みなど、体にとっては無駄といえるような痛みがほとんどです。また、運動後の筋肉痛などとは違い、こうした痛みは休んでいても良くはなりません。むしろ、整形外科的な疾患では患部を動かすことで改善を促していけることが多いのです。このような点からも、まずは痛みを取るための処置を行うことが重要です。積極的に動いていくためにも、痛みは我慢せずに、神経ブロック注射をぜひ一度試してもらいたいですね。