神吉 利典 院長、石井 卓也 先生の独自取材記事
かんきクリニック
(厚木市/本厚木駅)
最終更新日:2024/05/30
小田急線本厚木駅が最寄りで、2003年開業の「かんきクリニック」は、大学病院や地域の中核病院で診療を行った神吉利典先生が院長を務める。専門は脳神経外科だが、脳の機能と関係が深い脊髄や神経の分野も診療。「脳血管の病気につながりやすい糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病も、患者さんのご希望で診ています」と神吉先生は言う。月2回の頻度で「物忘れ」専門の外来を担当するのは、東京慈恵会医科大学附属第三病院の脳神経外科で部長を務める石井卓也先生。クリニックにおける認知症専門の医師の役割は「患者と適切なサポート体制」をつなぐことだと語る。相手の身になって考える診療を実践し、患者が安心して受診できるよう院内の衛生管理もさらに徹底。今回は、神吉院長と石井先生に同院の特色や地域医療にかける思いを聞いた。
(取材日2024年2月17日)
充実を図った検査設備で脳や神経の病気を迅速に診断
なぜ厚木に医院を構えたのですか?
【神吉院長】僕はもともと県立厚木病院(現・厚木市立病院)で、脳神経外科の部長をしていたのです。そこで診ていた患者さんがたくさんいらしたので、なるべく近い場所を選びました。地域のホームドクターとして、もう20年以上診療していますね。今の若い先生たちは最初から専門志向なので、初期研修の時以外は専門の症例が中心になるのですが、僕らの年代だと研修医の時に救急に行ったり、整形外科を診たりといろいろな科を経験しています。ですから専門以外のこともある程度わかりますし、自分のところで診るのが難しい症例の場合は、すぐに適切な病院にご紹介しています。これがホームドクターの重要な役目だと思っています。
どのような訴えの患者さんが多いのですか?
【神吉院長】脳梗塞や脳出血の後遺症の患者さん、物忘れ専門の外来のほか、内科の範囲では高血圧症や糖尿病、脂質異常症なども診ています。こういった病気は脳血管障害の原因となることが多く、なるべく早めに症状の改善をめざしていただければと思います。そのほか頭をぶつけたといった頭部外傷、めまい、てんかんの患者さんなどもおられますね。2020年はコロナ禍による患者さんの受診控えも目立ちましたが、当院では徹底した衛生管理に努めていますので、その辺りも安心して来院いただきたいですね。
設備が充実していますね。
【神吉院長】脳神経外科が専門ですから、CTをはじめとして必要なものは開業当初からそろえました。当院で診断をして、脳梗塞や脳卒中といった急性期の病気や脳腫瘍などの場合は大学病院や基幹病院へ送って、慢性期の病気であれば、当院で診ます。僕が勤務していたからわかるのですが、疑いがあるというだけで全部の患者さんを大学病院や基幹病院に送ってしまうと、送られたほうが大変になってしまうので。だからある程度の診断は当院で行い、それ以上の細かい検査や大きな治療が必要なら病院に対応いただいています。他の開業医の先生から患者さんのご紹介もありますが、当院で検査をして必要なら基幹病院へ送り、問題なければ元の先生のもとにお返しするなど、クリニックと大きな病院の橋渡しのようなこともしています。
こだわりの1つは「物忘れ」専門の外来
石井先生はどのような経緯でこちらの医院に来られたのですか?
【石井先生】私は現在、東京慈恵会医科大学附属大第三病院の脳神経外科で部長を務めており、当院では、コロナ禍の少し前から月2回、非常勤で、物忘れ専門の外来を担当しています。また以前、厚木市立病院の脳神経外科で勤務をしていた際には、同病院の物忘れ専門の外来をスタートさせました。そうした経験の中で、診療を重ねるうちに、クリニックでは病院の医療スタイルとは異なる、そこでしか提供できない「物忘れ専門の外来」の形があるのではないかと考えるように。認知症を専門とする医師として、その両側面の経験を積みたいと思い、厚木市立病院のOBの神吉先生にご相談。そして当院での月2回の診療枠を調整してもらい、現在に至ります。クリニックで患者さんやご家族の相談をお受けするようになり、数年が経過しました。クリニック医療の場合、患者さんとの距離が近く、地域により密着したサポートが提供できると実感しています。
物忘れを専門とする医師が在籍することによる、患者メリットについてお伺いします。
【神吉院長】物忘れのご相談は一般的な治療とは異なり、対応時間が長くなる傾向があります。石井先生のおかげで、私はより多くの患者さんを診ることができるようになりました。
【石井先生】患者さんの中には、生活習慣病や脳梗塞などの持病のある方やご高齢者がいらっしゃいます。そうした方々にもし「物忘れ」の兆候が出始めた場合は、私が引き継ぎ対応します。大きな病院では治療の細分化が進んでおり、内科症例は内科、物忘れは物忘れという形で、専門性が高いというメリットがあります。一方クリニックでは、患者さんをトータルにサポートすることが可能です。後者を望む患者さん、ご家族の方にとって、当院の体制がお役に立てる機会があればうれしいですね。
「物忘れ外来」の患者傾向や貴院ならではの工夫についてお聞かせください。
【神吉院長】ますます高齢化が進む状況化の中、相談者の数は確実に増えています。
【石井先生】患者さんの中には「俺は大丈夫だから、病院へ行きたくない」という方がいらっしゃいます。その方のご家族や周囲の方は、本当に苦労されているという状況。「認知症」という表記が受診ハードルを高くする一因にもなり得ますので、私は「物忘れ専門の外来」としています。また大きな病院を受診するには、紹介状が必要になります。その手間も足が遠のく原因の1つ。その手間を省力化できる点も、クリニックならではの特徴であると感じています。
患者が何でも聞ける雰囲気をつくることが大切
診療における院長のモットーを教えてください。
【神吉院長】患者さんの身になって考えることですね。患者さんは、すごく不安な気持ちで病院に来られるので「そんなことわかっている」のような姿勢で対応するとがっかりされることもありますし、逆に最初から「大丈夫」と言ってしまうと、それも駄目なのです。大丈夫なら「なぜ大丈夫なのか」という理由をしっかりと説明するように心がけています。それには患者さんが、何でも聞ける状況にしていないといけません。聞かれたことには、しっかりと答えるようにしています。
患者さんやそのご家族に知っておいてほしいことはありますか。
【石井先生】私は県内の認知症サポートもしています。ご相談者と専門機関や地域包括支援センターなどをつなぐ役割を担っています。患者さんご本人の来院が難しい場合は、ご家族だけの来院でも結構です。ご相談をお聞きしたうえで、その方にとって適切だと思われるサポート内容のアドバイスも可能です。数多くの選択肢があることを知っていただくだけでも、気持ちが楽になるのではないでしょうか。
【神吉院長】石井先生の診察のほとんどは、ご家族とのコミュニケーション。今後、ご家族はどのように対応したら良いのか。どのようなサービスを利用したら良いのか。これほど手厚く助言してくれる医師が在籍していることは、当院の自慢であり喜ばしく思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
【神吉院長】病気はある日突然起こることも多いのですが、そのときにはもう手遅れのことが少なくないのです。例えば脳梗塞は、なってからでは元には戻せません。だから病院には悪くなってから来るのではなく、悪くならないようにするには、どうすれば良いのかを相談に来るほうが良いと思います。「体調がおかしい」「疲れが取れない」「めまいがする」といったときに、早めに病院へ来て、どうしたら良いのかを相談してほしいと思います。それがベストな病院の使い方だと思います。そして何か病気が見つかるとがっかりしてしまう方が多いですが、それは逆で、何もないときに見つかって良かったのです。なので、取り返しのつかないことになる前に、心配があれば気軽に相談に来てほしいと思います。