宇佐美 健治 院長の独自取材記事
うさみクリニック
(大阪市阿倍野区/西田辺駅)
最終更新日:2025/05/08

大阪メトロ御堂筋線の西田辺駅から徒歩約7分、市バス播磨町バス停から徒歩約2分、静かな住宅地の一画に「うさみクリニック」がある。内科、消化器内科、循環器内科の外来診療と往診や在宅診療、併設するデイケア(通所リハビリテーション)や訪問リハビリにも対応し、医療と介護の両側面から地域を支えているのが特徴だ。院長の宇佐美健治先生は、「在宅で生活するための安心感を提供すること」を何よりも大切にしており、患者や家族の話をよく聞き、自らもよく話すようにしているそう。「病気を発見、治療してくれてありがとう」と言われるより、「ここに来て安心できた」「元気をもらった」と言われるほうがうれしいという宇佐美先生にクリニックにおいて大切にしていることや、往診や在宅診療のやりがいなどについて話を聞いた。
(取材日2017年10月31日)
「これだ!」という手応えを感じた在宅診療
医学の道を志されたきっかけは何ですか?

最初は大学の工学部で機械工学を専攻しており、機械の材質やメカニズムを学んでいました。とはいえ、学業に専念するのではなく、アルバイトばかりしている学生でしたね。そんなときに、周囲のアドバイスをきっかけに、医学部へ進路変更することにしました。当時興味を持っていたのは産婦人科です。人間の出生に関わることのできる診療科ですし、無事に元気な子どもを生んでもらえたらという思いもありました。
関西医科大学卒業後は、同大学の医局で消化器内科を専攻されていますね。
研修でさまざまな診療科を経験して、産婦人科以外の診療科にも魅力を感じるようになりました。私の場合、医学部の前に工学部に通っていた関係で、現役の学生より遅いスタートだったんです。自分の興味のある分野をじっくり研究するという時間的な余裕はなく、臨床医として自立することが最優先だったので、応用範囲の広い消化器内科を専攻しました。
在宅診療と出会われたのはいつですか?
母校の内科の医局を経て、市民病院の消化器内科に勤務した後、個人病院の一般内科に移りました。そこで消化器に限らず、さまざまな症例を診るという経験をしました。最初はずっと勤務医を続けようと考えていたのですが、その病院ではデイケア、介護、往診を行っており、「これだ!」という手応えを感じるようになったのです。大きな病院に勤務していると、例えば私の場合は消化器内科で内視鏡を用いた検査ばかりの毎日になります。それはそれでやりがいのある仕事だと思いますが、人間のコアの部分に接して一人ひとりの生き方、人生を感じられる在宅診療を行っていこうと思いました。医師を職業として捉えるだけでなく、本来の「医療」の意味を意識するようになったのです。
在宅診療を行うために開業されたのですか?

当初から、外来診療に加え、在宅診療とデイケアを行うクリニックとして開業しました。在宅診療やデイケアに対する要望が高い地域で、デイケア用のスペースが確保できる広い場所を探して、今の所に落ち着きました。通常、クリニックを開業するとなると、患者さんがアクセスしやすい大通り沿いや駅の近くが望ましいのですが、当院はデイケアを併設しているので、通りから少し奥まった場所のほうが送迎の車が出入りしやすいので好都合なんです。
地域とのつながりを大切に
「在宅診療はハード」というイメージがあります。

私は、在宅診療はまったくハードだとは思っておらず、勤務医をしていた頃も現在も、むしろ楽しいものと実感していますね。病院の診察室で椅子に座って「今日はどうされました?」と診察しているより、お宅に訪問してご本人、ご家族とお話しし、お宅の様子なども拝見しながら治療していくほうが患者さんの本来の姿に接することができ、楽しさを感じるのです。
訪問診療や高齢者の診療で大事にされていることを教えてください。
症状ごとに一律の杓子定規的な対処を行うのではなく、ご本人の希望、ご家族の希望、さらに経済的なことを含めたご家庭の事情を考慮して、診療方針を決めるように心がけています。患者さんの言うとおりにするわけではなく、医師としての主張は行いますが、ご本人やご家族に寄り添って、いい方向へと向かえるような治療を提供したいと考えています。病気によりご本人との意思疎通が難しくなることもありますが、できるだけ早い段階でご本人としっかりお話しするようにしており、筆談などを用いればコミュニケーションを取れるケースも少なくないのですよ。
訪問診療はお一人で回られるのですか?
患者さんごとにスケジュールを組んで、私が一人で訪問します。予定に沿って伺う訪問診療のほかに、状態が急変した場合などは緊急の往診もあります。現在、施設の訪問と個人宅の訪問の割合は半々ぐらいで、胃ろうをしておられる方や人工呼吸器を使用しておられる方、認知症や糖尿病など、患者さんによって求められる診療内容はさまざまです。
訪問看護ステーションとの連携が欠かせませんね。

はい。当院の場合は、地域の訪問看護ステーションと連携して在宅診療に取り組むのが基本姿勢です。現在、別法人として2つの訪問看護ステーションを経営しています。自前の施設と連携する、あるいはケアマネジャーを置いて居宅介護支援事業所という方法もあるとは思いますが、そうすると世界が狭くなりがちです。私はやはり地域とのつながりを大切にしたいと思いますし、積極的にたくさんの施設や介護に携わる方々とネットワークを築くようにしています。
不安を取り除き、安心を届けたい
「在宅診療をしていてよかった」と思われるのはどんなときでしょう。

「病気を見つけてもらったおかげで助かりました。ありがとう」と言われるよりも、「先生と冗談を言い合ったりして話していると心が安らぐ」「元気をもらいました」「来てよかった」と言われるほうが、ずっとうれしいですね。はっきり自覚されていないこともありますが、受診される際は皆さん不安を抱えておられます。その不安を払拭するのが私の仕事だと思っています。例えば、些細なことですぐ救急車を呼ぶ患者さんがおられ、ケアマネジャーさんが困って相談に来られたことがあります。ところが、私が往診するとぴたりと救急車を呼ばなくなりました。定期的に医師が訪問することで不安が取り除かれて、安心されたのだと思います。往診先ではもちろん治療を行うのですが、むしろ安心感を届けるつもりで訪問しています。
患者さんから緊急の連絡があった場合には、どのように対応なさっているのですか?
緊急の往診は多いほうだと思いますが、それでも夜中などにすぐ駆けつけなければならないというケースはそれほどありません。もちろん、すぐに薬を出さなければならない、急な処置が必要な場合は、私でないと対応できないので急いで往診に向かいます。しかし、容体の変化を予想して、それぞれの場合の対処法を家人や本人に事前にしっかり伝えています。ですが、訪問看護ステーションに対応してもらうことも少なくありません。
多忙な日々を送られていると思いますが、リフレッシュ法や健康法はありますか?
子どもの頃から車が好きで、ディーラーに車に貼るステッカーの希望を、はがきを送ってはたくさん集めていました。今も車好きは変わらず、愛車を走らせるのがリフレッシュできる時間です。音楽も好きで、EDM、レゲエ、ジャズなど、いろいろなジャンルの音楽を聴いています。クリニックで残業するときには好きなCDをかけています。健康法は早寝早起きですね。夜10〜11時には布団に入って、朝5時には起きています。在宅診療に携わっていると、急な呼び出しに備えてお酒を飲めないのですが、そのおかげで早寝早起きの生活が実践できています。
最後に、読者にメッセージをお願いします。

診療中は雑談ばかりしているのですが、「こんな私でよかったら頼ってください」という思いでいつも患者さんに接しており、話せてよかったと思ってもらえるのが喜びです。不安を抱えておられるなら、その不安が大きくならないうちに、よく話を聞いてもらえる医師をかかりつけ医にされることをお勧めします。