医療的ケア児にもっと口腔ケアを
訪問診療の充実で健康維持に寄与
大屋歯科医院
(世田谷区/千歳船橋駅)
最終更新日:2023/07/13


- 保険診療
東京都世田谷区にある「大屋歯科医院」の赤尾眞理院長は、歯科医師として出発した当初から訪問診療への意欲を持ち続け、20年以上前に同院を先代院長から引き継いで以降は、高齢患者の増加と歩調を合わせ、通院が難しくなった人たちのそれぞれの自宅や特別養護老人ホーム、グループホームに足しげく通って歯科診療を行ってきた。そんな赤尾院長が現在、強い関心を寄せているのが、医療的ケア児に対する訪問歯科診療である。日常的な医療ケアを必要としている一方で、これまで歯科医療が十分に提供されてこなかったことに危機感を覚え、少しでも子どもたちの助けになろうと意欲を燃やしている。医療的ケア児の口腔ケアが急がれる理由と現状の問題点、実際に訪問した際に心がけていることなどについて、赤尾院長に聞いた。
(取材日2023年7月5日)
目次
日常的な医療ケアが必須の子どもたちを肺炎のリスクや虫歯・歯周病の悪化から守り、食べる楽しみの提供へ
- Q先生は訪問歯科診療に長年注力されてきたそうですね。
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A
▲長年、医療的ケア児の治療に力を入れてきた赤尾院長
私が訪問診療を意識しだしたのは大学生の頃です。食べ物や水分がうまく飲み込めない摂食嚥下障害の治療に、国内で早くから取り組んでいた先生に学ぶ機会を得て、実際に飲み込みで苦労しているお子さんやお年寄りの方たちを目の当たりにしました。それ以来、自分が歯科医師として開業したら、採算を度外視してでもお手伝いしたいと思うようになりました。現在当院では、年齢と重ねて通院が難しくなった患者さんを中心に、ほぼ毎日訪問診療を行っています。そして最近、在宅医療を必要としているお子さんの中にお口のことで困っているケースがかなり多いことを知り、今後は「医療的ケア児」に対する訪問診療にも力を入れたいと考えています。
- Q医療的ケア児とは、どのような子どものことを指すのですか?
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A
▲口腔内の治療を行うために使用する口角開口器
人工呼吸器や胃ろうなどを使うため、日常的にたんの吸引や経管栄養のチューブ交換など医療的ケアが必要なお子さんを、このように呼んでいます。医学の進歩により、自宅で家族と過ごす医療的ケア児が増えていますが、こうしたお子さんたちへの訪問歯科診療は取り組みを始めてまだ日が浅く、十分なケアができているとは言えない状態です。
- Q医療的ケア児が歯科診療を受けるのは難しいのでしょうか?
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A
▲家庭で抱え込まずに、積極的に相談してほしいという
歯科診療自体が難しいというより、それを行うための環境整備が追いついていないのだと思います。例えば、高齢者には介護保険制度があり、ケアマネジャーが中心となってさまざまな介護サービスを手配していますが、医療的ケア児の場合はそのように一本化されたマネジャー的な窓口がないため、病気と直接関わる医療的ケアは行われても、歯科診療まではなかなか結びついていないのが現状です。また、医療的ケア児を世話しているお母さんやお父さんはすごく頑張っているのですが、お口のことについて相談できる相手が身近にいないことも、歯科診療の提供や必要性への理解を遅らせている一因だと考えられます。
- Q先生は医療的ケア児の訪問歯科診療をどのように行っていますか?
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A
▲訪問時に使用する器具はパッキングして持ち運ぶ
体にチューブを入れていたり気管切開をしていたりするため、診療はすべてベッドサイドで行う必要があります。お口を開けてもらう以前にじっとしているのが難しいことが多いので、私の場合、なるべくリラックスできるように、まずコミュニケーションを取ることから始めます。意思を言葉で伝えられない子でも、何度か通ううちに、表情のわずかな変化から今喜んでいるかなとか、だんだんわかるようになってくるものです。ポータブルユニットなどの機材は、通常の訪問診療と変わりません。その代わり、いろいろな種類の歯磨き粉を持っていって好きな味や香りがどれかを試すなど、お口の掃除が好きになってくれるような工夫をしています。
- Q医療的ケア児も定期的に口腔ケアをするべきですか?
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A
▲赤尾院長が愛用している訪問診療用のポータルユニット
そうですね。お口の中の雑菌が肺に入ると肺炎を起こす恐れがあるので、なるべくきれいな状態を保つことが大切です。また、虫歯や歯周病に注意しないといけないのは誰しも同じですけれど、医療的ケア児の場合は大きな処置になると全身管理をしながら行わなければならず、本人への負担が心配です。そうさせないためにも、定期的に歯科医師のチェックを受けて予防に努め、もし虫歯ができても悪化させないことが重要になります。歯の健康が全身の健康維持にもつながるのは医療的ケア児も同じ。経管栄養を行っていても、お口の中のケアを忘れないようにしてほしいと思います。