上野 員義 院長、上野 真史 先生の独自取材記事
うえの耳鼻咽喉科クリニック
(鹿児島市)
最終更新日:2024/09/25

ブルーの看板に描かれたピンクの象が目印の「うえの耳鼻咽喉科クリニック」は、25年近く近隣住民の耳鼻咽喉の診療に注力し続けているクリニックだ。上野員義(かずよし)院長は、鹿児島大学医学部を卒業後、大学院で博士号を取得。その後、米国の大学や研究所で客員研究員を務めて研鑽を積んできた。その経験をもとに、耳・鼻・喉など首から上の症状やめまいやふらつきなど幅広い疾患に対応。院内に飾られた患者の手作りの小物や子どもたちからの手紙など、患者との信頼関係の深さがうかがえる。2024年4月から息子である上野真史先生が月に1度診察に加わり新体制に。真史先生は慶應義塾大学病院で耳科学を専門にし、当院での聴覚・補聴器分野の診療をさらに強化。先生たちが専門にする領域の治療や今後の展望など、じっくり話を聞いた。
(取材日2024年6月15日)
耳鼻咽喉科は、人生に彩りを与える診療科
今年から真史先生が非常勤として診療に加わられたんですよね。

【員義院長】入り口のクリニック名の看板に描かれた目が大きくて2本足のピンクの象さんは、実は息子が小学校1年生の時に遠足で描いたものです。その息子が今年の4月から第3土曜の診療を私とともに担当しています。東京で聴覚を専門に研鑽を積んでおり、新しいメンバーに加わってくれ心強く思っています。
【真史先生】大学やいくつかの病院で学んださまざまなことを、地元である鹿児島の皆さんに還元したいと思い、今はまだ月に1度ですが、当院で診療をさせてもらっています。特に僕が大学で耳科聴覚の治療を専門的に行っているので、その領域で困っている患者さんの力になりたいですね。いきなり鹿児島県全域にというようなことは言えませんが、まずは地元紫原から順に貢献できればと思っています。
こちらのクリニックの診療方針を教えてください。
【員義院長】耳鼻咽喉科というのは、人生を彩るための診療科だと考えています。聴覚、味覚、嗅覚、音声などに関わっているため、それら耳、鼻、喉などの器官に不調がある場合は、ただ生きるためだけに治療するのではなく、生活を彩るための治療を追求していかなければと思います。それはいわゆるQOLといわれる生活の質を向上させることに加え、生活を楽しむための機能を充実させることができるようにという考えですね。お子さんに多い風邪やインフルエンザ、中耳炎、近年増え続けている花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎などの治療とともに、聞こえにくくて不自由を感じている患者さんに補聴器をお作りする外来など、生活の質と人生を彩るサポートをしていきたいと考えています。
患者さんの年齢層や主訴は?

【員義院長】0歳のお子さんから90歳代まで患者さんの年齢層は広く、主訴もさまざまで首から上の症状は全部といえますね。小さなお子さんは鼻水や鼻詰まりで受診される方が多く、鼻が詰まると呼吸をするために口が開き、感染症にもなりやすいです。口や喉につながる鼻は呼吸だけでなく、脳にもつながっていてさまざまな働きをしますので、耳・鼻・喉を大事にしてください。また、梅雨の時期はめまいの患者さんが多くなります。漢方ではそれを「水毒」と呼んでいて、発汗がうまくいかない場合に、体内の水分バランスが崩れてめまいなどにつながっていくことがあると考えられています。漢方については開業してからいろいろ勉強し、「未病」の観点から必要に応じて積極的に取り入れています。
個々の患者に適した補聴器を聴覚専門の医師が提案
真史先生は聴覚がご専門ですが、難聴とはどのような状態をいうのでしょうか?

【真史先生】定義は難しいですが、一般的には聴力が低下して日常生活に支障を感じているような状態を難聴といいます。多くの方が高齢になるにつれ少しずつ聞こえが悪くなりますが、難聴は高齢者だけではなく誰にでも起こり得ます。先天性の場合や中耳炎がこじれて難聴になることもあります。耳垢がすごく詰まっていて聞こえが悪ければ、それも難聴の一つといえるでしょう。外来や手術などの処置によって聴力の回復を期待できる場合もありますので、治療できるものは治療をし、そうでない場合は補聴器が必要かどうかを見極めることが重要です。ですから耳の聞こえ方に違和感を覚えたら、なるべく早めに耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。
高齢者で補聴器をつけることに抵抗がある方もいるようです。
【員義院長】日本人は補聴器に嫌悪感を持っている方が多いと思います。補聴器をつけていると年を取っていると感じるようですが、ヨーロッパや北欧などでは補聴器の普及率が高いんですよ。難聴は認知症のリスクファクターといわれていますので、患者さんの意識が少しずつ変わっていけるように、私たちも啓発していかなければと思います。
ところで、先生方が医師になろうと思い、耳鼻咽喉科を選択されたきっかけを教えていただけますか?

【員義院長】初めて医師の世界を身近に感じたのは、小学校の時にスポーツ大会の競技で着地に失敗して骨折をした時です。その時に治療してくれた医師の姿を見て「いいな」と思ったのがきっかけです。耳鼻咽喉科を選んだのは、数ある科の中で魅力を感じた診療科だったことと、教室の雰囲気が良かったからですね。
【真史先生】やはり父の影響は大きかったと思います。父から「医師になりなさい」と言われたことはありませんでしたが、子どもの頃に父が働く姿を見て「人のためになる仕事をしたいな」と思い医学部進学を決めました。実家が耳鼻咽喉科クリニックであることに加え、患者さんのQOLを向上させたいという思いと、自分の治療で症状を改善させて、患者さんが喜ぶ姿を見たいという気持ちが、この道を選んだ大きな動機となっています。
先端の知識や技術を地元鹿児島に還元したい
診療時に心がけていることはありますか?

【員義院長】診療の際は、患者さんのパーソナリティーを大事にし信頼関係を築くように努めています。25年診療していると、赤ちゃんだったお子さんが成人し、お子さんを連れて親子で来てくださる方もいて、そういった成長が見られるのも開業医の楽しみというか、うれしいところですね。親子3代で通ってくれる患者さんもいらっしゃいます。そうやって家族で長年通院されていると、体質などもわかってくるので、診療をする際の助けになっています。
【真史先生】大学病院や総合病院と比べてクリニックは患者さんとの距離が近いなと感じます。もちろん患者さんに真摯に向き合うことはどちらも変わりませんが、こちらでは患者さんのさまざまな話を聞くことも多く、患者さんの気持ちにできるだけ寄り添って診療するように心がけています。
真史先生が今後も守り続けたいこと、新しく取り入れていきたいと思うことをお聞かせください。
【真史先生】父はここで25年近く、幅広い年齢層の患者さんのさまざまな疾患の診療をしており、それはこの地域の耳鼻咽喉科の初期治療と皆さんの健康を支えていると思います。僕は今までずっと大学病院や総合病院で勤務していますので、どうしても専門である聴覚の治療が主になっていますが、今後は専門以外の分野の勉強にも注力していきたいと思っています。クリニックでは患者さんとより密接な関係になるため、患者さんの社会的背景や家庭的背景も考えていく必要があり、父の診療から学ぶことはたくさんありますね。また、僕が東京で学んできた耳科・聴覚の先端の知見や治療法を積極的に取り入れていきたいと思います。
最後に、地域の方々や読者へのメッセージをお願いします。

【員義院長】耳鼻咽喉科は専門性が高いところがあり、私は上気道が専門で真史先生は聴覚を専門にしています。彼が東京の大学で聴覚のグループに属し、先端の発想と技術を学んでいるので、ぜひこの鹿児島でも発揮してもらえるよう期待しています。
【真史先生】まずは鹿児島の補聴器診療を支えていきたいと思っています。補聴器もさまざまな種類があり、今まで補聴器に対し消極的だった方も、相談していただければその方に合った物を提案することができると思います。当院は、週2回補聴器の相談をお受けする外来の時間を設けていますが、皆さんがもっと利用しやすいように、今後は徐々にその枠を増やしていければと思っております。