金子 美香 所長の独自取材記事
こぐま学園診療所
(小郡市/西鉄小郡駅)
最終更新日:2026/05/13
児童発達支援センター、放課後等デイサービス、生活介護事業所、就労継続支援B型事業所、病児保育所、企業主導型保育所などを備え、発達が気になる人や障害がある人と家族に対し包括的な支援を行う「こぐま学園」。その医療面を担うのが、「こぐま学園診療所」だ。小児科、内科、精神科、リハビリテーション科を標榜し、日本小児神経学会小児神経専門医の金子美香所長が、診断にとどまらず、生活に根差した視点で診察・評価を行い、子どもと家族に寄り添った診療に取り組んでいる。陽光が差し込む居心地の良い院内には、エックス線撮影装置、血液検査機器、心電図検査機器を新たに導入し、診療体制をさらに充実させるという。明るい笑顔と子どもたちへの思いやりにあふれる語り口が印象的な金子所長に、同院の特徴や診療方針について話を聞いた。
(取材日2026年3月18日)
福祉と連携した医療で、子どもとその家族に向き合う
先生のご専門は小児神経科と伺っています。

久留米大学医学部を卒業後、久留米大学病院や聖マリア病院、北九州市立八幡病院の小児科での研修を経て、大学院を修了。その後、久留米大学病院、聖マリア病院に勤務しました。出産後、子育て中は夜勤が難しいため、非常勤としてさまざまな小児神経の外来を経験させていただきました。小児神経を専門に選んだ理由は、神経が好きだったからです。脳の指令で手足が動くことや、胎児期からもお母さんの声を聞いていることなど、脳の仕組み、脳の発達に興味があり、大学院でも神経伝達物質の研究に取り組みました。神経の疾患はとても幅広く、すべてに精通することは困難です。私はてんかんや脳症などの分野にも携わってきましたが、7年前に当院の常勤となり、子どもや親御さんたちと関わっていく中で、「発達」を診ていくことに興味を持ち現在に至ります。
診療所の特徴について教えてください。
「こぐま学園」は、児童発達支援センターと生活介護施設、就労支援事務所、託児所を含む福祉と医療の機能を備えた施設で、当院はそこに併設された診療所です。小児科、内科、精神科、リハビリテーション科を標榜しており、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士による個別訓練、心理士による心理カウンセリングも行っています。大学病院のようにてんかんの治療や精密検査などは行いませんが、運動発達の遅れ、あるいは知的な遅れがある方を診察し、全身の症状を診て、どういった訓練が必要なのか、集団療育に入っていただけるかなどを決めます。精密検査が必要な場合は大学病院などに紹介することもあります。当施設は、感染症対策を厳格にしていますから、集団療育に入る場合も安心して利用していただけるというメリットがあります。
診療で工夫されていることはありますか?

乳幼児の診察では、親御さんと話すことがメインになりがちですが、診察室に入室後、まずお子さんと接するようにしています。椅子に座れる子は座ってもらいますが、皆さん最初は不安げに入って来られるので、親御さんと一緒にマットに座ってもらい、おもちゃを出しながらやりとりします。そこから慣れてきたところで、聴診をし、腱反射などの神経学的所見を取るなどして、診察が終わったところで看護師にバトンタッチします。泣いて終わってしまうこともあるかもしれませんが、お子さんがニコニコして親御さんから離れられるよう努めています。また、診察日でない時に診察室を訪ねてくれる子もいます。そんな診療所はなかなかないと自負していますね。
親子関係にも影響、「子どもの睡眠」の重要性を啓発
先生は「子どもの睡眠」を重視されているとか。

昔は、寝ずに頑張ることが良しとされていたと思いますが、最近では、睡眠が見直されてきており、精神科の先生方も重視されています。乳幼児健診で発達を診る中、赤ちゃんが寝ないことは仕方ないと諦めている親御さんが多いとわかりました。生後4ヵ月以降はある程度の睡眠覚醒リズムができてくるのですが、眠れないということは、もともと持っている過敏さが影響している可能性もあります。そのことも踏まえて生活指導を行い、睡眠の改善を図ることで、その後の発達や親子関係にも変化が生まれてくるのではないかと考え、介入を心がけています。多動やかんしゃくを起こすお子さんは、睡眠の相談に乗りアドバイスするだけでも変化が期待できると思います。
睡眠の改善にはさまざまなメリットが期待できるのですね。
大事なのは「親御さんも楽になる」ということです。親御さんたちはお子さんに付き合って起きているため、働いている方は睡眠不足で眠い中、仕事をしなくてはいけません。それが、お母さんやお父さんも眠れるようになると、育児にも余裕が出て精神状態も落ち着き、お子さんにも優しく関われるようになります。子どもたち自身も思考がクリアになるのか、集団療育の場でも活動が積極的になり、さまざまなことを吸収して発達が促されることが期待できるのです。子どもたちの変化を現場のスタッフからフィードバックしてもらえるのも、通所施設を併設している「こぐま学園」の強みですね。
スタッフさんについても教えてください。

スタッフはそれぞれが専門性を持って、しっかり関わってくれていますね。それは当院の伝統だと思います。そのおかげで、訓練に来ることが楽しみになって、お子さんの表情がどんどん変わって、笑顔あふれる施設です。育てにくさは子どもだけの要因ではなく、親子関係や親子を取り巻く環境にもありますから、当院では相談員やリハビリスタッフが自宅や園、学校へ訪問し、親御さんが子育てしやすい環境づくりにも動いてくれます。私はそのスタッフたちと直接話ができますから、発達を診る医師としてはとても恵まれた環境だと思いますね。夏祭りや運動会、ウォーターランドといって園庭にブルーシートを敷き詰めて水をためて庭一面を大きなプールにするなど、さまざまなイベントにも取り組んでくれています。子どもたちの楽しそうな様子を見ると、私自身が癒やされますね。スタッフは一生懸命に勉強しているので、私自身も勉強しなければと思わされます。
移転先でも守り続けたいあふれる笑顔と温かな雰囲気
診療で大事にしていることは?

お子さんとの遊びを通して、その子が伝えようとしていることや表現しきれない部分を代弁できるよう意識して関わっています。お子さんのしたいことをくみ取って私が反応してあげると、とても喜んで遊んでくれるので、その中で、例えば手の動かし方が少し鈍いとか、視線が合いにくい、言葉がどのくらい出るかなどを診ます。その後、看護師に引き継いでお子さんと遊んでもらっている間に親御さんの問診を取ります。お子さんが私と遊ぶ姿を見て、そういうふうに関わると子どもの反応がこう出るんだと、親御さん自身の気づきになることもあります。これは訓練でも同じで、例えば訓練士が肢体不自由のお子さんの表現しきれないところを引き出し、それを見た親御さんが笑顔になることも。診断だけを目的とせず、生活に根づいた診察・評価ができるところが当院の良さかもしれません。
先生ご自身の子育て経験は診療に生かされていますか?
若い頃は「医学的に大切なことをしっかり守ってもらわなくては困る」という発想でした。例えば、薬を処方したら飲ませるのが当たり前だと思っていたんですね。でも、実際に自分が子育てしてみると、飲んでくれないということが起こってきます。今では「薬を出すけど、飲めないかもしれないよね」という一言が言えるようになり、お母さんの立場に立てるようになったことは、小児科医として育児を経験して良かったと思うところです。
では、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

2026年5月から新施設へ移転します。移転先には、これまでなかったエックス線撮影装置、血液検査機器、心電図検査機器などを導入、整形外科医師による装具や手術の要否の診察がよりスムーズになります。また、環境調整をしても精神的に落ち着かないお子さんへの薬剤の選択の幅も広がります。新施設の建設にあたっては「古い施設の雰囲気をそのままにしてほしい」とお願いしました。ここには、おばあちゃん家のような雰囲気があり、それがいいと思っています。新施設も、皆さんの居場所になる温かな雰囲気です。保護者の方には、1人で悩まずにどこかに相談してほしいとお伝えしたいです。インターネットでネガティブな情報を得て過度に心配して来られる方もいます。将来的にはSNSなどを通じて正しい情報を「こぐま学園診療所」から発信し安心していただけたらと思っています。

