増田 宏 院長の独自取材記事
ますだ小児科
(広島市東区/広島駅)
最終更新日:2024/06/05

広島駅から徒歩で約10分。広島市東区役所と東区民文化センターとの間に、ドイツ風建築の外観が印象的な「ますだ小児科」がある。院内はパステルカラーをあしらったデザインでまとめられ、小さな子どもでも来院しやすいような優しい雰囲気を醸し出している。増田宏院長は日本小児科学会小児科専門医として、開業以来20年以上子どもの健康を見守り続けている。同院では病気の診療や予防接種、健康診断に加え、心の問題をケアするため公認心理師によるカウンセリングも行っている。また病気の子どもを預かる病児保育室も院内に併設するなど、子育て全般に対するサポート体制を整えている。地域の子どものかかりつけ医として積極的に小児科を利用してほしいと語る増田院長に、いろいろな話を聞いた。
(取材日2020年10月13日/情報更新日2024年5月8日)
自分のめざす診療を実現するために開業
まず医師になったきっかけからお聞かせください。

子どもの頃は、将来科学者になりたいと考えていました。世界的な賞をもらうような大きな研究をしたいと考え、医療分野の研究者をめざしたんです。ですが、入学した広島大学医学部では医師の養成のほうに力を入れていました。僕自身も臨床実習で患者さんと接しているうちに、研究よりも臨床にやりがいを感じるように。特に子どもたちのサポートができたらと思うようになりました。広島市立安佐市民病院での診療を経て、東京女子医科大学の付属機関である日本心臓血圧研究所に研究員として勤務。そこで難しい心臓病のお子さんを多く診る機会を得ました。その後米国のオハイオ州立シンシナティ大学に2年間留学し、マウスの心臓のメカニズムをコンピューターで解析するという、当時としては先進的な研究に携わりました。そこで自分には研究より臨床が向いていることを再確認して、臨床医へと方向転換し今に至ります。
その後開業までの経緯を教えてください。

帰国後は、広島大学病院と土谷総合病院で小児心臓病を中心に診療を行っていましたが、とても忙しくて自分の思うような診療ができないと感じるようになりました。患者であるお子さんの治療を行うのは当然のことですが、同時に、親御さん、特にお母さんの不安な気持ちをケアする必要を感じました。でも、勤務医の立場では、そこまでの時間が取れないんですね。そういったことから、自分がめざす診療を実現するために、開業を決めました。
腹部エコーについて教えてください。
子どもはしばしば腹痛を訴えます。原因の多くは、便秘やウイルス性胃腸炎ですが、時に急性虫垂炎や腸閉塞、腸重積など緊急性を要する病気も見られます。当初、胃腸炎だと思われたものが、痛みが続き総合病院で検査を受けたところ、急性虫垂炎で緊急手術になったというケースもあります。腹部エコーにより、より早く適切な診断が可能になります。エックス線による被ばくを心配することもありません。当院では、総合病院で使用されているのと同じ高性能の腹部エコーを使用して、より正確な病気の発見に努めています。「エコーを聴診器のように使う」ことで安全で安心な診療をめざしています。
病気だけでなく子育て全般についてサポートしたい
小児科として多い症例や診療の特徴などはありますか?

子どもは風邪を引きやすいので、咳、鼻水、発熱といった症状の患者さんが多いですね。喘息や鼻炎などのアレルギー疾患や、湿疹などの皮膚疾患の患者さんも多いです。たまにケガをしたとか、中耳炎なども診ます。他には予防接種、健康診断などですね。また小児心臓病を専門にしていますので、学校検診で心雑音や心電図異常を指摘されたお子さんが来ます。診療の特徴としては、抗生剤を安易に使わないようにしていることと、やけどや傷を乾燥させずに治療する閉鎖療法(湿潤療法)を行っていることです。また、広島市からの委託で「病児保育室きぼう」を院内に開設しています。保育所、幼稚園、小学校に通っているお子さんが風邪をひいたときなどにお預かりして、専任の保育士と看護師がお世話しています。
子どもの心のケアにも力を入れていると伺いました。

僕自身は、心の問題をケアするようなノウハウを持っていませんので、公認心理師がカウンセラーを務めています。子どもは大人のようにうまく言語化できないので、むしゃくしゃして癇癪を起したりおなかが痛くなったりと行動や症状に気持ちが表れることが多々あります。そのため、当院では守られた空間で自分を表現し受け止めてもらうことを、遊びを通して経験し、自信をつけ元気になってもらうプレイセラピーというサポートをしています。通う頻度や期間はお子さんそれぞれ。本人の成長や頑張りに加え、親御さんのお子さんとの向き合い方も大切です。そのため、親御さんには受診までの経緯を伺うとともにお子さんへの理解をより深めてもらう親面接を実施。対応法や学校との連携などについてアドバイスし、お子さんが生きやすいようにサポートしています。
カウンセリングでもチーム医療を大切にしているそうですね。
かかりつけ医の安心感、信頼があってこそデリケートな悩みを相談してもらえると思っているので、クリニック全体でお子さんをサポートしようというスタンスを大切にしています。カウンセラーと医師・看護師・受付スタッフ・保育士はお子さんの情報を共有。医師や看護師は普段の受診の様子をカウンセラーに伝えていますし、受付スタッフも待合室での親子のやりとりで気づいたことがあれば報告しています。また、カウンセリングの経過は報告書という形で医師に伝わっています。カウンセリングはハードルが高いと思う人は多いかもしれません。ですが、子どもの成長の経過を見守ってきたクリニックに悩みを相談することで、問題が整理されて心が楽になることもあるのではないでしょうか。癇癪、チック、落ち着きがない、学習面での心配事など、こんなことを相談していいのかなと思わず、気軽に何でも話してください。
子どもの病気はまず小児科の医師に相談してほしい
診察する上で心がけていることを教えてください。

子どもを怖がらせないということですね。白衣を着ないのもそのためです。痛いことはできる限りしない。それからお母さんの訴えをよく聞くことも心がけています。診察後は親子で安心して帰っていただけるようにしたいですね。かかりつけ医に登録された方には、携帯電話で休日、夜間でも急病の相談に応じていますので、何か心配なことがあれば、遠慮せず連絡してもらいたいと思っています。
今後の展望を教えてください。

基本的には、開業時から今までと同じように、子育てをサポートすること、困ったときにはいつでも役に立てるように、ということを続けていこうと思っています。自分も年を取ってきましたので、あまり手を広げ過ぎず、周りの人の手を借りながら、当院を頼りにしてくれる人がいらっしゃる間は頑張ろうと思っています。若い親御さんが子育てについて詳しくないのは当然ですし、昔はわからないことがあったら周りに相談できる人がいました。でも現代では相談相手がいない上に、インターネットの誤った情報に惑わされることも少なくありません。近年、子育てが難しくなっているのではないかと思います。若い親御さんが安心して子育てができるようなサポートをしていきたいですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
「もっと小児科を利用してほしい」ということですね。大人なら症状により内科や眼科、耳鼻科、皮膚科などに直接行くと思いますが、子どもの病気はまずかかりつけの小児科の医師に相談していただきたいと思います。診察の結果、たいていの病気はその場で治療に応じられますし、必要があれば適切な医療機関をご紹介します。それが子どものかかりつけ医の役割です。小児のかかりつけ医は、皆さんのお子さんの主治医として、大人になるまでの健やかな成長を見守り続けます。ですからお子さんのことをよく理解してくれる小児科の医師を見つけてほしいと思います。