音成 龍司 院長の独自取材記事
音成脳神経内科・内科クリニック
(久留米市/久留米駅)
最終更新日:2023/10/26
本町バス停から徒歩4分の場所にある「音成(ねしげ)脳神経内科・内科クリニック」だ。日本神経学会神経内科専門医である音成龍司(ねしげ・りゅうじ)院長が得意とするのはパーキンソン病、てんかん、そして片頭痛の治療。脳神経内科として40年。九州一円からの患者も診ることがある。近隣の各クリニックや基幹病院とも連携し、それぞれの強みを生かして患者を診る地域ぐるみのチーム医療を大切にしている。また地元久留米の子どもたちに学びの場を提供するため、各分野の医師や病院と協力してイベントを主催。脳神経内科の先進の知識を持ちながら地元久留米の発展にも力を尽くす院長に、脳神経内科はどのような症状がある際に足を運ぶべきか、そして院長が心がけていることや患者に伝えている院長のモットーなどについて詳しく話を聞いた。
(取材日2023年8月2日)
パーキンソン病、てんかん、片頭痛の専門家として尽力
脳神経内科とは、どんな症状があるときに行くべきですか?
神経の疾患は本当に幅広いのですが、私が得意としているのは、パーキンソン病、てんかん、片頭痛の治療の3つです。それぞれの受診の目安となるものをお伝えしましょう。まずはてんかん。子どもが急に意識を失いけいれんを起こす、というイメージもありますが、てんかんは全年齢起こり得る疾患です。特に高齢者で増えています。突然妙なにおいがしたり変な景色が見えたりして、そのわずか10〜30秒ほどの間に意識がなくなることもあります。もし突然意識がなくなったり戻ったりすることがあれば、けいれんの症状がなくてもてんかんの可能性が考えられるため、年齢に関係なく脳神経内科を受診してください。
パーキンソン病、片頭痛についてもお聞かせください。
パーキンソン病にかかりやすいのは60〜70代ですが、まれに40代で発症する方もおられます。患者数は増え、65歳以上の100人に1人にみられます。注目すべき点は「動き」です。以前に比べて全体的に体を動かしづらくなった、歩くのが遅くなった、字が下手になったなどの兆候に気づいたら、来院のタイミングです。比較する期間は、1年もしくは数ヵ月などの短い期間で考えてください。5年ほどであれば加齢によるものと考えられるからです。そして片頭痛で注意してほしい点は、市販されている鎮痛薬を1ヵ月に10回以上服用しないようにすることです。そうでないと薬が癖になり、薬の服用がきっかけで片頭痛が起きるようになってしまいます。
いずれも脳神経内科の専門家に診断をしてもらうことが大事なのですね。
もちろんです。片頭痛は治らないというイメージもありますが、効果が期待できる新しい薬も開発されています。また、漢方薬と頭痛の予防薬を併用することで症状の軽減を図るケースも増えています。面倒だからと市販の鎮痛薬に頼るのではなく、医師に相談するのが一番です。それに、もしかしたら大きな病気が隠れていることも考えられますからね。医学は日進月歩しており、20〜30年前はパーキンソン病の方は健常者よりも寿命が短いものでしたが、それは過去の話。今は適切な治療を受ければ、手のふるえや動きが遅いという症状はあるとしても、自分の身の回りのことを自分で行うことや、健康な人とほぼ変わらないくらいに寿命を全うすることも、十分に期待できると考えています。
地域の整形外科や精神科の医師たちとの「チーム医療」
先生が診療で大切にしていることは何でしょうか?
パーキンソン病やてんかんは長く付き合っていく疾患ですし、脳神経内科の疾患は非常に種類が多い点も特徴です。だから大事なのは、他科の先生方との「チーム医療」なのです。リハビリテーション科、脳神経外科、整形外科、精神科など、その方の症状に応じて、必要な治療をその専門の先生方と行っていきます。もちろんお近くのクリニックもあれば、久留米大学や聖マリア病院、久留米リハビリテーション病院などと連携することもあります。症状ももちろんですが、患者さんの通いやすさも大切ですから、ご本人やご家族と話し合いながら決めていきます。またパーキンソン病には医療費助成制度がありますし、てんかんは、当院のような「指定自立支援医療機関」にかかれば負担額が1割になる自立支援医療制度の対象にもなりますから、そういう有益な情報もきちんとお伝えしています。
クリニックでこれらの疾患を診るメリットはどこにあるのでしょう?
ほとんど切れ目なく患者さんを診ていけることでしょう。私は佐賀大学や柳川リハビリテーション病院などに勤めた後、当院を開業しました。それぞれの病院には素晴らしい点、そこでしかできない治療もありますが、患者さんの身近なクリニックであることの大きなメリットは、通いやすさにあると思います。大学病院が数ヵ月に一度の「点」であるならば、病院は「破線」、クリニックは「ほとんど切れ目のない線」とでも言いましょうか。そのくらいの頻度で患者さんのご様子を診て、対応ができることには大きな意味があります。そうやって40年以上、脳神経内科の治療に携われているのは、本当に幸せなことだと感じています。
クリニックでは2階のスペースを活用してリハビリテーションに取り組んでいらっしゃるとか。
パーキンソン病の方にとって、体を動かすことは非常に大切なことですからね。整形外科やリハビリテーション科の先生とも連携を取り、呼吸法や体に脳に良い刺激を与えるための運動などを行っています。家にこもるのではなく同じ病の患者さんたちとふれあい、交流し、体を動かすことは、疾患と付き合っていく上でもとても大切なことなのです。
苦しい時にも笑顔で現状を受け入れる心持ちを忘れずに
病気と付き合っていく上で大切なことは何だとお考えですか?
笑顔です。もちろんポジティブな考えを持つだけで病気が治るとは言いませんし、楽しい時なら誰でも笑えます。そうではなく、苦しい時や困っている時に心から笑えるか。でもその笑顔は頑張って出すものではないんです。いつまでもくよくよして過ごすのではなく、起きたことを受け止め、「まあこういうこともある」と自分で受け止めた時の心からの笑顔が、病気ではなくとも生きていく上では必要なのだと思います。また悩み事の多くは何年かたてば忘れてしまうもの。しかし中には命を危うくする悩み事もあります。そういうときは笑顔ではいられません。迷わず逃げて良いのだと私は考えています。うさぎに向かって「ライオンと堂々と戦え」とは言いませんよね。「自分の体と心を守るためには、例えば嫌なことばかりを言う人からは離れていいんだよ」と、そういう話もしています。
子どもたちに向けてDrブンブンというボランティアもやっておられるとか。
開業当初は脳神経内科の医師としてまい進することを念頭に置いていたのですが、10年ほど前に、久留米に対して何ができるだろうかと考えたことがきっかけです。若者は「東京に行かないと得られないものがある」と思いがちですが、久留米でもこんな勉強や仕事ができるんだよ、ということを子どもたちに伝えたくて始めたんです。「子ども医学部」は計20科の授業があり、その一つの産婦人科では妊婦の胎児をエコーで実際に見てもらったりしています。医学のほか、工学、科学、芸術分野の枠などもあります。Drブンブンはたくさんの方が集まるイベントになりました。久留米大学、新古賀病院、聖マリア病院、久留米総合病院や医師会、久留米市などのお力添えがあってこそです。そうやって続けていく中で「自分もいずれ医学の道へ進みたい」と思いその後医療関係の大学に進んだという学生から「ありがとう」という言葉をもらいました。本当にうれしいですね。
先生ご自身は今後どうしていきたいとお考えでしょうか?
今はほんの少しだけ地元の事業から手を離して、また脳神経内科の前線に戻っています。本の執筆や研究もありますし、勉強会などへの参加も積極的に行っています。私が講師として登壇することもあれば、聞き手となり、日進月歩する治療の新しい知識に驚くこともあります。これだけ脳神経内科の分野に携わってきたので、知っている知識のほうが圧倒的に多いのですが、中には知らないこともある。それをしっかりと得ながらもう一度前線で活躍したいと強く思い、勉強に励んでいる毎日です。脳神経内科の治療は「チーム医療」。地域のクリニックや基幹病院と手を取り合い、そして久留米の子どもたちの未来をより良いほうへ導いていけるよう、笑顔で診療を続けていきたいですね。