松前 裕己 院長の独自取材記事
松前内科医院
(一宮市/名鉄一宮駅)
最終更新日:2025/07/18

糖尿病治療を中心に、幅広い診療で地域医療に貢献してきた「松前内科医院」。2000年の開業以来、松前裕己院長は地域のかかりつけ医として、患者一人ひとりの生活に寄り添いながら、丁寧で温かみのある診療を続けてきた。糖尿病における先進的な治療にも対応し、健康寿命の延伸やエイジングケアにも力を注ぐことで、体の内側から長寿を支える医療の実現をめざしている。「病気は日常の延長にあるものですから、診療もその人の人生全体を見ながら行うことを大切にしています」と語る裕己院長の姿勢には、患者への温かなまなざしがにじむ。近年では、息子である松前彰紘先生が副院長として加わり、2人体制でのより専門的な診療が可能に。柔和な語り口と実直な姿勢が印象的な裕己院長に、地域医療への思いや今後の展望を語ってもらった。
(取材日2025年6月5日)
糖尿病治療の専門性を高め、地域に寄り添い続けたい
クリニックの特徴を教えてください。

当院の一番の強みは、やはり糖尿病治療ですね。糖尿病における専門的なクリニックとして、今まさに体制を整え終えたところです。今年からは、私の息子が新たに加わり、以前は私と非常勤の糖尿病専門医師3人で糖尿病の患者さんを診ていたところを、今は常勤2人と非常勤3人体制で対応できるようになりました。特に1型糖尿病の患者さんへの対応には、これまで以上に力を入れていきたいと思っています。インスリンポンプ療法を希望する患者さんの中には、費用面の課題などで導入が難しいケースもあります。そういった方に対しても、可能な限り選択肢を広げられるようにしたいですね。高齢の1型糖尿病の患者さんも増えてきているので、持続血糖測定器(CGM)などの新しい技術を取り入れて、より安全に配慮した丁寧な管理ができる体制を整えていきたいと考えています。
力を入れている診療について、もう少し詳しくお聞かせください。
2型糖尿病についても、引き続き力を入れて診療しています。最近は新しい注射薬や経口薬が次々に出てきていて、血糖コントロールが以前よりもきめ細かくできるようになってきました。合併症への対応も進んでいて、糖尿病性腎症や慢性心不全に対して、心臓や腎臓の機能を守るための治療が取り入れられるようになっています。さらに、糖尿病の予防や寿命を延ばすことを目的とした視点からの医療についても考えていきたいですね。ミトコンドリアの働きを高めるような薬が研究されていて、代謝の改善を図ることで長寿につながる可能性もあるのではないかと感じています。見た目の若さももちろん大事ですが、私は体の内側から整えていくエイジングケアに注目しています。多角的なアプローチ方法を視野に入れながら、希望の持てる医療を届けていきたいです。
現在通われている患者さんは、どのような方が多いのでしょうか?

今は糖尿病で長く通っていただいている方が多いですね。血糖のコントロール状況を見ながら、網膜症や腎症、心臓の働きなど、合併症が出ていないかをしっかりチェックしています。最近は新しい薬もいろいろ出てきているので、そういったものも活用しながら、予防的な医療も進めています。ただ、当院は地域のかかりつけ医でもありますので、風邪の症状のある方やストレスで不調を感じて来られる方もいらっしゃいます。私が診られる範囲でしっかり対応して、必要があれば専門の医療機関にご紹介しています。開業して25年がたちますが、少しずつできることを広げてきました。これからも、どんな患者さんが来られても対応できる、そんな地域のゲートキーパーでありたいですね。
運動と食事は治療の土台。しっかり支える場をつくる
リハビリ施設やカフェが院内にあり、設備が充実されていますね。どういった背景があるのでしょうか?

2017年に現在の場所へ移転していますが、以前のクリニックが手狭になってきたことに加え、糖尿病の治療をさらにレベルアップさせたいという思いがあり、この場所に医院を構えました。当院はリハビリ施設やカフェも併設しています。カフェは糖尿病の患者さんが、食べ物を実際に見て、味わって、安心してもらえることを大切にしていて、栄養を学ぶ場所にもなっていると思います。リハビリには関節に配慮した機器を導入し、楽しみながら運動できるよう工夫しています。現在は介護保険を利用する方が中心ですが、糖尿病患者さんにも積極的に使っていただきたいとも思っています。糖尿病治療において、運動と食事、この2つをしっかり支える場をつくることが、私にとって長年の目標でした。
これまでの歩みを振り返って、大切にされてきたことをお聞かせください。
当初は糖尿病を専門とするクリニックとしてスタートしました。ただ、診療を続けるうちに、次第に高齢の方やお子さんなど、幅広い世代の患者さんが来てくださるようになりました。特に高齢の方は、通院が難しくなったり、施設に入所されたりすることもあります。そうした方にも、きちんと寄り添えるよう、訪問診療を開始し、介護保険サービスを取り入れることにしました。ちょうど介護保険の制度が始まった時期で、私どものクリニックでも老人ホームや訪問看護ステーションを皮切りに、小規模多機能ホーム、認知症対応の通所介護、グループホームなどを少しずつ広げてきました。医療と介護の両面から支えることで、地域の皆さんが安心して元気に暮らせる環境を整えていきたい。それが、私の一番の願いです。
印象に残っている患者さんとのエピソードはありますか?

本当にたくさんありますが、その中でも特に心に残っているのは、私が大学院にいた頃に関わりのあった方が何十年もたってからがんを患い、私のもとに来てくださったことです。最初は別の病院に通われていたのですが、治療が難しくなり、私に相談してくださったのです。できる範囲でその相談に応え、ご自宅まで訪問診療に出かけました。最期の時は、介護が必要となって私どもの老人ホームに入居してもらい、そこで最期の看取りまで行わせていただきました。昔からのご縁のある方に、人生の最期まで寄り添うことができたのは、私自身にとっても、大きな経験となりました。この経験から、より心の通った医療を提供したいと思うようになりましたね。患者さんの人生に最初から最期まで関われる、そんな医療と介護をこれからも大切にしていきたいです。
病気は日常の延長に。生活や背景にも目を向けた医療を
日々の診療の中で、大切にされていることは何でしょうか?

その患者さんが今、何を求めているのかを常に意識することです。もちろん、体調が悪ければ、その原因が何なのか、どんな病気かを判断する必要がありますが、それだけでなく、その方の生活や背景、暮らしぶりにも目を向けるようにしています。病気は日常の延長にあるものですから、診療もその人の人生全体を見ながら行いたいと思っています。できる限り丁寧にお話を伺って、しっかりと向き合い、納得いただけるような説明を心がけています。
今後の展望を教えてください。
私もそろそろ引退を見据える時期に入ってきましたので、数年のうちに診療は少しずつ息子に任せていくつもりです。娘は歯科医師をしておりまして、現在は少し離れた場所で勤務していますが、将来的にはこの地域で開業してくれたらうれしいなと期待を寄せています。今後については、在宅医療をさらに充実させていきたいと考えていますし、糖尿病治療についても、より専門性の高い取り組みを進めていきたいです。また、糖尿病と高加齢医療、そしてエイジングケアの分野を融合させた取り組みも、少しずつでも形にしていけたらと考えています。
最後に、読者にメッセージをお願いします。

当院は糖尿病治療を中心としながらも、かかりつけ医の機能を十分兼ね備えたクリニックです。在宅診療や介護保険サービスも利用できます。お越しいただいた方には、できる限りの対応をさせていただきたいと考えています。人それぞれ、生き方や価値観は異なりますので、その方に合った治療を提供できるよう努めています。いわゆるテーラーメイド医療という言葉がありますが、そうした一人ひとりに合った診療を大切にしています。病気そのものだけではなく、その人の暮らしや背景も含めてしっかり診ていく。そうした姿勢が、結果的に治療の質にもつながる、と思っています。どんな些細なことでも構いませんので、不安なことがあれば、まずは気軽にご相談いただければうれしいです。地域の皆さんにとって、安心して頼っていただける存在であり続けたいです。