松田 和洋 院長の独自取材記事
松田ウイメンズクリニック
(鹿児島市/高見馬場駅)
最終更新日:2024/05/28

鹿児島市の中心地、天文館に位置する「松田ウイメンズクリニック」。松田和洋先生が院長を務める同院は、2000年3月に不妊治療専門のクリニックとして開院した。スタッフ全員がそれぞれの専門性を生かし、患者の「子どもが欲しい」という思いに応えるために尽力している。専門性の高い医療技術はもちろん、患者を第一に考え、心理的なケアも大切にしている。鹿児島市内はもちろんのこと、種子島や屋久島などの離島や県外からも患者が訪れるという。「仕事とプライベートの境目がないくらい、不妊治療に打ち込んでいる」と語る松田院長に不妊治療や同院の特徴について話を聞いた。
(取材日2024年4月18日)
専門性を生かし、チーム医療で不妊治療に取り組む
開院までの経緯を教えていただけますか。

当院は2000年3月に不妊治療専門のクリニックとしてオープンしました。鹿児島市の中心部、天文館に位置しています。院長である私は、鹿児島大学医学部を卒業後、1年間、救急病院で研鑽を積んだ後、鹿児島市立病院産婦人科に入局。その後、アメリカに留学し、低酸素と胎児の脳波、呼吸様運動をテーマとして研究に従事しました。帰国後、不妊治療および内視鏡手術に関わり、鹿児島市立病院で不妊診療チームを立ち上げることに。その後、より自分の求める専門性の高い不妊診療をめざし、当院を開院しました。
診療内容やクリニックの特色を教えてください。
オープン当初から一貫しているのが、不妊治療、生殖医療を専門にしていることです。タイミング療法や人工授精といったいわゆる一般不妊治療から、高度生殖医療といわれる体外受精、顕微授精まで生殖医療に関わるものほぼすべてに対応しています。また、流産を繰り返している方や年齢が高い方など、妊娠の可能性が低い場合のご相談にも対応しています。診療の特殊性から、患者さんは20代から40代半ばくらいの方がほとんど。鹿児島市内だけでなく、種子島や屋久島、奄美大島など県内全域からいらっしゃいます。生殖医療は、医師、看護師はもちろん、培養士やカウンセラー、事務や受付がそれぞれの専門性を生かして、チーム医療を行っています。
チーム医療において、他部署間の連携をスムーズにするための工夫について教えてください。

部署ごとと全体のミーティングを月1回行い、それぞれの部署の成績や、どのようなミスが起こりやすかったかなどの情報を全員で共有しています。各部署の状況がわかると、他人事にならず「そのミスを防ぐために、こうした工夫をしよう」など、連携が取りやすくなります。2024年からは、生殖医療や不妊治療などを含む産婦人科に適した電子カルテを導入。現在、当院には4人の医師がいますが、医師やスタッフ間の情報共有が、よりスムーズになりました。また、全員がインカムを使って院内の離れた場所でもコミュニケーションが取れるようにしたことで便利になりましたね。
患者の負担を軽減し一人ひとりの患者と向き合う
診療に携わる際には4つの「S」を心がけているそうですね。

スマイルの「smile」、誠実さの「sincere」、迅速さの「speed」、洗練の「smart」の4つです。診療する私たちがハッピーでないと患者さんもハッピーにはなれませんから、普段から自分たちが幸せであることをめざして行動、生活しながら、患者さんににこやかに対応することを心がけています。不妊治療においては笑顔が似つかわしくない場面もありますから「患者さんを歓迎し、おもてなしする」気持ちを大切にしているという意味です。そして患者さんに対してだけでなく、関係する業者さんなどすべての間柄において何事にも「誠実」に取り組んでいます。「迅速さ」は無駄を省略し、スピーディーに。じっくり取り組む部分はきちんと時間をかけ、メリハリをつけています。「洗練」は、洗練された考え方・動きで洗練された医療を賢く提供するという意味。小さなことでも丁寧に取り組むことが、患者さんの信頼と安心につながると考えています。
患者の負担を減らすために、どのような工夫をされていますか?
まずは、待ち時間の軽減です。受付をしてから会計を済ませるまで、長くても1時間以内で終わらせるように工夫をしています。待合室の無線LANも使いやすいものに切り替え、患者さんがストレスなく過ごせる環境を整えました。また、オンライン予約システムとオンライン診療を導入していて、院内のDX化に努めています。当院には、離島や遠方から来院される方も多くいらっしゃいます。オンライン診療で薬を処方し、患者さんの近隣の薬局で薬を受け取ることができるので、通院を1回省くことができます。そこは、患者さんのメリットになると思います。また、もしも妊娠判定が陰性だった、妊娠成立後に稽留流産、子宮内で胎児が亡くなってしまったといった場合は、不妊カウンセリングについて専門的に学んだ看護師がカウンセリングルームでゆっくりとお話を伺い、少しでも患者さんのストレスや負担が軽減するよう、寄り添える体制を取っています。
診療の際どのようなことを大事にしていますか?

患者さんときちんと向き合うことです。治療の説明などをする際も、患者さんの表情や話しぶりには気をつけています。もし納得されていない様子であれば、何が心配なのかを見過ごさないようにします。こちらが一方的に方針を出しても、ご本人の意に沿わなければ意味がありません。しっかりご理解いただいた上で治療を進めていきます。また、患者さん一人ひとりの体質に合わせた治療も大切です。例えば、同じ年齢でも妊娠しやすい方とそうでない方がいらっしゃいます。もちろん、全員に共通する部分もありますが、それぞれの体質や状況に合わせた対応をすることが大切です。治療はある意味で「オーダーメイド」だといえますね。
不妊治療の知識を発信する必要性を痛感
不妊治療の現状についてどうお考えでしょうか?

現在は不妊についてさまざまな情報を得られるようになっています。でも、適切な知識が患者さんに届いているかは疑問です。例えば「40歳を過ぎても妊娠できる」という情報がインターネット上にはあふれていますが、すべての人に該当するわけではありません。こうした話をうのみにして受診を先延ばしにすると、取り返しがつかなくなる可能性もあります。不妊治療は本来、年齢を重ねた人ではなく、妊娠しにくい体質の方が受けるものだと考えています。社会全体の考え方を変え、妊娠を優先させるシステムをつくらないと、なかなか少子化は改善できない気がしています。医師が正しい知識を発信し、情報を必要としている患者さんに伝える重要性も感じますね。
不妊治療を考える方へのメッセージをお願いします。
妊娠する力は、年齢を重ねるにつれて落ちてきます。だから、妊娠を希望されるのであれば、少しでも早く検査や治療を受けたほうがいいでしょう。とはいえ、若いから大丈夫だともいえません。妊娠する力には個人差があり、同年齢でも幅が大きいためです。もし、妊娠を希望し、準備をしているにもかかわらず、1年たっても妊娠しないようであれば、若くても病院に行くことをお勧めします。2022年からは不妊治療が保険適用になりました。心理面や費用面では、体外受精など治療のステップアップへのハードルも低くなり、治療の組み立て方も変わってきています。年齢も考え方もさまざまな患者さんがいらっしゃいますが、共通するのは「子どもが欲しい」という思い。当院では、スタッフが一丸となり、患者さんの希望をかなえられるよう治療にあたります。不妊治療を特別なことと捉えず、まずは検査を受けてもらいたいですね。
お忙しい毎日だと思いますが、リフレッシュ方法はありますか?

開院した時から一貫していますが、私には仕事と趣味の境目がないですね。私にとって不妊治療や生殖医療は、一生を通じて取り組む仕事であると同時に、プライベートで打ち込める趣味でもあるからです。とてもやりがいがあり、好きなことなので「仕事に行きたくない」と思ったことは一度もありません。仕事がリフレッシュ方法ともいえますが、あとはジョギングですかね。出張の際もランニング道具を持参して早朝街中を走っています。この分野を専門にしている医師にとって最もうれしいのは、患者さんが良い結果を得て、治療から卒業されることです。もし、結果が出なくて治療をやめる場合も、「出会えて良かった」と思っていただき、不妊治療の経験が患者さんの今後の人生にプラスの影響を与えられるといいなと思います。