松尾 孝俊 院長の独自取材記事
松尾内科クリニック
(世田谷区/桜新町駅)
最終更新日:2024/05/15
東急田園都市線桜新町駅から徒歩6分の場所の「松尾内科クリニック」は、2007年の開業以来、地域住民の健康を見守り続けてきたかかりつけ医院だ。診療にあたるのは、大学病院で長く腎臓を専門とし、透析患者の全身管理なども数多く手がけてきた松尾孝俊院長。松尾院長は、腎臓疾患に至る前の患者を早期に発見できるよう、循環器や呼吸器に関しての臨床経験も積み、内科全般に精通しているドクターだ。患者の高齢化が進み、通院困難になったかかりつけ患者の自宅への往診にも出向くなど、健康上のさまざまな相談に対応する「町の何でも屋さん」。日頃から数多くの患者が来院し、待ち時間が長くなってしまうため、予約制をとっていないという。クリニックの歩みや専門分野である腎臓と生活習慣病の関係、患者への思いなどじっくり話を聞いた。
(取材日2023年6月21日/情報更新日2024年5月9日)
専門性を生かしつつ、生活習慣病の予防・改善に注力
こちらは今年で開業17年目だそうですね。
この場所は私の母の実家に近く、幼い頃からなじみのあるエリアでした。開業当初はもっぱら母や祖父母の知り合いや親戚などが患者さんとして来てくれていたのですが、その後少しずつ地域の方々にも認知されるようになり、クチコミで多くの患者さんに来ていただけるようになりました。開業して10年目には全面的に改修して院内のレイアウトも変え、待合室のスペースを広げるなど、患者さんにとってより居心地の良い空間にリニューアルしました。そこからさらに年月が過ぎ、私も患者さんもその分、年を重ねてきたことになるわけですが、これまで大きな問題なく過ごされていたかかりつけ患者さんも、足腰が弱くなったり、認知症が出始めたりする方も増えます。そうした変化を受けて、かかりつけ医としてできるだけのことをしていきたいと模索しているところです。
ご専門の腎臓にとどまらず、内科全般を幅広く診療していると伺いました。
私は大学病院で長らく腎臓を専門に手がけてきましたが、腎臓疾患の診療においては、例えば透析治療は血管の病気や感染症の管理などを並行して行っていく必要があり、総合内科の視点が欠かせませんでした。そうした経験を踏まえ、腎臓疾患に至る前に、糖尿病や高血圧の患者さんを早期に発見して、治療に結びつけることに力を注ぎたいと考え、開業にあたっては内科をメインに掲げることにしました。地域の患者さんの世代を問わず、さまざまな不調の訴えに幅広く対応しています。
腎臓は全身の臓器とも密接に関連しているようですね。
腎臓は老廃物を尿として排せつし、ミネラルの調節や血管の管理も行う臓器です。ですから心臓や肝臓など、他の臓器とも関わりが深いのです。近年は高血圧の患者さんが右肩上がりで増えていますが、高血圧や糖尿病といった生活習慣病は腎臓機能を低下させる要因になるとも言われています。ですから、当院では生活習慣病の改善に向けて、日々の食習慣を見直していただくため、患者さんに日々つけていただく「食事日記」をもとに食生活のアドバイスを行っています。運動不足で太ってしまう方も多いですから、食事と運動習慣の双方を改善するための動機づけとして、内臓脂肪を専用機器で測定したり模型を使ったりして、患者さんが今置かれている状況をわかりやすく説明するように心がけています。
患者の加齢に伴う変化に寄り添った診療を
ところで、先生は工学部から医師の道に転身されたそうですね。
小学生の頃に、医師を主人公にしたアメリカのドラマを見て医師に憧れた時期もあったのですが、その後、宇宙や航空関係の仕事に興味を惹かれ、高校卒業後の進路として工学部を選びました。2年間通学していたのですが、次第に自分が思い描いていた世界とはちょっと違うと感じるようになり、結局そこから両親を説得して医学部をめざし、あらためて受験し直すことにしたのです。その当時が、私の人生の中で一番集中して勉強していた時期だったことは間違いないですね(笑)。無事医学部に合格し、2年生の時に学生論文執筆のために手がけた研究が腎臓に関するものだったことがきっかけで、そのまま腎臓を専門に選びました。
日々の診療の中で心がけていることはありますか?
例えば、体の不調で通院されたときでも、診察室での会話や会計時のお金のやりとりの際に、認知症の兆候に気づくことができます。スタッフも含め、患者さんの「いつもと違う様子」が示すサインを見逃さないように意識していますね。開業してから16年がたち、患者さんも年を重ねています。これからも血圧が高くなったり、がんになったり、足腰が弱くなったことに起因するけがが増えたりなど、不調を抱える方がどんどん増えてくると思います。そうした変化に寄り添った診療を提供して、患者さんの生活を支えていくことがわれわれかかりつけ医の役割だと思っています。
高齢になると通院が難しくなる患者さんも増えますよね。
そうですね。かかりつけで長く通われていた患者さんに対しては、ご希望があれば訪問診療にも対応しています。以前はつえ歩行ができていたのに、歩行が不安定になって外出困難になったり、骨折、認知症、がんなどで来院が難しくなったりする方が少なくありません。長年通院されていると、患者さんやそのご家族とは信頼関係が築けているので、コミュニケーションが取りやすいですね。そういった点は、かかりつけ医の何よりの強みだと思います。また必ずしも家族のサポートが受けられる方ばかりではありませんから、必要に応じて地域のケアマネジャーや訪問看護ステーションなどとも情報共有し、多職種連携のもとでご高齢の患者さんをお支えしています。
「町の何でも屋さん」として頼られる存在でありたい
最近の患者さんの様子で、気になる傾向などはありますか?
咳のご相談で受診される方がとても多いですね。新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけで、咳に対して敏感になっていることも一因かと思いますが、新型コロナウイルス感染をきっかけに咳が止まらず、咳喘息の症状に悩まされるというケースもあります。気管支喘息は夜間の激しい咳が特徴的ですが、咳喘息の場合は昼間の会話中などでも何らかの刺激で突然咳が止まらなくなるなど、時間を問わず起こりますので、咳のために仕事などで支障が出てしまう前に、早めの受診をお勧めします。
新型コロナウイルス感染症の流行を経て、診療体制にも多少変化がありましたか?
マスク着用の緩和、5類感染症への移行などが段階的に進み、世間一般には新型コロナウイルス感染症流行はもう落ち着いたかのような認識が広まっていますが、依然として感染者の増減の波はあり、発熱の外来でも毎日対応が続いています。ですから現在も発熱があって来院する患者さんには事前の電話連絡のもと、裏口から院内に入ってもらうなど、一般の患者さんとの動線を完全に分けて、引き続き感染対策を徹底しています。オゾン発生器やHEPAフィルターつき空気清浄機、紫外線で殺菌する空気清浄機などをフル稼働させ、すべての患者さんが安心して来院できる環境づくりに努めています。
最後になりますが、読者に向けて一言メッセージをお願いします。
開業以来、医療分野の「町の何でも屋さん」として、健康に関わる幅広い相談に対応してきました。体調のことで何か心配事があればお気軽にご相談いただき、「先生がかかりつけ医で良かった」と患者さんに思っていただけるような診療を今後も続けていきたいと思っています。ありがたいことに患者さんが多く、1~2時間ほどお待たせしてしまうこともあり、あえて予約制をとっていないんです。患者さんが多い日はどうしても院内全体が忙しい雰囲気になってしまうと思います。待ち時間が長くなってしまい患者さんには心苦しい気持ちでいっぱいなのですが、それでもお一人お一人とじっくり向き合うという意識で診療にあたっています。心身の不調や疾患に関して、患者さんには情報に惑わされず適切な知識を持って判断していただきたいという思いがあります。わからないことや不安なことがありましたら、どうぞ遠慮なくお尋ねください。