井上 敬一郎 院長の独自取材記事
井上外科内科医院
(世田谷区/三軒茶屋駅)
最終更新日:2025/11/25
東急田園都市線の三軒茶屋駅から徒歩8分。にぎやかな世田谷通りから裏手に入った閑静な住宅街にある「井上外科内科医院」。昔ながらの医院といった外観が、この土地での診療の歴史を物語る。長年、大学病院で若手医師の指導を行ってきた井上敬一郎院長が開院した外科と内科の診療を行うクリニックだ。色とりどりの熱帯魚が泳ぐ水槽やオブジェがさりげなく置かれ、初訪問でもリラックスして過ごせる雰囲気の待合室。「親しみのある医師でありたい」と語ってくれた井上院長は、消化器外科専門の医師でありながら疾患の垣根を越え、患者一人ひとりを考えた丁寧な診療を大切にしていることがうかがえる。クリニックの得意とする診療分野やめざす医療についてなど、さまざまに話してもらった。
(取材日2025年7月29日)
地域で50年以上、住民の暮らしと健康をサポート
初めに、医院の歩みやめざしておられる医療についてお聞かせください。

父がこの場所で外科医院を運営しており、2005年に私が引き継いで「井上外科・内科」としました。建物は1968年に建てられたものに少しずつ手を加えて使っています。父は長年にわたって地域医療に貢献してきましたので、当院に対する患者さんの信頼は厚いと感じており、その信頼を裏切らないよう私も力を尽くしています。大切にしているのは「なんでも診られる医師である」ということ。専門外の症状であっても対応できる知識と技術を身につけ、より専門的な治療が必要であれば然るべき医療機関へと患者さんをつなぐ、それこそが地域のかかりつけ医に求められる姿だと考えています。初診の方や症状がはっきりしない方については時間をかけてお話を伺うようにしているため、いらした患者さんをお待たせしてしまうこともあるのですが、ご理解いただければと思います。
こちらで行っている診療の特徴を教えてください。
けがの処置から風邪や腹痛などの急な体調不良への対応、足腰の痛みのケア、健康診断など幅広く診療しています。私が得意とする消化器外科においては、痔や鼠径ヘルニアの日帰り手術、大腸と胃の内視鏡検査など専門的な診療を行っているのも当院の特徴と言えるでしょう。そして医療機器を頻繁に見直し、先進の機器をキャッチアップしながら患者さんの負担を軽減できるものがあれば、積極的に導入するようにしています。内視鏡は胃・大腸ともに先進のAIアシスト機能のついたものを導入しております。また、診察室、手術室、待合室などそれぞれの状況に応じた高性能なフィルターを採用した空気清浄機を導入しました。父の代から有床診療所として運営されており、当初は開腹を伴うような大規模な手術も対応していましたが、現在は3床のみベッドを残して日帰り手術、内視鏡検査後などの回復および休憩スペースに活用しています。
どのような患者さんが多くいらしていますか。

外科・内科として、咳、鼻水などの身近な症状から外傷まで幅広くご相談いただいています。来院される患者さんの中には父の代からの顔なじみの方も。最近は腹痛や胃痛で来られる患者さんが多いと感じており、原因を診断してみれば、ストレスが起因している場合がほとんど。ストレス社会というのを痛感しますね。痛みに対して薬を処方するだけなら簡単ですが、薬は患者さんにとっての根本的な治療にはなっていませんよね。精神的なケアも診療に欠かせない時代になったと思います。私は患者さんの話をたくさん伺うようにしているのですが、それで楽になっていただけたらうれしいですね。また、インターネットで調べてくださったのか、痔やヘルニアの日帰り手術で他県からいらっしゃる方も増えています。
外科や内科の診療から消化器や肛門の専門的な診療まで
消化器疾患では胃がんや大腸がんも気がかりです。

近年では、特に大腸がんが増えている印象です。女性の方は乳がんを気にされがちですが、実はがんで亡くなられる方のうち、女性で一番多いのは大腸がんという2018年の統計結果もあります。とはいえ、早期発見により対策を取っていくことも可能です。自治体や勤務先の健康診断で結構ですので、毎年便潜血の検査を受け、少しでも問題があれば内視鏡検査を受けていただくことをお勧めします。実は、健診を受けただけで安心して、結果必要とされる精密検査を受けないケースも少なくないようです。リスクを放置することで、守れた命を失ってしまうことにつながらないよう、必要に応じてきちんと検査を受けていただくようにお声がけさせていただいています。当院では大腸カメラの他に経鼻内視鏡による胃カメラの検査も毎日行っています。
痔の診療にも専門的に対応しているのですね。
肛門に関する症状については、消化器外科の分野となります。クリニックで診療が完結し、これまでの自分の技術を生かせる内容のものはないかと考え、外科や内科の診療に加えて、消化器外科として痔の手術や治療に特化しようと考えたのが始まりです。痔にはイボ痔、痔ろう、切れ痔の3種類があり、来院される患者さんはイボ痔と痔ろうが多いでしょうか。痔ろうは手術が必要となりますので、当院では日帰り手術で対応しています。また、進行したイボ痔についてもこれまでは手術が必要でしたが、近年、ALTA療法という選択肢ができ、外来での診療も可能となりました。簡単に説明すると患部に注射していくだけなのですが、入院をする必要もありませんし、切開しませんので痛みもさほど大きくないでしょう。デリケートな部分の症状ですので、特に女性の患者さんは不安も大きいと思います。だからこそ、気軽に安心して治療を受けられるような診療を心がけています。
鼠経ヘルニアについては、どのような治療を行っていますか?

鼠経ヘルニアは一般的に「脱腸」と呼ばれるとおり、足の付け根から腸管などが脱出してしまう病気です。放置すると腸管の壊死や、時には命を落とすことにもつながります。現在の医療では鼠経ヘルニアを治療する薬はなく、手術が唯一の治療法となります。手術の方法には、切開して行う直視下手術と小さな傷口を複数開けて行う腹腔鏡手術の2種類があります。この手術方法はそれぞれメリット・デメリットが異なり、例えば直視下手術は手術時間が短く、ごく軽い麻酔でできるというメリットがあります。一方、腹腔鏡手術は傷口が小さく術後の早期回復、早期の社会復帰が期待できます。患者さんの年齢や持病の有無、希望する予算などを考慮しながら、負担やリスクの少ない手術方法をご提案していますのでご安心ください。
人と人として親身に寄り添い、頼られる医師をめざす
診療の際に心がけていることは何ですか。

常々、高い技術を提供する医師というよりも、親しみある医師でありたいと考えています。現代の医療はさまざまな症状に対して高度な医療技術で対応していくことも可能になりました。しかし、症状だけを治療すればすべて完了となるものでもないと感じています。まずは一人の人間として、患者さんに寄り添うことが大切だと考えます。患者さんと良い信頼関係を築き、生活や健康のサポートができるよう、一日一日、私のベストを尽くしていきたいと思います。当院は大学病院のように医療設備が整っているとは言いきれませんし、専門分野を持つ医師が多く集まっているわけでもありません。それでも、私の診療を求めて通ってくださる方がいらっしゃれば、医師として誇らしい気分になりますし、信頼に応えていく責任もより強く感じます。
休日のリフレッシュ方法を教えてください。
子どもの頃から障害馬術競技に夢中で、現在は暇があれば千葉にある牧場へ行って馬の世話をしています。娘も馬術をしていて、国体や全日本での優勝を経験するレベルの選手でした。馬も人と同じく個体によって性格が異なり、私たちに気づくと遠くから駆けてくる子もいるんですよ。どの馬も本当にかわいいですし、世話をしていて心が通じ合っていると感じた時には幸せを感じますね。
読者へのメッセージをお願いします。

患者さんと医師の関係も、人と人の付き合いです。現代は受診前に、治療法や設備、医師の経歴などさまざまな情報を比べられる時代ですが、それらの情報や評判にこだわるのではなく、実際に行ってみて相談しやすいとか、親身に話を聞いてくれるなど、相性が良い医師を探すことが大切だと思います。例えるなら、お見合いといったイメージかもしれませんね。また、一人の医師が何でもできるわけではないので、その先生の得意な分野ではない場合でも、良いクリニックを紹介してくれるような先生と巡り会えればなお良いですね。

