障害者歯科治療は信頼関係が大切
焦らずに適切な治療を
浜野歯科医院
(さいたま市北区/大宮公園駅)
最終更新日:2025/05/09


- 保険診療
障害者歯科治療とは、保護者や介護者、医療機関などと連携しながら進める、障がいがある人のための歯科治療である。障がいの特性をきちんと理解すればクリニックでも十分対応できるにもかかわらず、障がいのある人は治療を断られてしまうケースがよくあるという。「浜野歯科医院」の浜野洋一院長は、障がいをその人の個性と考え、一人ひとりの障がいの特性に配慮しながら適切な治療を行っている。「患者さんの特性やペースに合わせ、結果を急がないことが大切です」と語る浜野先生に、障害者歯科治療の対象となる人、クリニックの探し方、治療の進め方、訪問診療などについて聞いた。
(取材日2025年4月23日)
目次
障がいのある人の特性やペースに合わせた治療を行い、家族の悩みや不安に耳を傾けるクリニック
- Qどのような人が障害者歯科治療の対象になるのでしょうか?
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A
▲穏やかな人柄でさまざまな悩みに寄り添う浜野院長
年齢を問わず、あらゆる障がいのある方が対象となります。例えば、知的障がいや発達障がい、自閉症などによって恐怖心や不安感が強い方、まひによって体を動かしにくい方、同じ姿勢の維持が難しい方などです。患者さんのご家族の中には「病院で全身麻酔をしなければ治療ができないのではないか」と思っている方もいらっしゃいますが、麻酔は必ずしも必要ではありません。その方の障がいの特性を知り、適切な工夫と配慮ができれば、地域のクリニックでも質の高い歯科治療の提供がめざせるのです。
- Q対応可能なクリニックは、どう探せばいいですか?
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A
▲通院が難しい患者のため、訪問診療で地域を精力的に回っている
まずは、お住まいの自治体に問い合わせてみてください。どこの自治体でも、障がいのある方が地域のクリニックで安心して歯科治療を受けられるような体制づくりを進めています。当院のあるさいたま市では、ガイドブックを配布しています。ここには、障がいのある方が必要な歯科医療をしっかり受けられるように、専門の歯科医師に相談できるクリニックが掲載されているんです。クリニックを選ぶ際は、通いやすさ、相談のしやすさ、歯科医師と患者さんの相性の良さ、医療機関との連携度合いなども考慮に入れることをお勧めします。
- Q治療のポイントを教えてください。
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A
▲患者、患者家族とのコミュニケーションを大切に信頼関係を築く
コミュニケーションと信頼関係の構築が大切なのは、一般診療も障害者歯科治療も同じです。それに加えて、「患者さんの特性やペースに合わせる」ことが重要になります。そのため、まずは患者さんに歯科クリニックの雰囲気に慣れてもらうところからスタートします。短期的に結果を求めるのではなく、「何もしなくていいから毎週おいで」と伝えるようにしています。歯科クリニックに慣れる、歯科医師に慣れるといった成功体験を積み重ねていくと、やがて診療台に乗って治療を受けられるようになり、視覚などの感覚も駆使して、予防や口腔筋トレーニングもできるようになるものなんです。
- Q治療の際は、どのような工夫をされていますか?
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A
▲前向きな気持ちを引き出すようなさまざまな工夫を凝らす
発達障がいの方の多くは見通しを立てるのが苦手です。「あと少しで終わるよ」といってもその感覚がつかめないため、不安に駆られてパニックになってしまうこともあります。そこで、治療のプロセスをイラストにしたマグネットをボードに貼り、1つの工程が終わるたびに「今、これが終わったよ」と言いながら外していくことで、安心してもらえるようにしています。知的障がいがある方の場合は、障がいの程度によっては言葉で説明しても理解できないことがあります。そういう時は、「おいしい味の歯磨き粉」などの感覚を通じて、歯科クリニックと楽しい記憶を結びつけることで、前向きな気持ちを引き出すようにしています。
- Q障がいのある患者さんの訪問診療について教えてください。
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A
▲患者の考えを尊重しサポートする
ご自宅に伺う際は、ご家族と歯や子育ての話をする時間を大切にしています。気楽に話せる場所がなく、悩みや不安をご家族だけで抱え込んでいる場合が少なくないからです。施設に伺う場合は、患者さんのパーソナリティーを確かめてから治療に移るようにしています。重い障がいの方でも、まずは患者さん自身に話を聞くことを心がけているんです。脳性まひと知的障がいで自発的な会話ができない方でも、こちらの言っていることは理解できる場合が多いからです。その時、ご本人ではなく施設の方に話を聞いたりすると絶対に心を開いてくれませんので、患者さんを尊重することを徹底しています。