桝 和成 院長の独自取材記事
烏丸十条マス歯科・矯正歯科
(京都市南区/十条駅)
最終更新日:2025/07/14

京都市営地下鉄烏丸線・十条駅から西へ徒歩4分の十条通り沿いに「烏丸十条マス歯科・矯正歯科」はある。もとは京都市上京区の西陣地区で、120年にわたって診療を続けてきたが、火災で建物が全焼し、現在地に移転再開した。通常なら廃業もやむなしの状況の中、5代目院長の桝和成(ます・かずしげ)院長は、火災からわずか2ヵ月半後に診療再開を成し遂げた。「苦しいことはたくさんありましたが、火事は僕の人生の転換点だったと思います」と語る桝院長に、同院の診療の特色、体制づくりなど院長としての経営ポリシー、そして一大ピンチをチャンスに変換させるその前向きな考え方などについても聞いた。
(取材日2024年12月3日)
ピンチを変化するためのチャンスと捉えた
火災から短期間で再開されたのですね。

2022年4月に火事があり、同年7月に移転開業しました。元の場所での再建や居抜き開業、移転など、さまざまな選択肢の中から再開の方法を模索していたのですが、リタイアされる知り合いの先生から歯科医院を丸ごと譲り受けることができました。私の感覚では「最短」で再開でき、以前から通ってくださっていた患者さんを診られるようになったのは、本当に良かったと思っています。とはいえ、西陣からは遠くなってしまったことで、転院された患者さんもおられるので、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
2ヵ月半で再開を実現できたのはなぜですか?
火事で診療所が全焼するというのは、自分の人生が終わってしまったと感じるほどのダメージだと思います。実際に苦しい思いもたくさんしました。しかし、むしろ火事が自分の人生に必要だったのではないかと考えることで、前向きな気持ちになれたのです。以前は自分のやりたいように歯科医院を運営し、経営も本当に順調でした。しかし、そうした状況の中で己を過信し、さまざまな問題点を知らないうちにたくさん見落としてきたということを思い知らされました。火事はそうした自分の問題に気づき、再出発するために必要な試練だったと思うのです。
現在はどのような体制で診療していますか?

16人ほどのスタッフで切り盛りしています。ほとんどが、再開以降に新しく入ってくれたスタッフです。いずれ西陣のほうでも診療を再開したいという思いがあり、建物の設計もできています。患者さんからも早く再開してほしいというお声を頂戴しています。とはいえ、診療を任せられる歯科医師がいない状態なので、求人活動にもっと力を入れる必要があり、院内のチームづくりについても一人ひとりのスタッフが持てる力を発揮できるように考えていかなければなりません。
スタッフさんの教育について教えてください。
かっちりとしたマニュアルを作成するのではなく、キャリアルートとして身につけたい項目をリスト化しています。各自がその中から身につけたい項目を選び、メモを取りながら見学したり、先輩のスタッフに尋ねたりしながら、自分自身のものとしていきます。しっかりしたマニュアルがあれば便利です。しかし、使用する器具や設備は頻繁に細かな変更があり、院内の体制が変わることもあります。細かな処置などは教えてもらう人によって異なることが少なくありません。マニュアルに頼っていると、こうした場合に対応できなくなる可能性があり、変更の度に修正するのも大変です。このため、マニュアルで細部まで決めるのではなく、基本をしっかり身につけることを重視しています。原理原則をしっかり守りながら、それ以外の部分は各自に任せるのが当院のスタイルです。
噛み合わせを整えることが大切
注力している診療について教えてください。

噛み合わせを重視した治療に力を入れ、「正常咬合」といわれる状態にもっていくことをめざします。これまでずっと噛み合わせについて学んできて、今も勉強を続けていますし、見た目の自然な美しさと、噛み合わせの両面から考えるデザイン力にも自信があります。治療では、インプラント、詰め物やかぶせ物を扱う補綴(ほてつ)と矯正を組み合わせていきます。矯正で噛み合わせを整えない限り、理想的な状態に導くのは難しいからです。もちろん、矯正をするかどうかは患者さんご本人が決めるべきことですから、矯正はしないという患者さんのための代替案もきちんと提示します。
保険診療を希望される患者さんも多いそうですね。
保険診療を希望される方の多くは、今この瞬間に痛みがあり「どうにか治療してほしい」と訴える患者さんです。そうやって頼って来てくださる方々に対して、費用的な負担をできるだけ抑えて治療することにやりがいを感じますし、「歯科医師になって良かった」と日々思っています。困っている方の痛みを取り除くのが私の仕事ですからね。地域のかかりつけ歯科医院として、できる限り急患も受けられるようにしており、保険診療を希望される患者さんに対しても、理想案から代替案まで自費も含めた複数の選択肢を示した上で、丁寧に説明します。
定期検診を大事にされています。

歯を自動車に例えると、納車したての新車はまず壊れることはありません。しかし、乗っていくうちにあれこれとガタがくるので、車検の際だけでなく、その都度、修理しながら乗るのが通常です。ところが、お口だとなぜかそうはなりません。面倒だから受診しないという方が非常に多く、結局、大がかりな治療が必要になって、場合によっては大事な歯を失ってしまうこともあります。定期検診に通っていれば、トラブルを早期発見できるだけでなく、「奥歯の噛み合わせが悪くて虫歯リスクが高い」といった、ご自身のお口の特徴をつかむこともできるでしょう。その上で、しっかりと歯を磨く、甘いものを頻繁に食べないなどの対策を実践すれば、未来のお口の状態は大きく変わってくるはずです。
定期検診を促す「ペリオクラブ」があると聞きました。
ペリオ(歯周病)の基本治療を受けた後、定期検診に移行した患者さんを対象にした会員組織です。歯周病の基本治療と定期メンテナンスについて、しっかり理解していただくことが目的で、ご自身の歯周病の状態を知って、自発的に定期検診や日頃のお手入れに励んでいただきたいと考えています。歯周病は自覚症状に乏しいので、定期検診といってもあまりピンとこないかもしれませんが、検診やケアのモチベーションが保てるよう、歯科衛生士が患者さんと二人三脚でしっかりサポートしていきます。
理想の歯科医院の地盤づくりに注力
先生のリフレッシュ方法を教えてください。

走るのが好きで、ランナーで結成された練習会に参加しています。メンバーの3割がフルマラソンで3時間を切る本格的なランナーがそろっている会で、ちょうど昨日も走って自己ベストを更新できました。この月末には、31時間の制限時間内にトレイルランを含めて130キロを走る大会に出場する予定です。走ること以外にも趣味は多く、先日もトレーディングカードを使うバトルゲームの公式戦に出場しました。惜しくも優勝できませんでしたが。
今後の展望を教えてください。
めざしているのは、歯科医師が4人、そして歯科衛生士・歯科助手・カウンセラー・事務スタッフなども歯科医師の人数に応じて在籍し、しっかりとしたシステムのもと1日100人の患者さんに来ていただける歯科医院です。今までどおり保険から自費まで幅広く、優秀な勤務医の先生方とともにたくさんの症例と向き合いたいと思っています。まずはこの歯科医院で、そうした理想の歯科医院の基本モデルを作りたいと考えています。優秀なスタッフがそろっているので、今はそうした目標に向けての地盤づくりに取り組んでいるところです。
読者や地域の方にメッセージをお願いします。

火災以後の僕のいろいろな取り組みや、スタッフの成長の様子などは、興味を持ってご覧いただけるのではないでしょうか。2年がたち、まだまだ勉強しなければならない部分はたくさんありますが、歯科医師として院長として成長していますし、当院はしっかりバージョンアップしています。もちろん、マラソンもレベルアップしました(笑)。一方、満足できる歯科診療を受けたいと考えておられる方は、先生が勉強を続けておられる歯科医院、そして、矯正にしっかり対応している歯科医院を選ぶことをお勧めします。噛み合わせを整えるための矯正は、さまざまな歯科診療の一つ、木に例えると枝の一本と捉えられがちですが、お口を良い状態に保つために欠かせない、歯科診療の大切な幹の部分を担う手段なのです。
自由診療費用の目安
自由診療とは小児矯正/22万円~55万円、成人矯正/55万円~101万円、インプラント治療/31万9000円~55万円
※歯科分野の記事に関しては、歯科技工士法に基づき記事の作成・情報提供をしております。
マウスピース型装置を用いた矯正については、効果・効能に関して個人差があるため、必ず歯科医師の十分な説明を受け同意のもと行うようにお願いいたします。