堀内 啓史 理事長の独自取材記事
堀内歯科医院
(岸和田市/東岸和田駅)
最終更新日:2023/10/18

東岸和田駅近くで開業してから、今日まで約40年の歴史を重ねてきた「堀内歯科医院」。堀内啓史理事長は、開業当初から地域の信頼を得ようとがむしゃらに働いてきた。しかし、治療を行っても再発を繰り返すことも考えられることから、予防歯科の大切さを痛感する。近年では、虫歯・歯周病・歯並びの悪化を防ぐために有用な定期的な検診やケア、トレーニングに力を注ぐようになった。「お口の中の状態は全身疾患にも影響を与えます。体全体の健康維持のためにも、力を尽くしていきたいんです」と語る堀内理事長に、同院開業から今日までの経緯や、予防歯科・地域医療にかける思いを聞いた。
(取材日2023年10月6日)
40年の診療を重ねて予防歯科の大切さに気づく
歯科医師をめざしたきっかけを教えてください。

私の家族が、あまり歯が良くなかったんです。歯を悪くするたびに近くの歯科医院に行っていましたが、時間も回数もかかって、あまり良くならないことも多く、子どもの頃から「歯の治療って、もっとうまくできないものか」という気持ちはありましたね。それに加えて食べることが好きだったので、広い意味で食べることに関連した分野に興味を持ちました。それで歯科医師をめざして歯科大学に進学し、卒業後、生まれ育った和泉市の近くの岸和田市に開業しました。今から39年前の岸和田は今ほど歯科医院もなく、私は地域に信頼される歯科医院になろうと必死でした。1人で夜11時まで働くこともしょっちゅう。とにかく働きに働いて、自分のめざす歯科医院をつくり上げていきました。
開業当初は歯科衛生士さんもいらっしゃらなかったんですね。
1人で大丈夫だと思っていました。歯科助手やアシスタントはいましたが、歯科衛生士はいなくても大丈夫だと考えていたんです。しかし20年ほど激務を続けながら、自分の診療を振り返るうちに、「こんなことをこれからも続けるのか」と疑問に思ったんです。治療してもまた悪くなる可能性も考えられ、その繰り返し。そうではなく、歯が悪くなる前に予防することのほうが大切だと感じました。ちょうどその頃、予防歯科という考え方が歯科医療の現場に広まりつつありました。そこで歯科衛生士を当院のチームに加え、予防に力を入れることにしたのです。歯科衛生士さんとの話から気づかされることも多々ありましたし、予防に注力できることはうれしいことでした。
スタッフに助けられながら、診療を続けてきたんですね。

そうなんですよ。20年以上働いてくれているスタッフもいます。彼女は患者さんにもすっかり知られていて、声をかけられたりもします。私にとって非常に頼りになる存在ですし、長く通う患者さんにとっても、自分の治療内容や変化を長いスパンで見てくれるスタッフがいることは、安心して治療を受けられる基盤にもなると思います。こうやって長く勤めてくれるスタッフがいると、その人やその家族のためにも、歯科医院ももっと長く続けなければという気持ちになります。患者さん、スタッフ、経営者の“三方良し”が大切です。患者さんが治療によって健康になること、そしてスタッフが居心地良く働けること、その上に私自身のめざす治療や経営が加わることで、歯科医院が続けられると思っています。
虫歯、歯周病だけでなく、歯並びの悪化も予防の対象
予防歯科とは、具体的にどんなものですか?

予防歯科には、3つの予防分野があります。虫歯の予防、歯周病の予防、そして歯並び悪化の予防です。きちんと歯磨きをすることで虫歯を予防するという意識を持っている人が多いと思いますが、それは歯周病の予防にもつながるんですよ。しかし自分で歯磨きをするだけでは、どうしても磨き残しがあります。磨き残した歯垢がたまったまま3ヵ月ほどたつと硬くなり、歯石になってしまいます。こうなるとどうやっても自分では取れませんから、歯科医院でクリーニングする必要があるんです。虫歯や歯周病になってからではなく、なる前に歯科医院に行くというのはこういう理屈があります。
歯周病の予防も重要なんですね。
近年、歯周病が全身疾患を引き起こすリスクがあるといわれるようになりました。歯周病の細菌が全身に回っていって、心疾患や認知症などの発症に影響を与えていると考えられています。歯周病と糖尿病の関連も深いですよ。たかが口の中のこと、と思っていると痛い目に遭うかもしれません。ですが、口腔内の症状が全身疾患へとつながる可能性があるのだとしたら、逆にお口を健康に保つことで、さまざまな疾患の予防につながると考えることもできます。口をきれいに保つだけで、その後のさまざまな病気のリスクが減らせるのだとしたら、ちょっとうれしいと思いませんか?
3つ目の「歯並び悪化の予防」とは、どんなことでしょう。

子どものうちから口腔機能の発達を促すことで、歯並びが悪化するのを防ぐことにもつながるんです。現在、お口をうまく使うことができない「口腔機能発達不全症」というものが疾患として定められ、こうした子どもの発達を支援するためのトレーニングが行われています。例えば、食べたものをうまく飲み込めない、舌足らずな話し方、お口ポカンと言われるような口が閉じない状態などの症状があれば、MFT(口腔筋機能療法)によって改善を図っていきます。特に舌と口の使い方、舌の位置を正していくことで、歯並び悪化防止につなげることが期待できます。そもそもさかのぼると、哺乳の仕方や生まれた時の抱き方が、口腔機能の発達にも影響を与えているのですが、そこまでは歯科医師が関われる範囲ではないですよね。歯並びが悪いと虫歯・歯周病にもなりやすいので、この3つを並行して予防することには大きな意義があります。
患者の全身にも目配りしながら治療を続けたい
先生が歯科医師として大切にされていることは何ですか?

患者さんの話をとことん聞く、ということです。勤務医時代に自分の師匠から「堀内くん、患者さんが教えてくれるんだよ」と何度も諭されました。師匠も、ある患者さんから直接その言葉を言われ、自分の診療を省みたことがあったそうで、私にもその大切さを伝えてくれました。師匠からはたくさんの技術を学びましたが、技術だけではない大切なものも教えていただいたと感謝しています。とにかく今でも、まずは患者さんの話を聞く。本当に話したいことをくみ取りながら、しっかりと耳を傾けることを心がけています。その上でできる治療を提案して、患者さんに選んでもらいます。もちろん選べないという場合には、私の意見も伝えますが、患者さんの意思を最大限尊重したいと思っています。
患者さんから話を引き出すのは難しいですよね。
患者さんとの距離感に気を配っています。突然自分のことを話す方もいらっしゃいますが、多数派ではありません。少しずつお話を重ねる中で、患者さんの生活や家族、体調のことなども伺えるようになります。昨今では非常に元気に見える高齢の方も多いのですが、もしかしたら基礎疾患をお持ちかもしれません。歯科治療は外科的な処置なので、病気や処方されている薬によっては、悪い影響を与えかねないので、慎重になりますね。必要に応じて、かかりつけの医科の先生とも連携して、患者さんの全身状態についても考えながら治療を進めていきます。
患者さんの歯や口だけでなく、全身にも目配りされているんですね。

当院にいらっしゃる患者さんには、治療後の状態を長く保ってほしいんです。だからこそ、3ヵ月ごとにお口のケアに通ってほしいと心から思っています。政府でも「国民皆歯科健診」が掲げられましたよね。お口を健診でチェックして、きれいで疾患のない状態を保つことで、全身の健康維持にもつながります。その継続が大切です。私は学生時代にラグビーをやっていたんですが、そこでもキーワードは「継続」でした。プレーやパスをつなげていくことが重要なんです。継続って大切だけど、難しいことでもありますよね。だからこそ、患者さんに寄り添って伴走しながら、長いスパンで健康づくりのサポートを続けていきたいと思っています。