口腔ケアや摂食嚥下訓練で
体力回復をめざす訪問歯科診療
太子歯科医院
(名古屋市緑区/中京競馬場前駅)
最終更新日:2021/10/12
- 保険診療
少子高齢化が進む昨今、通院が困難な高齢者への在宅医療のニーズが高まっている。高齢者だけでなく、障害者や自宅療養者も含めた生活弱者を定期的に訪問し、歯科医療を提供している訪問歯科診療。歯の痛みの治療をしたり、入れ歯を治したりといった従来からある往診とは少し内容が違うという。緑区にある「太子歯科医院」では、小児歯科、歯科口腔外科などの外来診療をしながら訪問歯科診療にも力を入れている。小森敦夫院長は、「定期的な訪問での口腔ケアや摂食嚥下訓練などにより、高齢者の死因の一つにもなっている誤嚥性肺炎を減らすことにもつなげられる」と話す。緑区歯科医師会の会長でもあり、訪問歯科診療の認知のための講演も行っている小森院長に、詳しく話を聞いた。
(取材日2018年10月9日)
目次
一人ひとりに合った口腔機能回復訓練の計画を立て長期的にフォローしていく訪問歯科診療
- Qどんなきっかけで訪問歯科診療を始められたのですか?
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A
阪神淡路大震災でのボランティアがきっかけでした。震災後4日目に現地に入りましたが、入れ歯をなくした方や歯茎が腫れてしまった方だけでなく、精神状態が悪化していたり体の抵抗力が落ちて潰瘍だらけになったりという方も多くいらっしゃいました。たった4日間だけでも人はそんな状態になってしまうことを目の当たりにし、口腔ケアの大切さを実感しました。そして、その時は応急処置という形でしたが、われわれ歯科医師は道具や機械がないと満足なケアができないことも実感しましたね。そこで、帰ってすぐにポータブルの歯科道具をそろえました。歯科医師も救急医療に貢献できるんだということもわかり、まずは往診から始めました。
- Q往診と訪問歯科診療の違いは何でしょうか?
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A
往診というのは、通院していた患者さんが事故や病気で通院できなくなった場合に、必要に応じて訪問をし、歯の痛みや詰め物が取れたなどの処置をします。私も往診をするうちに口腔ケアの大切さを実感し、徐々に訪問歯科診療へと移行していきました。訪問歯科診療というのは、長期的な計画に基づいて、定期的に患者さんの自宅や施設を訪問し、治療や口腔ケアの診療をします。患者さんの内科的疾患や要介護度なども視野に入れた長期的な診療なので、歯科医師だけでなく歯科衛生士やケアマネジャーなどのチームで行う包括的な診療といえます。各種健康保険や介護保険の対象となっています。
- Q訪問歯科診療を受けられるのはどのような場合ですか?
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A
基本的に通院が困難な方ですね。全身疾患があって歩行が困難な方をはじめ、がんや脳梗塞、心筋梗塞などの病気で要介護になって療養されている方など。健康保険と介護保険の二つ合わせて使うこともできます。食べるという動作には、食べ物を認知して口に入れることに始まり、かみ砕いて、喉の反射機能を使って気管支に入らないようにするなど段階があるのですが、その各機能の中でどこに障害があるかをまず検査します。
- Q訪問歯科診療の大切さはどのような点にありますか?
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A
口腔ケアを行うことで、精神疾患をはじめ脳梗塞や肺炎などの予防につなげられることもあります。高齢になると体力が低下し、病気の手前の状態であるフレイルになり、その先は筋力低下で物が食べられなくなるサルコペニアになり、物が食べられなくなると、歩行困難や肺炎等を引き起こしてしまうといったように悪循環となることがあります。訪問歯科で、この悪循環を断ち切りたいですね。物が食べられなかった高齢者でも摂食嚥下訓練によって体力が回復できることも。摂食嚥下訓練は、筋力と喉の反射機能を回復させるためのトレーニング。具体的には、お祭りにあるような吹き戻しを使った訓練や歯科衛生士が行う筋肉のマッサージなどです。
- Q貴院の訪問歯科診療の特色を教えてください。
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A
往診だけでなく、在宅医療に踏み込んで口腔ケアや摂食嚥下訓練までしている歯科医院はまだまだ多くないのが現状ですね。当院では、まず検査をして今後の定期的な診療計画を立てていますが、ポータブルの内視鏡検査がありますので、物を食べてもらって反射機能を確認する精密検査も可能です。また、訪問歯科診療ではチーム力も大切ですね。訪問を専門とする歯科医師もいますし、私も昼休みや休診日を利用して訪問診療をしています。われわれ歯科医師だけでなく、内科の医師やケアマネジャー、理学療法士、介護士、栄養士、薬剤師など、多職種連携で患者さんのケアをする必要があり、それぞれの専門分野が一つのチームになって体制をとっています。