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初期症状は? 治療方法は? 甲状腺疾患について正しく知ろう!甲状腺疾患は女性に多い病気ですが、なじみのない方も多いのでは?そこで今回は、甲状腺疾患が体に及ぼす影響から生活上のアドバイスまで、知っておきたい基礎知識について解説します。

(公開日2018年2月20日)

甲状腺疾患は女性に多い病気ですが、なじみのない方も多いのでは?
そこで今回は、甲状腺疾患が体に及ぼす影響から生活上のアドバイスまで、知っておきたい基礎知識について解説します。

甲状腺は全身の健康を守る元気の源。
異常に気づくことが大切!

近年、雑誌やテレビで紹介されることの多い甲状腺疾患。「耳にしたことはあるけど、ピンと来ない」という方も多いのではないでしょうか?実は甲状腺は体の健康を守る上で欠かせない臓器なのです。首の喉仏の下にあり、通常は輪郭を確認できませんが、腫れやしこりがあると手で触ってわかるようになります。甲状腺から分泌されるホルモンは、各器官の働きを活発にして新陳代謝を良くする役割を持つ、いわば「元気の源」。そのため、甲状腺の形やホルモンの働きに異常があると、全身の不調を招いてしまいます。広く知られる「バセドウ病」や「橋本病」は、このホルモンの働きが変化して起こる代表的なもので、前者は甲状腺機能が亢進(こうしん)する病気、後者は甲状腺機能が低下する病気です。甲状腺疾患の大きな特徴として、患者の多くが女性であること、典型的な症状があまりみられないことの2つが挙げられます。その上、左ページの初期症状を見てもわかるとおり、更年期障害や体調不良による症状に似ているので、発見が遅れたり、気づかないまま過ごしていたりする「隠れ甲状腺疾患」の方が多いのです。きちんと検査を受けて治療をすれば、支障なく日常生活を送れる疾患ですので、必要以上に不安を感じなくても大丈夫。まずは正しい知識を持って、ご自身の体に意識を向け、早期発見・治療につなげましょう。

甲状腺ホルモンの働き

体の働きを活発にし、新陳代謝をアップさせます

甲状腺ホルモンの働き

甲状腺疾患の初期症状
セルフチェック

甲状腺疾患の症状はさまざまで、ホルモン分泌の増減により異なるため、注意が必要です。 体の不調を感じたら、以下のリストを参考にセルフチェックをしてみてください。

初期症状についての伊藤先生からのアドバイス「おかしいな」と感じたら、まずはかかりつけの先生に相談を。
異常が見つかった場合は、専門の医師に診てもらいましょう。

どんな検査でわかるの?

例1)血液検査
甲状腺ホルモンや抗体を調べる検査。
血液中の甲状腺ホルモン(FT3とFT4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌量、自己抗体値、コレステロール値などを調べ、甲状腺機能の働きや疾患の種類を診断します。
例2)エコー検査
甲状腺の形の異常を調べる検査。
甲状腺に腫れやしこりが疑われた場合、超音波を当てて腫瘍の有無や位置、大きさ、性質(良性か悪性か)を確認します。

セルフチェックに加えて
血液検査・エコー検査を!

特徴的な症状があまりないのが特徴ともいえる甲状腺の病気ですが、上記の初期症状に心当たりがある場合は、まずかかりつけの先生に相談しましょう。そこで甲状腺の形や働きの異常が疑われる場合は、甲状腺に詳しい医師のいる病院やクリニックの紹介状をもらい、検査を受けてください。検査方法には、主に 血液検査とエコー検査 の2つがありますが、どちらも検査・診断ともに簡単でスピーディー。検査当日に疾患の有無や程度がわかるようになっています。だからこそ、まずは患者さん自身が自分の体の変化に気づき、医療機関を受診することが大切といえます。

甲状腺の病気の種類

甲状腺の病気には、いくつかのタイプがあります。
タイプによって特徴や治療方法が異なるため、それぞれの違いを理解することが重要です。

( 病気の種類は大きく3つあります )

  • TYPE A

    低下症ていかしょう

    甲状腺から分泌されるホルモンが不足し、機能が低下している状態のこと。エネルギー不足になり、眠気、物忘れ、抑うつ、無気力感、肌の乾燥、抜け毛、むくみなどの症状がみられます。

    主な病名
    橋本病
  • TYPE B

    亢進症こうしんしょう

    甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が高まった状態のこと。動悸、息切れ、多汗、微熱、手指のふるえ、不安感、集中力の低下などの症状がみられます。

    主な病名
    バセドウ病、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎(橋本病の一過性変化)、甲状腺機能性結節(プランマー病)
  • TYPE C

    腫瘍しゅよう

    甲状腺の一部にこぶ(結節)ができた状態(結節性甲状腺腫)のこと。良性と悪性があり、良性の場合は積極的な治療の必要はありませんが、悪性の場合は大半が甲状腺がんで、手術が必要です。

    主な病名
    腫瘍性疾患(腺腫、腺腫様甲状腺腫、がん、悪性リンパ腫

TYPE A : 低下症橋本病はしもとびょう

40代以上の女性に多く、
機能が低下しない潜在型も

自己免疫の異常により甲状腺に慢性的な炎症が起こる疾患。甲状腺組織が破壊されるため、甲状腺ホルモンが不足した状態が続きます。甲状腺疾患の中でも特に女性に多く、その発生頻度は男性の20倍以上。年齢的には40~50代に多くみられます。エネルギーが足りず心身ともに元気が出ないのが特徴で、だるさや物忘れといった症状から、うつ病や認知症などと間違われることも。ただし、ほとんどの人は症状があまり出てこない「潜在型」です。甲状腺機能の低下によるむくみや冷え、代謝の悪化、月経異常といった症状が顕著に現れる人は少なく、多くの場合、首の腫れや血液検査などで発覚することが多いといわれています。

継続的な薬の服用が必須
甲状腺機能が低下している場合は、不足した甲状腺ホルモンを薬で補います。定期的に通院しながら、継続的に服用することが必須。甲状腺ホルモン量の低下がみられない場合は、定期検診を通じて経過観察を行います。

私たち、こうして病気と向き合いました!

(A.Sさん/40代前半)
薬を服用しながら出産しました

なかなか妊娠せず、産婦人科の先生の勧めで検査を受けたところ、橋本病と診断されました。ショックでしたが、ホルモンの数値をコントロールできていれば、妊娠・出産も問題ないとのことで、薬を服用しながら規則正しい生活を心がけた結果、半年後、めでたく妊娠! 妊娠中も定期的に通院し、安心して出産に臨めました。

TYPE B : 亢進症バセドウ病ばせどうびょう

比較的男性にも多く、
更年期障害などと間違われやすい病気

橋本病と同じ自己免疫疾患の一種で、甲状腺を刺激する抗体が甲状腺ホルモンを過剰に分泌させる病気です。30~40代に発症する人が多く、ほかの甲状腺疾患と比較すると男性患者の比率が高いのが特徴。とはいえ男女比では1:4と、やはり女性に多いことがわかります。
ホルモンの過剰分泌により、新陳代謝が必要以上に活発になり、疲労状態が続くのが特徴です。症状としては首の腫れや眼球の突出のほか、動悸や息切れ、発汗、集中力の低下などがみられます。これらは、更年期障害や糖尿病、心臓病などと勘違いされる可能性もあるので注意が必要です。首の腫れの程度と症状の重さは必ずしも比例しませんが、腫れが大きいと治療が長引くことがあります。また、眼球突出の症状がみられる患者は約20~30%で、その程度も症状の重さとは関係ありません。
エネルギーを過剰に消費するため、体重が減少する傾向にありますが、若い女性では逆にカロリーの過剰摂取で太ってしまう人も少なくありません。また、70%以上の人に手足の震えがみられ、男性の場合は、朝起きたときに全身が金縛りのように動かなくなる周期性四肢まひが起こることもあります。

ファーストチョイスは投薬治療

治療法 1 薬物療法

甲状腺ホルモンの分泌を抑える薬を服用し、ホルモン値を正常にする日本では最も一般的な治療法。ただし、改善までに時間がかかったり副作用が出たりすることも。

治療法 2 手術療法

腫れが目立つ場合や薬の副作用がある場合などに、甲状腺を切除することでホルモンの過剰分泌を抑えます。術後は甲状腺ホルモン薬の内服が必要となります。

治療法 3 アイソトープ治療

放射性ヨウ素カプセルを服用して甲状腺にヨウ素を集め、体の内側から放射線を照射し甲状腺の細胞を減らす方法。傷痕が残らないこともメリットの一つ。

私たち、こうして病気と向き合いました!

(CASE 1)
(N.Yさん/30代後半)
手術で甲状腺を全摘
今では上手に向き合えるように

大学時代に健康診断で甲状腺の腫れを指摘され、検査の結果、バセドウ病と診断されました。食欲はあるのに体重が減り、「病気では?」と心配していたので、原因がわかってほっとしたのを覚えています。でも治療に入ると薬が合わず、副作用に悩まされることに……。最終的に手術で甲状腺を全摘し、薬の服用を続けています。薬を飲む習慣をつけてしまえば旅行や運動も問題なく、病気だと意識することはほとんどないですね。

(CASE 2)
(R.Aさん/40代後半)
かかりつけ医に相談し
バセドウ病だとわかりました

冬なのに汗が止まらず、イライラがひどくなる一方で、「まさか更年期?」と不安に思いかかりつけ医に相談したところ、甲状腺機能が亢進する病気だと判明。飲み薬から開始し、アイソトープに切り替えたのですが、効きすぎて機能低下症になり、現在も薬を服用しています。つらかったのは病気の影響で一時期太ってしまったことですね。今も食事に気を使っていますが、無理せず病気と上手に付き合っていけたらと思います。

TYPE B : 亢進症無痛性甲状腺炎むつうせいこうじょうせんえん

多くのケースが橋本病の一過性変化
痛みはなく自然に改善

甲状腺の炎症部分の細胞が破壊され、甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出すことで、バセドウ病と似た症状が現れます。橋本病の患者さんや出産後間もない女性に多く発症し、その名のとおり痛みはありません。一時的なホルモンの増加後、甲状腺機能低下症になることがありますが、4ヵ月以内には自然に改善に向かいます。バセドウ病に似た症状が強く出る場合は、ホルモン作用を抑える薬を使います。なお、半年から10年の間隔で再発する傾向にあります。

TYPE B : 亢進症甲状腺機能性結節
(プランマー病)こうじょうせんきのうせいけっせつ

結節がホルモンを過剰分泌
手術による切除が有効

甲状腺にできた結節(しこり)が大きくなり、甲状腺ホルモンを過剰に分泌することで、機能亢進症を引き起こします。症状はバセドウ病よりも軽度な場合が多いです。甲状腺ホルモンの分泌を促す甲状腺刺激ホルモン(TSH)の作用とは無関係に、結節が甲状腺ホルモンをつくるため、それに対応してTSHの分泌が抑制され、結果的に甲状腺の正常組織が機能しなくなります。そのため、手術などで結節を取り除き甲状腺の機能を正常にする必要があります。

TYPE B : 亢進症亜急性甲状腺炎あきゅうせいこうじょうせんえん

30~40代の女性に多く
痛みと腫れを伴うのが特徴

甲状腺の炎症により、痛みと腫れを伴う疾患です。一過性の甲状腺機能亢進が起こり、動悸や息切れ、発汗、倦怠感など、バセドウ病と同様の症状が現れます。発熱や鼻・喉の炎症に続いて起こるためウイルスが原因ではないかと思われがちですが、他人への感染はありません。慢性化や再発の可能性は低く、30~40代の女性に多いのが特徴です。基本的に経過を観察し、痛みが強い場合には鎮痛解熱消炎剤などを使用して様子を見ます。

TYPE C : 腫瘍腫瘍性疾患しゅようせいしっかん

悪性腫瘍といっても
進行が遅く治りやすい

甲状腺の腫瘍には、全体が腫れる「びまん性甲状腺腫」と、部分的にしこりのできる「結節性甲状腺腫」があり、結節性甲状腺腫はさらに、良性の甲状腺腺腫と、悪性の甲状腺がんや悪性リンパ腫に分けられます。悪性腫瘍の中で最も多いのは乳頭がんで、進行が遅くきちんと治療をすれば治りやすいとされています。腫瘍切除やアイソトープ治療を行うほか、良性腫瘍に対してはエタノールを注入して腫瘍を壊死させる方法(PEIT)を用いることもあります。

素朴な疑問Q&A

甲状腺にまつわるちょっとした疑問を集めました!
日常生活ですぐに取り入れられるヒントやアドバイスばかりです。ぜひ参考にしてみてください。

生活上の注意点はありますか?
甲状腺疾患はストレスの影響を大きく受けるので、生活リズムを整えリフレッシュする時間をつくりましょう。また、運動については、機能亢進時にドクターストップがかかることがありますが、通常は問題ありません。
子どもはどんな症状があれば受診すべき?
小学校高学年から高校生にかけてみられるのが、バセドウ病です。落ち着きがなく情緒不安定になり、成績が低下する場合も。ご両親が甲状腺疾患をお持ちで、特に女の子の場合は、高校生になったら受診をお勧めします。
高齢の場合 何に気をつけたらいい?
若い人とは症状が異なり、バセドウ病では腫れが目立たず、体重が減る傾向にあります。全体的に症状が現れにくく、うつ病や持病の症状として見過ごされがちなため、気になることがあれば検査を受けましょう。
食事やアルコールに制限はありますか?
昆布などの海藻に含まれるヨウ素の取り過ぎには注意が必要ですが、基本的には1日3食をバランス良く食べることが大切。神経質になり過ぎるのも良くありません。ただし、機能亢進時はアルコールを控えましょう。
薬の副作用について教えてください
人によっては、かゆみや発疹、関節痛、筋肉痛、発熱、肝機能障害などの副作用が出ることも。薬を飲み始めて2週間~3カ月以内に起こることが多く、その場合は医師に相談し、薬を変えたりほかの治療に変更したりします。

妊娠・出産×甲状腺の病気

出産年齢の高齢化が進む昨今、甲状腺疾患と妊娠・出産との関係に 注目が集まっていますが、
実際のところ影響はあるのでしょうか?

大切なのは適切な治療での
甲状腺ホルモンのコントロール

甲状腺疾患は女性に多い疾患です。それだけに、妊娠・出産を考える方にとっては、その影響は気になるところでしょう。結論から言うと、疾患があっても、適切な治療を受けて甲状腺機能が正常に保たれていれば、妊娠・出産に問題はありません。よく「不妊になりやすいのでは?」「胎児に影響が出るのでは?」と心配される方がいますが、月経不順になることはあっても、妊娠しにくいというわけではありません。ただし、甲状腺機能に異常がある状態では、妊娠中の流産や早産のリスクが高まる可能性があるため、妊娠前後を通じて甲状腺ホルモンを正常に保つ必要があります。
近年のトピックスとしては、出産年齢の高齢化により患者数が増加する橋本病との関連性が挙げられます。海外の研究によって、従来よりも高めの基準値を設定し、その範囲内にホルモン分泌量を維持することで、流産や早産のリスクを軽減できることがわかってきたのです。
妊娠を考えたらまず医療機関で検査を受け、もし問題が見つかれば、専門家の適切な指導のもとでしっかりと甲状腺ホルモンをコントロールすることが大切であるといえます。

妊娠前
気になるポイント

(妊娠前)検査を受けることが第一歩 妊娠に影響はないので安心を

「治療中は妊活ができないのでは?」という誤解から受診しない方がいますが、それはNG。もし異常が見つかっても治療すれば妊娠に影響はないので、まずは検査を受けましょう。

(妊娠中)不安定な時期だからこそ薬の継続と定期的な受診が大切

医師の指導を受けながら、必要があれば、妊娠中も抗甲状腺薬や甲状腺ホルモン薬を服用します。ホルモン値が変動しやすい時期なので、定期的に受診しコントロールしていきます。

(出産後)授乳中の薬については医師に相談しよう

出産後に一時的に症状が悪化することがあるので、注意が必要。授乳中の薬の服用については、医師に相談しましょう。場合によっては薬の変更などを検討することもあります。

DOCTOR'S MESSAGE伊藤先生からの
アドバイス&メッセージ

まずは知識と関心を持つこと
不安があれば検査を受けましょう

甲状腺疾患はきちんとコントロールすれば怖いものではありませんので、悲観的にならず、上手に向き合うことが大切。もし思い当たる節があれば、かかりつけ医に相談して検査を受けてみてください。まずは知識と関心を持つことが健康への第一歩です!

伊藤病院
伊藤 公一 院長

北里大学医学部卒業。東京女子医科大学大学院修了。シカゴ大学留学を経て、祖父が創設した甲状腺疾患専門病院「伊藤病院」の3代目院長として、創業80年の実績と信頼を守る。

イラスト:キリ