
こちらの記事の監修医師
国立大学法人 高知大学医学部附属病院
呼吸器・アレルギー内科 教授 横山 彰仁 先生
とくはつせいはいせんいしょう特発性肺線維症
最終更新日:2024/11/29
概要
肺の奥にある肺胞は、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する働きをしています。肺胞と肺胞の間を仕切る壁が変化して、肺胞がうまく機能しなくなる病気を間質性肺炎といいます。間質性肺炎の中で発症の原因が特定できないものが特発性間質性肺炎で、治療が難しいことから国の難病指定を受けています。その中で、最も多いタイプが特発性肺線維症(IPF=Idiopathic Pulmonary Fibrosis)です。IPFでは徐々に肺胞壁が硬くなっていく線維化という現象が進行し、肺が十分に膨らまなくなってしまいます。その結果、息苦しくなり、最終的には生命が脅かされるようになります。平均的な生存期間は3~5年といわれていますが、個人差が大きく予測が難しい病気です。近年は病気の進行を遅らせるための治療薬も登場しています。
原因
近年の研究で、特発性肺線維症で肺胞の壁が厚くなっていくメカニズムが徐々に明らかになってきました。肺胞の壁を構成する細胞(肺胞上皮細胞)に繰り返し傷がつき、その修復過程で過剰な反応が起きてコラーゲンなどが大量に蓄積し、厚くなっていくといわれています。しかし、その現象が起きる根源ははっきりとわかっていません。主に肺胞上皮細胞の機能に関係する遺伝子の異常、傷をつける原因となる環境要因の両面から研究が進められています。ただ、わが国のIPFの患者数は1万数千人と推定されていますが、50歳以上の男性に多く、ほとんどが喫煙者であることから、危険因子の一つとして喫煙が挙げられています。その他の危険因子の候補としては、ウイルスなどの感染や逆流性食道炎、空気中の有害物質なども挙げられます。また、遺伝的な影響と考えられる家族性の肺線維症が存在することもわかってきました。
症状
特発性肺線維症の初期の自覚症状として出現しやすいのは、コンコンという痰の出ない咳(空咳)です。また、坂道や階段の上り下りで息切れを感じるようになります。こうした症状が徐々に進行し、入浴や着替えなどの日常の生活動作でも息苦しさを感じるようになり、やがて酸素吸入が必要になることも。また、人によっては指の先が太鼓のばちのように太く盛り上がる「ばち指」という独特な症状が出ることもあります。初期は風邪と同じような症状ですが、症状が長引くようなら呼吸器の病気である可能性がありますので、呼吸器内科を受診してみましょう。
検査・診断
問診や体の診察に続き、呼吸機能検査、胸部エックス線検査、CT検査、血液検査などが実施されます。IPFでは画像で網状やすりガラス状の陰影が確認できます。線維化が進むと、肺が硬く縮んで穴だらけになった蜂の巣のような画像が見えることも。また、体を動かしたときの呼吸状態を調べる6分間の歩行検査も実施。さらに、IPFと他の特発性間質性肺炎や呼吸器の感染症、悪性腫瘍などとの鑑別診断を行うために、全身麻酔手術や胸腔鏡によって肺組織の一部を採取して顕微鏡で検査する肺生検や、気管支鏡で肺胞を洗浄した液を回収し、液中の細胞や成分を調べる気管支肺胞洗浄検査を行うこともあります。
治療
IPFに対する治療はこれまで、症状を一時的に改善するための治療しかなく、不治の病とされてきました。現在もこの病気を完治させることはできませんが、2008年と2015年に肺の線維化の抑制を目的とする薬が開発され、病気の進行を遅らせるための治療が行えるようになりました。ただ、IPFの進行具合は個人差が大きいため、ごく軽症で息切れなどの自覚症状がない場合は、喫煙者であれば禁煙治療を行いながら、病気の進行状況を数ヵ月間観察することもあります。さまざまな検査の結果などを踏まえ、総合的に判断して病気の進行が認められるようであれば薬による治療を開始します。IPFでは、急激に呼吸機能が悪化する「急性増悪」という状態になることがあるため、ステロイドや免疫抑制剤などを使用することも。また、病気が進行して呼吸不全という状態に陥ったときは、在宅酸素療法などの酸素吸引治療を行います。残された肺の機能や呼吸筋を最大限に使う呼吸リハビリテーションも進行抑制に有用です。他に治療手段がない場合には肺移植を検討することもあります。
予防/治療後の注意
IPFだけに限らず、呼吸器の病気全般に共通することですが、喫煙者の場合は禁煙が病気の悪化を予防する上では非常に重要です。日常生活においても、過労や睡眠不足を避け、できるだけストレスのかからない生活を心がけてください。また、風邪、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、細菌性の肺炎などをきっかけに、IPFの急性増悪が起きることも多いため、マスク着用や手洗いを習慣づけ、ワクチン接種も検討してください。いつもより症状が強いなど、体調の異変に気づいたときは、すぐに主治医に相談しましょう。

こちらの記事の監修医師
呼吸器・アレルギー内科 教授 横山 彰仁 先生
1983年富山医科薬科大学医学部卒業後、同大学第一内科入局。シカゴ大学、愛媛大学第二内科、広島大学第二内科(分子内科学)を経て、2007年より現職。2014年から4年間附属病院病院長。2020年より日本呼吸器学会理事長。専門は呼吸器内科学。
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