
こちらの記事の監修医師
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
院長 門脇 孝 先生
じんせいとうにょう 腎性糖尿
最終更新日:2021/12/28
概要
腎性糖尿は、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)は正常であるが、腎臓の一部の機能が弱いために尿中にブドウ糖が出ている状態(尿糖陽性)を指します。尿糖が出る病気は糖尿病だと思われがちですが、血糖値が正常な場合は糖尿病ではありません。尿中にブドウ糖が出ているだけで他に異常がなければ、何も症状は出ないため、特に治療の必要はありません。ただ、健康診断で尿糖が出ていると指摘された場合は、医療機関を受診して精密検査を受け、糖尿病ではないのかどうか、その他の病気ではないかどうかを、しっかりチェックしてもらうことをお勧めします。
原因
腎臓には糸球体という毛細血管が集まった組織があり、ここで血液から老廃物などをろ過し、尿の元である原尿を作ります。その際、老廃物とともにブドウ糖もいったんは原尿の中に排出されますが、原尿が尿細管という細い通り道を通過する間に、ブドウ糖などの必要な物質だけを再吸収するという仕組みです。原尿の中に排出されたブドウ糖は通常、ほとんど尿細管で再吸収されますが、再吸収する力が弱い場合は尿中にブドウ糖が排泄されてしまいます。その原因の一つは、ブドウ糖の再吸収をポンプのように担うタンパク質の働きが遺伝的に弱いことです。このタイプは尿糖が見られるだけで特に困った症状は出ないため、治療の必要はありません。一方、尿細管の機能がもっと幅広く障害され、ブドウ糖だけでなくリンやアミノ酸などの再吸収ができないファンコニ症候群という病気もあり、体に必要なさまざまな物質が不足することにより、全身性疾患を引き起こすことにつながります。
症状
尿検査で尿糖だけが陽性で他が正常な腎性糖尿は、多くの場合で無症状です。尿中にブドウ糖だけでなく、リン酸やアミノ酸が多く排泄されている場合は、ファンコニ症候群だと考えられますが、小児(遺伝性ファンコニ症候群)では、アシドーシスの症状として、吐き気、嘔吐、疲労感などが、低リン血症性くる病の症状として発育不全や骨軟化症が、低カリウム血症の症状として脱力感や筋肉痛などが、他にも多尿、多飲などが見られます。シスチン症という全身疾患を合併していると、全身の細胞にシスチンというアミノ酸が蓄積するため、治療しなければ10歳ぐらいまでに腎不全となります。また、まれに遺伝ではなく、薬の影響でファンコニ症候群を発症することもあります。
検査・診断
腎性尿糖は尿検査で見つかります。この検査は採取した尿に尿糖試験紙を浸して判定するごく一般的な検査で、多くの医療機関で実施しています。陰性(-)が正常で、陽性(+)は尿糖が100ml/dl以上出た状態です。さらに尿糖の量が多い場合は(++)、(2+)などと表示されますが、その基準は試験紙のメーカーごとに異なります。尿糖が陽性の場合は、まず糖尿病が疑われますので、血液検査を行い、空腹時血糖やHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)を測定します。経口ブドウ糖負荷試験を行う場合もあります。これで、糖尿病ではないことがわかったら、1日に出た尿をすべてためて検査する24時間畜尿検査を行います。この検査で尿の成分を詳しく調べます。ブドウ糖の他に、リンやアミノ酸なども高い濃度で検出された場合は、ファンコニ症候群を疑います。
治療
尿糖だけが高い腎性糖尿は、特に問題となる症状はなく、治療の必要はありません。一方、ファンコニ症候群は完治する病気ではありませんが、薬などで症状のコントロールが図れます。血液が酸性化して強い吐き気や疲労を感じるアシドーシスという状態になったときは、炭酸水素ナトリウムなどで酸を中和する治療を行います。シスチン症にもシスチンを除去するための治療薬が出てきました。
予防/治療後の注意
腎性糖尿は遺伝性であることが多く、予防法はありません。尿糖が出ていたら、血液検査を受けて糖尿病の検査をすることと、ファンコニ症候群など尿細管の病気が疑われる場合は腎臓内科などで適切な診断を受けることをお勧めします。また、尿糖が多い場合は尿路の感染症になりやすいので、できるだけ清潔に保つようにしましょう。

こちらの記事の監修医師
院長 門脇 孝 先生
1978年 東京大学医学部卒業後、東京大学第三内科に入局。米国NIH糖尿病部門客員研究員、東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授を経て、現職。
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