
こちらの記事の監修医師
東京医科大学八王子医療センター
腎臓病センター長 腎臓内科科長 血液浄化療法室長 教授 尾田 高志 先生
ていなとりうむけっしょう低ナトリウム血症
最終更新日:2022/01/04
概要
低ナトリウム血症は電解質異常の一つで、血液中のナトリウムの濃度が低下してしまう病気のことです。血液中のナトリウム濃度を測定し、136mEq/L未満であれば低ナトリウム血症と呼びます。ナトリウムは人体に必要なミネラルの一種で、細胞を取り巻く細胞外液の浸透圧を調整する働きや、筋肉や神経の働きを正常に保つ働きがあり、主に食塩(塩化ナトリウム)の形で摂取されます。健康な人には体液の量と質を適切にコントロールする機能が備わっているため、通常、低ナトリウム血症になることはほとんどありません。しかし何らかの原因で細胞外液のナトリウム濃度が低下したままになってしまうと、筋肉や神経の働きに異常が生じ、特に脳神経の症状が出て、最悪の場合、死に至ることもある病気です。
原因
健康な人の腎臓には、血液中のナトリウム濃度が低下すると、尿として排出する水分を多くしたり、排出するナトリウムを減らしたりして、水とナトリウムのバランス・濃度を一定に保つような働きがあります。低ナトリウム血症は何らかの原因でそれが機能しなかったときに発症すると考えられています。これには体液量の面から3通りの場合が知られており、1つ目は体液量が低下している状態で、下痢、嘔吐、大量の発汗、サイアザイド系利尿薬の副作用などにより、ナトリウムが一気に大量に失われ、補充されなかった場合です。2つ目は体液量が増えた状態で、ナトリウムに比較し体内の水分量がより過剰になることで生じるものです。このタイプには、心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、腎不全などの疾患からの低ナトリウム血症が含まれます。さらに3つ目のタイプとして体液量がほぼ正常な状態で見られる低ナトリウム血症があり、このタイプにはホルモン異常によるものが多く、中でも抗利尿ホルモン(バソプレシン)という腎臓から排泄する水分量をコントロールするホルモンの分泌異常による抗利尿ホルモン不適合分泌症候群は有名です。その他、いくつかの薬、また、加齢によっても水分とナトリウムの調節機能が低下して低ナトリウム血症を発症すると考えられています。
症状
低ナトリウム血症は初期にはほとんど無症状です。最初に影響を受けるのは、血液中のナトリウム濃度の低下を特に敏感に感じ取る脳です。そのため、血液中のナトリウム濃度が120~130mEq/Lぐらいになると「軽い疲労感」を感じ始め、そのうちに「反応が鈍くなる」、「錯乱する」といった脳の症状に加え、頭痛や嘔吐、食欲不振などが出現します。110 mEq/L程度まで低下した重症例では筋肉のひきつり、けいれんの発作が起き、さらに昏睡に陥り、ついには死亡してしまうこともあります。特に心臓や肝臓、腎臓に持病のある人に、これらの症状があるときは早めに医師に伝えてください。
検査・診断
血液中のナトリウム濃度を測定し、136mEq/L未満の場合を低ナトリウム血症と診断します。クリニックなどでもよく行われる一般的な血液検査の1項目で、低ナトリウム血症かどうかは簡単に診断できますが、その原因を特定するには、さまざまな問診や検査が必要となります。まず、低ナトリウム血症の原因となるような心不全、肝硬変、腎不全などの病気を持っていないか、服用している薬の中に原因となるようなものがないかを調べます。そして、血液検査と尿検査を追加し、体液量、血液・尿の浸透圧、電解質、抗利尿ホルモン(バソプレシン)などを詳しく調べ、原因を特定していきます。
治療
低ナトリウム血症の原因に応じた治療を行います。他の疾患を原因としていない、軽度の低ナトリウム血症は、1日の摂取水分量を1リットル未満に制限することで多くは回復します。それだけで回復しない場合は、ループ利尿薬という薬を用いたり、場合によってはバソプレシン拮抗薬という薬を用いたりして、過剰な水分量を補正する治療を行います。心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群などの疾患が原因で水分調整がうまくできていない場合は、それらの疾患自体と低ナトリウム血症の両方を考えた薬の選択を行います。体液量が減少しているタイプの低ナトリウム血症では、生理食塩水を点滴します。一方、体液量が正常な低ナトリウム血症には原因疾患の治療を行います。重症例や抗利尿ホルモン不適合分泌症候群は厳格な水分制限や、ナトリウム濃度の非常に高い食塩水の点滴が必要になる場合もあります。急激にナトリウム濃度を高めると脳神経系に合併症を発症するリスクがあるため、適正な速度で点滴し、安全を確かめながら補正します。
予防/治療後の注意
一般的には、水分を過剰に摂取し、ナトリウムを補給しないことで低ナトリウム血症が起きることが多いため、健康な人では運動後や暑い日にはナトリウムを含んだスポーツドリンクなどで水分補給することが予防になります。ただし、心臓、肝臓、腎臓の病気、生活習慣病などがある場合は、病気の種類や状態、飲んでいる薬などによって、水分や栄養素を補給したり、制限したりする内容は異なりますので、入院した病院やかかりつけの医師の指導に従ってください。

こちらの記事の監修医師
腎臓病センター長 腎臓内科科長 血液浄化療法室長 教授 尾田 高志 先生
1987年防衛医科大学校卒業。同大学校病院やその関連病院勤務、米国ワシントン大学留学、防衛医科大学校病院准教授などを経て、2014年より教授として東京医科大学八王子医療センターに勤務。2016年より腎臓内科科長。2017年より腎臓病センター長。日本腎臓学会腎臓専門医。
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