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東京医科大学八王子医療センター 脳神経内科科長 田口 丈士 先生

こちらの記事の監修医師
東京医科大学八王子医療センター
脳神経内科科長 田口 丈士 先生

きゅうせいさんざいせいのうせきずいえん(エーディーイーエム) 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)

概要

急性散在性脳脊髄炎(ADEM)は、脳、脊髄の神経に炎症が起きて神経の被膜が傷つき、中心部分がむき出しになってしまうことで、さまざまな症状が出る病気です。まれな病気で、日本の全国的な調査(2004~2007年)による罹患率は、人口10万人当たり0.8人で、子どもに多い病気です。ウイルス感染後やワクチン接種後に起きることが多いとされています。重い後遺症を残す場合も多く、死亡率も高い疾患です。同じような神経の病気でよく似た症状を示す病気では多発性硬化症が知られています。多発性硬化症は頻繁に再発を繰り返す病気ですが、急性散在性脳脊髄炎は比較的再発が少ない病気です。それでも、約1割程度は3ヵ月以上たってから再発することがあるとされています。

原因

急性散在性脳脊髄炎は、原因がはっきりしない場合もありますが、多くの場合はウイルス感染やワクチン接種が引き金となります。免疫力が強くなり過ぎて、自分自身の体を攻撃してしまう自己免疫という現象によって、脳や脊髄、目などの神経を傷つけてしまうことで発症すると考えられています。原因となる病原体として、インフルエンザウイルス、はしかウイルス、風疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、EBウイルス、アデノウイルス、サイトメガロウイルスなどと、マイコプラズマ、カンピロバクター、溶連菌などの病原菌が報告されています。ワクチン接種後のADEMでは、インフルエンザとヒトパピローマウイルスのワクチンの接種後発症が多く、三種混合DPTワクチン、新三種混合MMRワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、日本脳炎ワクチンなどでの報告例もあります。

症状

脳や脊髄に複数の病変が同時に表れて、さまざまな症状を引き起こします。代表的な症状として、頭痛、吐き気や嘔吐、発熱などがあります。重症になると、手足のしびれ、けいれん、歩きにくい、意識がもうろうとする、目が見えにくい、感覚が鈍いといった症状や、行動の異常、話ができなくなるなどの症状が出てくることもあります。ウイルス感染やワクチン接種が原因であった場合は、数日から4週間の間に発症し、急激に症状が出てきます。多くは1度だけの発症で終わりますが、1割程度は3ヵ月以上たってから再発することがあるとされています。

検査・診断

まず、症状や原因と推定できる感染症の有無や既往、ワクチンの接種歴や時期などを確認します。同時に、脳や脊髄のMRI検査を行って病変を見つけ、その数や形状、性質などを詳しく分析します。さらに、血液検査と背骨の間に針を刺して髄液を採取して調べる検査を行います。血液検査で白血球の数や、炎症があると上昇するタンパク質の変化を調べるとともに、髄液検査で病気と関連するタンパク質の量の変化を調べ、総合的に診断します。診断に当たっては、症状が似たウイルス性の脳炎や多発性硬化症と見分けることが重要になります。

治療

患者数が少ないため、まだ治療法は確立されていません。入院によるステロイドの大量投与療法の有効性が報告されているため、多くのケースで最初に実施されます。初めにステロイドを大量に静脈注射し、その後は少しずつ量を減らしながら投与する方法が一般的です。このステロイド大量療法で効果が不十分な場合は、免疫グロブリンという免疫反応に関与する物質の大量投与療法が用いられます。また、血液の体外循環装置を用いて、病気の原因となる物質を含んだ血漿(血液の液体成分)を体外に廃棄し、代わりに新鮮な血漿を補充する血漿交換療法という治療を行うこともあります。急性散在性脳脊髄炎の治療には高度な専門知識や安全管理体制が求められます。疑わしい症状に気づいたら、すぐにかかりつけ医などに相談し、専門的な診断・治療ができる病院の紹介を受けて受診してください。

予防/治療後の注意

発症予防は難しいため、疑わしい症状に早く気づき、専門的な診療が可能な医療機関を受診することが命を守り、後遺症を抑える方法といえます。子どものワクチン接種後4週間は頭痛、発熱、意識がもうろうとする、手足のまひ、歩きにくいなどの症状が出ていないか注意し、症状があればすぐに医師、薬剤師に連絡してください。ワクチンの種類と接種した日付をメモしておき、医師へ正確に伝えられるようにしましょう。また、手洗いやうがいを習慣づけて、ウイルス感染自体を防ぐことを心がけましょう。

東京医科大学八王子医療センター 脳神経内科科長 田口 丈士 先生

こちらの記事の監修医師

東京医科大学八王子医療センター

脳神経内科科長 田口 丈士 先生

2000年東京医科大学卒業後、東京医科大学内科学第3講座入局。東京都立荏原病院、東京医科大学病院などでの勤務を経て、2018年10月より現職。専門は小脳変性疾患。日本神経学会神経内科専門医。