
こちらの記事の監修医師
医療法人社団済安堂 井上眼科病院
井上 賢治 院長
かくまくえん角膜炎
最終更新日:2022/01/04
概要
角膜とは厚さ0.5ミリほどの非常に薄い透明な膜で、目の中のいわゆる「黒目」部分にある。角膜炎とはこの角膜が炎症を起こした状態である。この角膜に病原体である微生物がくっついて、炎症を引き起こした状態を角膜感染症と呼ぶ。角膜は5層に分かれた構造になっており、一番外側の空気と接する角膜上皮は涙で保護されている。通常であれば細菌などの感染を防いでいるが何かの原因で角膜上皮に傷ができると病原体である細菌が付着して増殖しやすくなってしまう。角膜感染症は炎症を引き起こす病原体によって「細菌性角膜炎」「真菌性角膜炎」「アカントアメーバ角膜炎」「ヘルペス性角膜炎」などに分けられる。
原因
通常、角膜の最も外側にある角膜上皮は涙で保護されているため、簡単には病原体などの微生物や異物が入れない仕組みになっている。しかし何らかの原因で角膜に傷がつき、その傷に細菌などの病原体が入り込むと炎症が起こる。最近ではコンタクトレンズを着ける人の発症が多く、不潔な環境でコンタクトレンズを扱って洗面所や手洗い場にいる菌が触れてしまい細菌性角膜炎に感染する例がある。真菌性角膜炎の場合、植物の枝などで誤って目を突いてしまったり、土ぼこりが飛んできて目に入ってしまうことが原因となることがある。アカントアメーバ角膜炎は川や沼、土の中や公園の砂の中などに生息するアカントアメーバが原因になる角膜感染症で、患者はソフトコンタクトレンズ使用者が多い。例えば使い捨てコンタクトレンズを再度使用したり、レンズのこすり洗いをしなかったりと、正しく取り扱わないことが原因になる場合がある。
症状
多くの人に共通する一般的な症状として目の痛みやゴロゴロするような違和感、充血がある。また刺激されると涙が出やすくなることもある。角膜は黒目を覆っており、物を見る時に非常に大切な役割を果たす場所なので、場合によっては視界がぼやけて見えたり、視力が低下したり、光がまぶしく感じたりといった視力障害が引き起こされることもある。細菌性角膜炎や真菌性角膜炎では目が強く痛んだり、大量に目やにが出ることが多い。角膜のある黒目部分が一部だけ白く濁ったり、白目が充血する場合もある。真菌性角膜炎は病気に対する抵抗力が落ちていたり、目に持病があったりする場合に感染しやすいといわれている。
検査・診断
角膜炎の診断は問診や視診による確認と併せて、炎症した角膜の状態を観察することで下される。具体的には、細隙灯という鏡を使って目を拡大し、光を当てて状態を観察する細隙灯顕微鏡検査で角膜の状態を観察。炎症の度合いを診る。その際に目の表面や傷がよく見えるように染色する場合もある。また細菌や真菌への感染を確認するために、角膜の表面をこすり取って培養し、細菌や真菌の感染があるかどうかを確認する場合もある。同時に視力障害などの異常を確認するために視力検査が行われることもある。
治療
角膜炎の治療は、感染した病原体の種類に応じて異なる。細菌性角膜炎の場合は、抗菌薬の点眼が基本となるが、重症の場合は内服の抗菌薬を処方したり、点滴も同時に行う。細菌性角膜炎は細菌の種類によっては病気の進行が早い場合もあり、治療せずに放置すると角膜が溶けてしまう可能性もある。真菌はカビの一種のため、真菌性角膜炎ではカビに対して効き目のある抗真菌薬を点眼したり、内服薬として用いたりする。点滴薬を用いる場合もあるが、治療は1ヵ月以上の時間をかけて行われ、回復するまで長い期間がかかることが多い。アカントアメーバ角膜炎は抗真菌薬や消毒液を点眼、点滴したり、角膜の表面を削るなどさまざまな治療を組み合わせて対応する。ヘルペス性角膜炎では、抗ウイルス薬の軟こうを塗って治療するが、重症の場合は内服薬を使うほか、点滴も行う。
予防/治療後の注意
角膜炎は、感染した病原体の種類によっては病状の進行が早く、失明する可能性もある病気である。また病原体を取り除いても、角膜に濁りが残って角膜移植が必要となることもあり、異常を感じた場合には早めに眼科を受診することが大切。普段とは違う目の充血や痛み、大量の目やになどの症状がある場合には眼科医に相談を。またコンタクトレンズを使用する場合は指定されたとおりに取り扱い、乱暴に扱ったり不潔な環境での使用を避ける。ごみや異物が目に入りやすい場所に行ったり、作業したりするときには保護用の眼鏡をかけるなど日常生活における心がけが予防につながる。

こちらの記事の監修医師
井上 賢治 院長
1993年千葉大学医学部卒業後、1998年東京大学大学院医学系研究科修了。東京大学医学部附属病院分院(現在は本院に統合)眼科医局長、名戸ヶ谷病院眼科部長、井上眼科病院附属お茶の水・眼科クリニック(現:お茶の水・井上眼科クリニック)院長を経て、2008年に同院母体である医療法人社団済安堂の理事長に就任。2012年から井上眼科病院院長を兼務。日本眼科学会眼科専門医。
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