こちらの記事の監修医師
神奈川県立こども医療センター
形成外科部長 小林 眞司 先生
とりーちゃーこりんずしょうこうぐん トリーチャーコリンズ症候群
最終更新日:2020/08/03
概要
「トリーチャーコリンズ症候群」は、約1~5万人の出生に1人が発症するといわれる先天異常症候群です。典型的な症状としては、頬骨の部分的な欠損や小さな下顎が特徴です。その結果、呼吸障害や難聴など、さまざまな症状を併発することも珍しくありません。基本的に知的障害は伴いませんが、一部の患者に精神発達の遅れがみられます。その原因はわかっていません。
原因
顔面の骨などが正しく発育するために重要な遺伝子(TCOF1、POLR1C、POLR1D)に異常が生じることによって、トリーチャーコリンズ症候群が引き起こされます。中でも、TCOF1遺伝子の異常が全体の約70~90%を占めています。また、両親のいずれかがトリーチャーコリンズ症候群である場合、50%の確率で子どもに遺伝するともいわれていますが、同じ家系内でも症状の幅が広く、罹患していても症状が目立たず、気づかれないこともあります。そのほか、妊娠中にビタミンA(レチノイン酸)を過剰摂取することとの関連性も疑われています。
症状
顔面に集中して症状が表れます。特に頬骨が低形成となり、下顎が小さくなることが多いのが特徴です。その結果として、目の疾患、口付近の疾患、耳の疾患など、さまざまな合併症を引き起こすことになります。目の疾患としては、まぶたの外側が下がってしまう眼瞼裂斜下(がんけんれつしゃか)や、下瞼が欠損する下眼瞼欠損(かがんけんけっそん)をはじめ、眼球が小さくなる小眼球、下まつげの部分あるいは全欠損、斜視などが挙げられます。口付近の疾患としては、下顎が小さくなる小下顎症や口唇口蓋裂などが挙げられます。特に小下顎症により気道がふさがれ呼吸障害を引き起こします。耳の疾患としては、耳が小さかったり、欠損したりする小耳症などが挙げられ、難聴を認めます。他には先天性の心奇形や停留睾丸など、顔面以外に症状が表れることもあります。なお、知的障害は伴わないことがほとんどですが、患者の約5%に精神発達の遅れがみられます。
検査・診断
顔面の骨の発育に関わる遺伝子(TCOF1、POLR1C、POLR1D)の異常がトリーチャーコリンズ症候群を引き起こすため、遺伝子検査によって異常がないかを調べます。また、エックス線検査やCT検査などの画像診断を行い、骨やその周辺組織などの状態を確認します。必要に応じて、聴力や中耳の検査、視力や眼瞼の状態、両眼視機能、角膜の検査、口腔内の検査なども行っていきます。なお、新生児期には、まずは気道の確保が重要です。睡眠時無呼吸などの呼吸障害がないかのチェックを行い、必要な場合は気管切開などの治療を進めます。
治療
年齢や症状などによって、治療内容は変わってきますが、治療は長期間になります。例えば、新生児期に呼吸障害がみられた場合は、経鼻チューブや経口挿管などで気管を確保することが重要となります。そのほか症状などに応じて、生後1才を過ぎた頃から口蓋裂の手術、小学校就学前から小下顎症に対する手術、小学校就学前から眼瞼裂斜下の手術、10歳以降に小耳症の手術、18歳以降に顔面・下顎の再手術などを行います。また、口腔内の問題に対しては、噛み合わせの治療、顔面手術前後の矯正治療などを行うこともあります。
予防/治療後の注意
短期間の治療や一度の手術で完治することはほとんどなく、年齢や症状に応じた経年的治療が必要となります。そのため、定期的に専門の医療機関を受診し、適切な治療や経過観察を行っていくことが大切です。
こちらの記事の監修医師
形成外科部長 小林 眞司 先生
山形大学医学部卒業後、横浜市立大学 形成外科入局。横浜市立大学救命救急センターなどでの勤務を経て、1997年より神奈川県立こども医療センターに勤務。2006-2007年 ハーバード大学マサチューセッツ総合病院形成外科リサーチフェローを経て、2008年神奈川県立こども医療センター形成外科科長、2010年より現職。専門は口唇口蓋裂、クルーゾン・アペール・ファイファー症候群などの頭蓋縫合早期癒合症、頭蓋顎顔面領域の疾患
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