
こちらの記事の監修医師
東京都済生会向島病院
脳神経内科部長 大野 英樹 先生
たんじゅんへるぺすのうえん単純ヘルペス脳炎
最終更新日:2021/12/27
概要
単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染や、免疫力低下による再活性化によって引き起こされる急性脳炎。重症化することが多く、発症すると死亡することもある。治療で一命は取り留めても、寝たきりや認知機能障害、記憶障害などの後遺症が残ることも多く、社会復帰できる患者は全体の半数程度にとどまる。日本では年間100万人に約3.5人に発症し、50~60代に多くみられる一方、新生児や小児がかかる場合もある。治療に着手した時点の意識障害が重症なほど予後は悪くなるので、できるだけ早期に治療することが重要だ。
原因
単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus type 1:HSV-1)や2型(herpes simplex virus type 2 :HSV-2)の初感染時または再活性化(一度治癒し休眠しているウイルスが再度活発になること)時に発症する。その病態は発症年齢によって大きく異なる。また、原因となるウイルスも年長児から成年にかけてはHSV-1がほとんどであるのに対し、新生児の場合はHSV-2由来の発症も多い。なお、HSVは世界的に広く浸透したウイルスで、感染経路はHSVによる口唇ヘルペスや皮疹を発症した患者の唾液や病変部との接触や、性器ヘルペスからの性的感染や母子感染によると考えられている。HSV-1の場合、6歳程度までに感染を受ける確率が高い一方、HSV-2は性感染症としての側面も有し、感染を受ける年齢は20代から30代と高めの年齢層であることも特徴だ。
症状
発症初期は発熱や頭痛、咳や鼻汁などの症状を見せるが、その数日後に意識障害やけいれん、幻覚、異常な言動などのさまざまな高次脳機能障害を引き起こす経過をたどるのが一般的な経過だ。しかし患者によっては、発症初期に発熱や頭痛がないなどの、典型的な経過をたどらない場合もある。母子感染などを除いてHSV(単純ヘルペスウイルス)は、主に鼻の粘膜や口腔内の感覚神経から脳内に侵入するが、脳の側頭葉や辺縁系などの部位を破壊するので、回復後も記憶障害や健忘症、失語症、人格変化、症候性てんかんなどの後遺障害が残るケースが非常に多い。
検査・診断
初めに血糖や意識、呼吸などの全身状態を確認し、頭部CTやMRI検査をできるだけ速やかに行う。髄液を採取してウイルスの有無を調べる検査も行うが、ショック症状や、何らかの原因で血が固まりにくくなる抗凝固系の異常を起こしている状態、呼吸不全などの場合は行えない。この疾患を疑った際は、診断が確定していなくても治療を行いつつ検査を進めていく。
治療
全身状態を保ちつつ、一刻も早い抗ウイルス薬の投与が必要となる。発病初期に近ければ近いほど効果が期待できるので、早期投与開始が望ましい。脳炎ではてんかんや脳浮腫などの合併症もおこるため、それに応じて「γグロブリン製剤」、「抗けいれん剤」、「副腎皮質ステロイド剤」、「浸透圧利尿剤」、「濃グリセリン」などの薬も治療に用いられる。
予防/治療後の注意
まずはウイルスに感染しないよう気をつけることが重要だ。ウイルスに感染した人の唾液や病変部などとの接触をできる限り避け、性交渉の際はコンドームをきちんと着用するなどの取り組みにより、感染リスクは下げることができる。

こちらの記事の監修医師
脳神経内科部長 大野 英樹 先生
脳神経内科を専門分野とし、脳卒中診療のスペシャリストであるとともに、末梢神経疾患にも精通。日本神経学会神経内科専門医、日本内科学会総合内科専門医。
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