蜷木 一人 副院長の独自取材記事
蜷木歯科医院
(北九州市八幡東区/八幡駅)
最終更新日:2022/12/13
JR鹿児島本線八幡駅のすぐそばにある「蜷木歯科医院」は、開業以来60年以上にわたり歯科診療を続けてきた。2020年4月には3代目となる蜷木一人(になぎ・かずと)副院長が同院へと戻り、訪問歯科や漢方を活用した外来と診療の幅を広げている。歯科医院としては「できるだけ歯を残す」治療をモットーとし、「虫歯1本にしても、なぜそうなったのかを食生活や生活リズムも含めて原因を追求し予防していくことが重要。歯の治療は削って修復しているに過ぎず、自分の歯に勝るものはない」と蜷木副院長は話す。患者とのコミュニケーションが好きで治療後に話し込んでしまうこともあるという蜷木副院長に、これまでのキャリアをはじめ、患者への思い、訪問歯科診療などについて詳しく話を聞いた。
(取材日2021年12月16日)
父と子の診療体制で患者のニーズに対応
先生は、小さな頃から歯科医師をめざしていたのでしょうか?
当院は祖父が開業してから60年以上、ここ八幡東区で歯科診療を続けてきました。私自身、小さな頃から祖父に当院に連れて来てもらっていたようで、物心がついた時には歯科医師になるのが夢になっていました。今振り返ってみると、祖父には「お前も歯科医師になるんだぞ」と刷り込む狙いもあったんだと思います。けれど当然遊びに来たタイミングでスタッフの皆さんとも仲良くなりますし、患者さんを治療する祖父や父の姿が印象的で、いつか自分もこうなりたいと自然に思うようになったのだと思います。そして2020年4月、私も3代目としてこちらに戻ってきました。
大学病院で総合診療を学ばれた後、こちらに戻られたそうですね。
そうですね。さまざまな患者さんがいらっしゃるところで技術や知識を身につけたいという希望がありましたから、大学卒業後は九州歯科大学病院で総合診療を学びました。特にここは初診の窓口というイメージではなく、実際に幅広い治療に取り組んでいたので、患者さん一人ひとりの治療プランを立てながら診療することができました。もともと当院を継ぎたいという気持ちもありましたし、臨床経験を積んで早く一人前になりたかったという面もあると思います。もちろん専門分野を極めたいという考え方もありますが、どちらかというと患者さんのさまざまなニーズに対応できることが重要だと考えていましたからね。
今は蜷木健院長と2人体制で診療にあたられていますが、いかがでしょうか?
父に比べればまだまだなので、迷う場面などでは一緒に考えてもらいながら治療にあたるようにしています。それに技術や医療機器は日々進歩していますが、先人の知恵にも良いものはたくさんありますから。そういった部分は吸収していきたいと思っています。また父は補綴科出身なので、院内でコアやインレーを鋳造でき、早ければ治療をした当日に補綴物をつけるまで治療を進められるというのも特徴。私も父の指導を受けながら鋳造を勉強していますよ。加えて当院の診療はインターネット予約が可能です。痛い時にすぐに診てもらえるように患者さんにとっても非常に重要な部分なので、2人だからこそインターネットを駆使した柔軟な対応も心がけています。
患者への説明を大切にメンテナンスの重要性を訴える
痛みなどで駆け込まれる患者さんが多いのですね。
八幡駅の近くという立地もあって、痛みや詰め物が取れたという患者さんが多くなります。もちろん痛みを取ることは大切ですが、最初にしっかりと検査を行い口腔内のことを理解してもらった上で処置するように心がけています。歯科は主訴だけを取り除けばいいというものではありませんから。年代としてはやはり長年続いている歯科医院なので高齢の方が多くなります。昔から来ていただいている患者さんは最後まで自分たちで診ていきたいという理由から、訪問歯科診療にも取り組むようになりました。
予防のためにメンテナンスでいらっしゃる方も増えているのでしょうか?
当院に来ていただいた患者さんは、治療後もメンテナンスのために通院いただいています。歯の治療は感染部分を削って、ほかのもので修復しているに過ぎません。自分の体にとっても、口腔内にとっても一番良いものは自分の天然の歯。できる限り抜かないことが大切です。インプラントや入れ歯など補綴治療で噛めるようにすることも必要ですが、そうならないためにメンテナンスに来ていただき、予防面でも力になりたいと思っています。中には歯科は痛くて怖いところと感じる人もいらっしゃいますが、痛みを感じてから治療すれば痛みを伴うのは当たり前。ですから痛くない時からメンテナンスに来ていれば、口腔内もさっぱりして環境も整い、あまり痛い思いをしなくて済みますよ。ただし自宅での口腔ケアも重要なので、スタッフにはブラッシングの仕方のほか、最新の歯科衛生情報なども患者さんに伝えるようお願いしています。
チェアサイドにはモニターがありますが、説明にも力を入れていると伺いました。
歯科診療は口の中のことなので自分では見ることができず、何をされているのかわからないという方が多いのも事実。そのためなぜ虫歯になってしまったのか、そしてどういう治療を行うのかを、模型やモニターを使って説明するようにしています。患者さんにはきちんと理解した上で帰ってもらうということが大事だと考えていますから。個人的に話すことが好きなので、治療が終わってからも5分、10分と話し込んでしまうのですが、そうした際に本音まで聞くことができるので、診療にも役立っていますよ。
訪問歯科や漢方など患者の要望に沿った治療を展開
訪問歯科診療は先生が戻ってから始められたそうですね。
以前勤めていた歯科医院が外来診療と訪問診療をしていましたから、その経験を生かしてスタートしたのですが、これからも力を入れていきたいことの一つです。訪問歯科診療では、入れ歯を作るにしても、義歯を作るにしても、それが患者さんにとっては最後の治療になるかもしれません。そういった意味ではどれだけ早く痛みを取ることができるか、どれだけ早く噛めるようにできるか、といった点が大事になります。食事は生活の楽しみでもありますし、きちんと食事をして口から栄養を取ることができれば体の健康にもつながります。だからこそ1日でも早く食べられるように、患者さんと一緒になって治療を進めています。
治療に漢方を活用しているのも特徴的です。
今、学びを深めているところです。西洋の薬は基本的にこの病気にはこの薬と決まっていますが、漢方は患者さんの話を聞きながら、生活環境や体のリズムを見て処方を行います。元が生薬なので体への負担も少ないですし、歯科にとっても漢方が生きるケースは多々あるのではないかと考えています。漢方に限らず、新しい情報は収集しながら患者さんに有用なものはどんどん取り入れていきたいですね。
最後に今後の展望や読者の方にメッセージをお願いします。
当院としては施設を拡充して、カウンセリングルームやメンテナンスフロアをつくり、もっと患者さんに寄り添える歯科医療を提供していきたいと思います。また、インプラント治療や矯正治療などのニーズにも応えられるようにしたいですね。もちろんスタッフも働きやすい環境をつくり、歯科医師だけではなく全員で良い歯科医院をめざしていきます。私たちは患者さんの要望を第一に考えた治療を心がけています。だからこそ言いたいことを言ってもらえるような環境をつくりながら、できる限り要望に沿った治療を提供していきたいという思いがあります。痛くない治療、苦痛じゃない治療というところにも配慮しながら、お互いに納得できる治療を模索していきましょう。