木山 貴陽 理事長の独自取材記事
きやまクリニック
(鹿児島市/谷山駅)
最終更新日:2025/06/20

JR指宿枕崎線の谷山駅から徒歩2分、鹿児島市電1系統の谷山駅から徒歩7分と、アクセスの良い立地にある「きやまクリニック」。長年この地域の医療を支えてきた浜田クリニックの院長の勇退に伴い、離島などのへき地医療にも従事し、研鑽を積んできた木山貴陽理事長が継承し、新規開業した。木山理事長がめざすのは、「何でも相談できるクリニック」。へき地医療などで培った総合力を強みに、内科から外科、生活習慣病まで幅広く対応する。さらに、訪問診療にも積極的に取り組み、地域医療に貢献している。診察の際はコミュニケーションを大切にし、患者に寄り添った診療を心がけるという木山理事長に、離島の診療所でのエピソードや注力している検査・治療などについて、幅広く聞いた。
(取材日2024年11月14日)
へき地医療の経験から総合的医療で地域医療をサポート
先生は、三島村と十島村の診療所で診察をされていたと伺いました。

私が卒業した自治医科大学は、地域医療を支える目的で全国の都道府県が共同して設立した大学です。毎年、各都道府県から2、3人ずつの学生が入学し、卒業後は出身県に戻り地域医療に従事することになっています。そのため、同大学では何か一つに突出したスペシャリストを育てるというよりも、総合的な医療を提供するための指導をしています。三島村と十島村の診療所で勤務をしていた当時は、三島村担当が1人、十島村の北側4島担当が1人、残りを1人で担当していました。それぞれの島での診療日は決まっていましたが、診療日以外でも何かあれば漁船で駆けつけたり、遠隔診療のようにモニターで症状を確認するなどして、その島の診療所の看護師に指示を出して対応したりしていました。
へき地医療を経験したことで、地域医療に対する思いがさらに深まったそうですね。
大学時代も地域医療にふれる機会は多かったのですが、自分が実際に携わるようになってへき地医療、地域医療の良さがわかりました。患者さんとの距離が近く、一住民としてその場所で過ごし、周りに溶け込みながらもドクターとしてしっかりと責任を持って診療する仕事です。一度、別の島への診察に行くためにフェリーに乗り込んですぐに、胸痛を訴えている方がいると看護師から連絡があったことがあります。心電図を取ってもらい確認すると心筋梗塞でした。すぐにドクターヘリを要請し、搬送をすることになりました。一人で診療をすることが多いので最初は不安ばかりでしたが、実際にやってみると地域医療の魅力をすごく感じますし、やって良かったなと思っています。
開業までの歩みとめざすクリニック像を教えてください。

へき地医療に携わり、患者さんとのふれあいが好きになりました。「最近の体調はどうですか」などと話しながら、その方が健康に長生きできるようにサポートする。そういった診療に、より魅力を感じるようになっていました。そんな時に継承のお話をいただき、開業しようと決心したのです。へき地医療での経験を生かして、内科から外科、生活習慣病など幅広い診療内容で総合的な診療を行っています。この総合力を強みにして「何でも相談できるクリニック」をめざしています。体調が悪いとき、何科へ行けば良いのかわからないときなど、皆さんが困ったときに相談してもらえる地域のクリニックでありたいですね。
訪問診療では患者の思いと家族への声かけを大切に
注力されている治療や検査はありますか?

内視鏡検査と訪問診療です。当院では上部・下部消化管の内視鏡検査を行っており、双方の同日検査にも応じています。また上部内視鏡に限りですが、検査が必要と判断した場合は、予約のない方でも空きがあれば対応可能です。例えば、おなかが痛い、黒色便が出たといった主訴でとても不安になっている方や、健康診断で要再検査と判断された方などは、柔軟に対応してなるべく早く検査できる体制を整えています。訪問診療については、ご高齢になって通院が難しい方たちにも医療を届けたいと、開業当時から行っています。患者さんとの距離が近く、「先生、待ってたよ」と、迎えてくださる方も多く、やりがいを感じます。クリニックに来られるときとは、患者さんの表情もまったく違うんですよ。クリニックで待っているだけでなく、必要としている患者さんの所へ自分から行きたいと思います。
内視鏡検査を行うことでどんなメリットがありますか?
日本人の死因のトップはがんです。内視鏡検査を行うことで、胃がんや大腸がんの早期発見につながり、早期治療に結びつけることができると思います。皆さん生活の中でさまざまなストレスを抱えていると想像しますが、胃や腸はストレスに弱く、潰瘍ができやすい臓器です。胃に症状が現れて来院し、すぐに検査ができれば患者さんにとって安心だと思います。検査には時間がかかると思われるかもしれませんが、上部消化管の場合は観察だけなら10分くらい、下部消化管の場合は30分くらいで終わります。前処置と検査後のリカバリーを含めても半日あれば十分でしょう。内視鏡検査でポリープが見つかった場合は、がんになる前の段階で処置することも望め、メリットが大きいです。
訪問診療では、どのようなことを大切にしていますか?

患者さんのお宅へ訪問した際には、ご家族への言葉がけも忘れないようにしています。ご家族が疲れているなと感じたときは、レスパイト入院やショートステイなどの情報を伝え、介護者も疲れず患者さんも気を使いすぎないような制度の提案をしています。緩和ケアにおいて最も大切にしているのは、患者さんの思いです。「したいことは全部言ってください」と、毎回お伝えして、なるべく実現できるようにしています。在宅医療の魅力は、制限が緩和されることでもあります。例えば、お酒が好きだった人は、匂いを嗅いでみたり、ちょっと舐めてみたり。可能な限りですが、患者さんの希望を実現しながら、より良い生活をめざしていきます。
患者に寄り添い、心と体の不調を取り除いていく
診療の際、先生が心がけていることを教えてください。

私がというよりクリニック全体として、患者さんとのコミュニケーションを大切にしています。看護師や事務スタッフも、私が言わなくても自ら実践してくれて頼りになります。初診の患者さんに対して、看護師がまず問診を行いますが、私が聞くことはほとんどないのではないかと思うくらいに細かくしっかり聞いてくれます。患者さんの気持ちに寄り添いながら、丁寧に話を聞く姿勢は、当院の特徴であり強みであると思います。体の不調は心の不調から来ることもあり、誰かと話すだけですっきり元気になることもありますよね。世間話の中に病気のヒントが隠れていることもあります。今後も「患者さんの話をしっかり聞き、コミュニケーションを大切にすること」を、スタッフみんなで心がけていきたいと思います。
すてきなスタッフの方々がそろっているのですね。
新しいスタッフを採用したとき用に、教える順番と教え方をまとめたカリキュラムを、既存スタッフが自主的に作ってくれました。当院には向上心があるスタッフがそろっていて、外部や院内の勉強会にも、積極的に参加してくれます。特に、訪問診療における緩和ケアは、病院で患者さんを看取るのとはまったく違うので、経験の少ないスタッフにはそういったところを重点的に勉強してもらっています。院内の勉強会では、特定の科の経験しかないスタッフに、さまざまな分野の診療を行う私が症例を共有します。経験が少ないスタッフにいつも伝えているのは、疑問があれば迷わず聞いてほしいということ。そのスタッフの疑問を聞いて、他のスタッフにも共有するべきと思う事項があれば、全体に向けて発信することも心がけています。
最後に、今後の展望や読者の方へのメッセージをお願いします。

訪問診療や検査を希望する方が増え、現状の人数では対応することが厳しくなってきたため、常勤の医師の増員を検討しています。検査は私1人で対応しているため、数ヵ月先まで予約がいっぱいのものもあります。しかし、それでは患者さんが困ってしまうため、早急に対処しなければと考えているのです。訪問診療もお断りしなければならないことがあるため、そちらにももっと応えられる体制を整えたいです。また、外来に関しては、どんな病気も診る総合的な診療を行うのが当院の特徴です。体調が悪い時の入り口として「きやまクリニックに相談してみよう」と、皆さんに頼ってもらえたらうれしいです。