萬年 孝太郎 院長の独自取材記事
萬年内科
(久留米市/大溝駅)
最終更新日:2024/03/15
久留米市城島町で開業している「萬年内科」は、現在の萬年孝太郎院長で10代目となる歴史あるクリニックだ。始まりは柳川の立花藩の藩医で、5代目の頃に現在の地に移住したと伝えられている。萬年院長は日本内科学会総合内科専門医として多角的な視点で、また消化器領域の専門性を生かして診療にあたっている。午後休診である水曜日は、大川市の高木病院で内視鏡診療にも携わり、常に最新の知見の習得を心がけている。「かかりつけ患者さんの多くはご高齢の方で、何らかの生活習慣病を持っておられます。生活習慣病はご自分の取り組みで改善が図れますから、健康への意識を高めていただくことを常に念頭に置き診療にあたっています」と話す萬年院長に、普段の診療で心がけていることや自身の減量経験、めざすクリニックの姿などについて話を聞いた。
(取材日2023年9月16日)
「どうやったら健康になれるか」を一緒に考えていく
地域の患者さんの「健康意識」を高めることに注力されているそうですね。
この辺りは穏やかな田舎といった風情ですし、生活習慣病を放っておくことのリスクをご存じでないご高齢の方がいまだに多いのも事実です。以前、農業の繁忙期には精を出すために朝食からどんぶりいっぱいの白米を、発汗対策で梅干しを何個も食べたり、甘味が少ないみかんをビタミン摂取のためにたくさん食べられている方もいらっしゃいましたが、医学的に見るとやはり糖分、塩分の過剰です。またこのような食事自体が高血圧や高脂血症、糖尿病をはじめとした生活習慣病の発症につながっていることを意識されていない方もまだまだ多くいらっしゃいます。以前は成人病と呼ばれていた影響か、「高血圧の薬を飲み始めたら一生飲み続けなければならない」など、誤った知識をお持ちの方も多いからこそ、正しい知識を得て改善へと向かってほしいと強く思い、日々診察にあたっています。
患者さんはご高齢の方が多いのですね。
働き世代の方々が職場健診での異常で精密検査などにいらっしゃることもありますが、当院に定期受診されているのは、主にご高齢の方、特に生活習慣病を患っている方々です。前述したような高血圧、高脂血症、糖尿病はその代表格。そしてこれらは薬物治療の介入前だけでなく、薬物治療中でも患者さんの意識が変わらなければ改善が見込めないものです。逆にいうと、健康への意識をもって生活に取り組めば、生活習慣病の改善は大いに期待できます。
どのように患者さんに気づいていただくのでしょうか?
生活習慣病の早期発見においては、定期的な健康診断が非常に有用と考えています。「どうもないから大丈夫」とおっしゃる方もおられますが、生活習慣病での特徴は自覚症状がないことであり、症状を認めた時には重症化していることが多いのです。まずはご自分の「健康の程度」がどれくらいなのかを測るために定期的に健康診断を受け、ご自分の健康状態を自覚していただくことが重要だと考えています。もちろん健康診断は義務ではないですが、健康と向き合う機会づくりには非常に有用です。これから生活習慣病とどう付き合っていくべきか、患者さん一人ひとりに対しての具体的なアドバイスにつながります。
自身の減量経験を踏まえ、実践的な方法をアドバイス
診療で心がけていることは何でしょうか?
病気だけを診るのではなく、患者さんの健康そのものを注視すること。そして当院の多くの患者さんが生活習慣病を患っていることから、食事と運動の大切さを伝えることです。以前は「先生にすべてお任せします」と言われるような医師になりたいと思っていた時期もありましたが、生活習慣病においては、患者さんの努力次第で改善が期待できます。ですから生活習慣病では、私はコーチで、患者さんが選手であり主役、という意識で治療に臨んでいます。実は私自身もこの1年で30キロ近くのダイエットに成功したんです。以前は大好きなお酒に加え、自家製酵母で作るパンづくりを趣味として楽しんでいた時期もありましたが、それもあって太ってしまったんです(笑)。
先生も減量経験者なのですね。患者さんも相談しやすいのでは?
医学的な知識をもとに、どうすればできる限り筋肉を落とさず、脂肪を減量できるかを考えながら毎日の食事や運動を組み立てていきました。具体的には、1日分のタンパク質、炭水化物、脂質に加え、水分、塩分の摂取量を詳細に記録し、うまく減量できないときには振り返り対策を講じてきました。しかし患者さんでそこまでできる方はあまりいらっしゃらないため、「食べ物を選ぶときに迷ったら、カロリーを見て低いほうを選びましょう。食欲で選ぶのではなく、体にいいと思う食材選びを」とシンプルな方法を伝えています。無理のない減量ペースとして、1週間に0.5kg、1ヵ月で2kgほどを提案しています。減量がうまくいかない患者さんもいらっしゃると思いますが、スランプ時には食事や運動の状況を聴取し個々に合ったプランを提供します。
運動について、具体的にどのようなアドバイスをしていますか?
ウォーキングなどの有酸素運動は健康づくりにとても適していますが、減量をするためには、ある程度の筋力トレーニングは欠かせません。しかし城島町からはジムに行くにも近所にはありませんし、家庭でできる運動をお伝えしています。例えば、テレビを見ながら500mlや350mlのペットボトルを持って20回ほど腕のトレーニング。最初は少量の水分で負荷を軽くしてもいいですし、慣れてきたら砂などを入れて重くすることもできます。ダンベルなどをわざわざ買わなくても筋力トレーニングは家庭でも可能ですし、そのくらいの負荷であれば関節や筋肉を傷めることもなくトレーニングが可能です。大切なことは、無理のない程度で継続していくこと。オーバーワークしないために、どんな運動ならば関節や筋肉を傷めないのかといった運動の安全な線引きについては、個々に応じて詳しくお伝えするよう心がけています。
些細な健康相談なども気軽に話せるクリニックをめざす
「榎の木(えんのき)だより」も毎月発行されていますね。
季節や患者さんとの会話からヒントを得ながら、「糖尿病」「認知症」「医療費」「後見人制度」など、幅広くテーマを決めてA4用紙1枚にわかりやすくまとめたものを、月に1度発行しています。待合室に置いていると気になる方は持ち帰っていただけますし、定期的に読んでくださっている方もいるようです。それに私も「このトピックスは減っているから、患者さんも気になっているんだな」と気づき、患者さんのニーズを知るのにも役立っています。また当クリニック前の県道には看板を設置し、気が向けばひとことつぶやき、通りがかりの方の興味を引くようにしています。最近では「貯金もいいけど、貯筋もね」なんて感じで。そういう「健康への興味・動機づけ」の工夫は今後も続けていくつもりです。
訪問診療も行っているそうですね。
以前は定期通院できていたものの、年とともに通院が困難になられる方もおられますので、そういう方のご自宅へ伺っています。診療の際に家の様子を垣間見れるのは患者さんにとってもメリットであると感じています。例えば、「この距離ならトイレは一人で行ける」、「この家の構造だと歩きにくい」など、生活状況を確認した上での相談にも乗れますし、患者さんご本人だけでなくご家族からも「実は認知症が出てきたのではないかと気になっていて……」などと直接ご相談いただき、お話しすることもできます。その他では、介護保険サービスの質問や相談を受け、ケアマネジャーをはじめとした多職種での連携強化につながることもあります。訪問診療は外来と比べてできることは限られますが、その中でも何かできることを見つける、という姿勢で訪問診療を続けていくつもりです。
読者へのメッセージをお願いします。
些細なことでも構いません。健康面で気になることは、ぜひ気軽に相談にいらしてください。健康相談も地域のかかりつけ医の仕事の一つです。健康診断で精密検査などという明確な理由がなくてもまったく問題ありません。将来への不安に関してもお気軽にご相談ください。もちろん患者さんご本人だけでなく「親が認知症かどうか気になって……」などのご家族の相談にも応じています。肩肘張らず、皆さんのいろいろなお話を聞かせてくださいね。