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ニノ坂 建史 院長の独自取材記事

にのさかクリニック

(福岡市早良区/野芥駅)

最終更新日:2023/02/28

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福岡市営地下鉄七隈線・野芥駅からバス道路沿いに1kmほど南へ行くと、木の温かみを感じるクリニックが見えてくる。「にのさかクリニック」は、二ノ坂保喜理事長が1996年に開院。当初から、外来・在宅診療及び在宅での看取りまでを一貫して行ってきた。診療だけでなく、駐車場でのチャリティーバザー、2階ホールでのコンサート、遺族会、デイホスピス、地域の人たちを対象とした健康教室など、さまざまな地域活動を展開している。現在は、二ノ坂建史院長の他複数の医師とともに、24時間365日対応可能な“かかりつけ医体制”を維持している。今回は、救命救急医療を経て、救えない命にも向き合い続けた二ノ坂院長に、外来・在宅診療の体制と、生きることをさいごまで支える在宅医療について話を聞いた。

(取材日2020年7月15日/情報更新日2021年10月26日)

救急の経験が在宅でこそ生かされる

先生のご来歴をお聞かせください。

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大学卒業後、福岡徳洲会病院や母校山口大学病院などで勤務し、ERや救命救急センター、ICUに従事しました。いずれ父のクリニックを継ぐつもりでしたので、地域医療でも役立つ武器として、消化器内視鏡も学びました。また、縁あって、鹿児島県・沖永良部島での診療にも長く定期的に関わるチャンスを頂き、そこで、救急と内視鏡の経験を存分に生かすことができました。離島医療は、私にとって大きな成長の場だったと思います。にのさかクリニックには、2013年から非常勤として週1回勤務し始め、2017年から常勤、同時に副院長となり、2021年10月、院長となりました。地域医療・在宅医療は、働く医師にとっても非常に魅力的な領域で、まだまだ深く学び、発展させていきたいと思っています。

救急医療から在宅医療という経歴は、珍しいのではないでしょうか?

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今はそう多くないかもしれませんが、おそらくこれから増えてくると思います。救急医療では、命を救う努力の一方で、救えない命にも必ず出会います。あるいは、救命はできたけど、その後の生活が大きく変わる人もいます。どの領域もそうかもしれませんが、救急は特にそれが多いですよね。それから、救急医療というのは、病院や地域によって、求められるものがさまざまなんです。社会によって在り方が変わるんですね。離島を含め、与えられた環境に順応することを当たり前にやってきたので、患者さんによって異なる「家」という環境に合わせた柔軟な動きをしやすいのかもしれません。実際にこの仕事をしていて、在宅の場での素早い状況判断や病院との連携、わかりやすい説明、家族ケアなどは、救急の経験がおのずと生かされていると感じます。

外来と在宅を両立してこそ、地域の支えになる

外来診療と在宅診療、どちらに注力しているのでしょうか?

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仕事の量や費やす時間としては在宅が大きくなりますが、力の入れ方としては同等です。“地域のかかりつけ医”としては、どちらか一方だけではなく、常に両立していることが重要だと考えています。例えば、長く外来通院していた方が、年齢を重ね、あるいは病気の進行によって、通院できなくなった場合、そのまま私たちが在宅で診れば良いわけです。また、在宅診療の依頼ということで病院から紹介された患者さんでも、歩いて受診できる方は、できるだけ外来に来てもらうことができます。患者さん自身も、そう希望されることが多いです。実際、結果的に亡くなる3日前まで、ふらふらになりながらも家族に支えられて外来に来られた方もいました。体が弱っていく患者さんにとって、歩いて病院に行くということは、私たちが想像する以上に大きなモチベーションになっている気がします。いずれも、外来も在宅も両方やっているからこそ提供できることだと思います。

在宅診療の概要を教えてください。

基本的には、「1人で通院するのが困難な人」が対象となります。年齢や病気の種類に制限はありません。内服薬による治療はもちろん、点滴や注射も可能です。他にも、超音波検査、輸血、傷の縫合、カテーテル類の管理もできますし、針を刺して胸水や腹水を抜くこともあります。病院とまったく同じではありませんが、在宅でも多くの処置が可能です。また、一度病院を退院して家に戻ると、あとは在宅だけ、と誤解されがちですが、急場の治療で改善が見込める場合には入院を依頼することもありますし、本人の思いや家族の状況によっては、ホスピス病棟などへの入院を選択することもあります。在宅療養が長期になる場合には、介護する家族の休息を主目的とした一時的な「レスパイト入院」という選択もあります。「病院から在宅へ」の一方向でなく、「在宅から病院、また在宅へ」という双方向の連携が重要です。

にのさかクリニックが在宅診療を提供する体制は?

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基本的に、医師と看護師がペアとなり、各平日3~5部隊で、それぞれ患者さん宅を訪問します。夜間・休日の臨時・緊急の要請にも対応します。複数の医療スタッフで診療しているので、毎朝の申し送りに加え、毎週水曜にはカンファレンスを行い、情報共有を徹底しています。2018年からは、電子カルテをクラウド型に刷新し、どこにいても各自のモバイルパソコンやタブレットなどでリアルタイムの情報共有ができるようになりました。院外を駆け回る私たちの仕事としては、とてもやりやすくなりました。

1つのクリニックで複数の医師体制を維持するのは大変そうですね?

そうですね、超大変です(笑)。でも、地域社会のニーズに応えるためには、個人としての“かかりつけ医”ではなく、複数の医師で“かかりつけ医体制”を維持する必要があると思います。1人でできる仕事ではないですし、逆に、1人でできる範囲だけ、と割りきってしまうのは簡単ですが……。最近は、若手~中堅の働き盛りの世代にも在宅医療に志を持つ医師が増えていて、有難いことに、当院にもそのような医師が複数集まっています。そういう時代が来ている! と思うと、ワクワクしますね。

在宅医療の正しい理解のために、発信していきたい

在宅でのお看取りも多くやられているのでしょうか?

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在宅医療をちゃんとやっていれば、必然的に看取りはそれなりの数になります。ただ、必ずしも「在宅看取り」が目標だとは思っていません。家は“看取る場所”ではなく、“生きる場所”ですからね。家で生きることをさいごまで支える、それを積み重ねた先に“良い看取り”がある、というイメージでしょうか。むしろ、「在宅医療といえば自宅での看取り」という認識が強すぎると、特に家族にとっては、プレッシャーになってしまうことがあります。期間が長くなれば尚更です。家族の心身の負担をケアすることも重要なので、状況に応じて、入院も検討します。身体的なケアを病院に委ねることで、家族が精神的サポートに専念でき、病院での良い看取りにつながったケースもあります。

在宅だと、家族の存在も大きな力になりそうですね。

実際のケアの担い手としてはもちろんですが、広い意味で、支える力、受け止める力、というんでしょうか。家族の力はとても大きいです。そして在宅ケアを経て、家族も大きく成長するように思います。例えば、言い方は悪いですが、初めは不安ばかりで、ちょっと頼りなくて、在宅でやっていけるかな? とこちらが心配するような家族でも、いつの間にか、肝が据わっていくというか、とても頼もしくなっていくんですよね。これには良い意味で驚かされますし、感動さえ覚えます。看ること、看取ることにおいて、家族が本能的に持っている力は、私たちが想像する以上に大きいですね。

一般的にも、在宅医療のことがよく知られるようになってきたと思います。時代による変化はありますか?

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確かに、在宅医療の概念が、一般にも、そして病院側にも浸透しつつあると思います。在宅医療のことがあまり知られていない頃には、「こんな状態で家に帰れるわけがない」と判断されていた方でも、在宅医療が周知された今は、「この状態なら家に帰してあげよう」と認識されるようになり、病院の地域連携室から、当院のような在宅クリニックにつないでくれる動きが高まっています。ただ、それでもまだ十分とは言えません。ぎりぎりの状態になって在宅に紹介されることや、患者さん自身やご家族が困り果て、インターネットなどで当院を見つけて、すがる思いで直接依頼して来られるケースもあり、もっと早い段階で在宅につないでくれていれば……と苦い思いをすることもあります。一般の方にも、病院の医療者にも、在宅医療について正しく知ってもらうために、社会に向けて発信することも、私たちの使命だと思っています。

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