阿南 沙織 院長の独自取材記事
阿南クリニック
(福岡市西区/姪浜駅)
最終更新日:2026/06/25
愛宕浜4丁目バス停そば、閑静な住宅街マリナタウンの一角にある「阿南クリニック」。エントランスには色とりどりの花が咲く鉢植えが置かれ、来院する患者の心を和ませる。緩やかに弧を描く窓から陽光が注ぐ待合室や、広い診察室も、ほっと安心できるような空間だ。阿南沙織院長は、ゆくゆくは「町のお医者さん」になりたかったと、勤務医を経て、2018年に父である前院長の後を継いだ。「一方通行では治療はうまくいかない。一緒に治療していくという姿勢が大切なんです」と、歯切れよく話す姿からは、患者に敬意を払い、一人ひとりの生活背景に寄り添いたいという意志が感じられた。そんな阿南院長に、地域医療にかける思いやめざす医師像などについて話を聞いた。
(取材日2021年2月25日)
街の発展とともに歩んできたホームドクター
院長に就任されるまでの経緯を教えてください。

当院は、1993年に父が開業しました。小学生だった私が、クリニック建設の地鎮祭に出席した写真が残っているんですよ。当時は、自分が医師になってこのクリニックを継ぐなんて思っていませんでしたが(笑)。大学は久留米大学医学部に進学し、卒業後は九州大学病院の循環器内科に入局しました。まず内科か外科かという選択肢で、内科のほうが自分に向いていると思いました。というのも、内科のほうが患者さんと長いスパンで関われるからです。50代くらいになったら「町のお医者さん」をしたいなとも思っていて、それならニーズが高いのは内科だろうというのもありました。内科の中でも一番興味があったのが、生命の要である心臓系統でした。大分県立病院や北九州市立医療センターの循環器内科でも勤務医として働いておりましたが、2018年3月に父が亡くなったのです。それで、後を継ぐことにしました。
こちらで開業した理由はお聞きになっていますか。
父は、勤務医をしていた頃からずっと開業医になりたいと話していたんです。ただ、父は大分県出身だったので、場所に対するこだわりはありませんでした。そんな時、たまたま母がこの土地を見つけたんです。私が小学校の遠足で能古島に行ったため、能古渡船場まで迎えにきたときでした。まだ埋め立てをしている途中で、何も建っていない状態でしたが、いずれ発展していくだろうと考え、ここに決めたらしいです。開業した当初は、家がほとんどなく、目の前の道路もバスが1時間に1本しかないような閑散とした通りでした。それがいつの間にか、交通量が増え、マンションも建ち、という感じですね。
大規模病院の勤務医から院長に転身して、何か違いを感じていらっしゃいますか?

この人とこの人が友達とか、○○さんの子どもとか、そういうつながりが本当に多いんです。カルテにそういう家族関係や友人関係を記載するようになったのが、開業医になってからの一番の変化でしょうか。当院に来られた方は生涯診るつもりで接するという気持ちが強くなりました。たとえ軽い症状であっても、原因は何か、あらゆる可能性を考えるようにしています。また、重い症状が発覚して大きな病院を紹介するときも、家族がお見舞いに行ける場所にあるかどうかなど、患者さんの生活背景も考慮してあげることを大切にしています。
患者のちょっとした変化も見逃さない診療を
前院長の後を継ぐときに重視したことは何ですか?

30年近く父が診療してきましたから、長く通っている方が多いんですね。ずっとかかりつけで通っていたのに、先生が変わって大丈夫だろうかと、患者さんも不安だったと思います。ですから、基本的には、同じやり方を踏襲するようにしました。父は、患者さんの情報を、治療に直接関係ないことも含めてパソコンに残していたんです。2018年4月1日、院長としてここで診察を始めたときは、その父のパソコンを私のデスクに置いて診察をするようにしていました。そして、患者さんに対して、「父はこんなことを書いていましたよ」とお伝えすることによって、きちんと引き継ぎがされていると患者さんも安心されると思ったのです。
来られる患者さんはどのような方が多いですか?
年齢は40代以降の方が多いですね。100歳を超えて、ご自分で歩いて通院される方もいらっしゃるんですよ。それから、祖父母やご両親がこちらに通院しているからと、若い世代の患者さんも来院されます。症状で言えば、「最近ここがちょっと変なんだよね」ということで来られる方が多いです。訴える部分は、おなかや胸、頭、手足、さまざまですが。それから、メンタル的な疾患を抱えている方、心臓のステントを入れたので今後かかりつけ医として診てほしいという方も来られます。健康診断で異常を指摘されたので検査をしたいという方もよくいらっしゃいます。40代という比較的若い世代でも、がんが疑われる場合もあるので、その場合はすぐに内視鏡検査を受けたほうがいいとお伝えするようにしています。
何か変だなと思ったら、早期に医療機関にかかることが大切なんですね。

そうですね。以前、足がむくむという症状を訴えられた患者さんには、むくみの原因となる疾患を探るために血液検査をしました。同時に聴診と血圧測定もしてみると、血圧が高めなのが気になりました。私は、どんな症状の患者さんであれ、最初に聴診と血圧を診るようにしているんです。次に血液検査の結果説明の際に改めて血圧を測ると、血圧が非常に高い状態になっていました。そこで、エコーを当ててみると心臓の動きがかなり悪い状態でしたので、検査をしてみて良かったと思いました。当院でも患者さんの過去のデータと比較することで病気の兆候に気づきやすいことが、かかりつけ医として長く患者さんを診ていく強みでしょうか。表情や声色なども含めて、患者さんのちょっとした変化も見逃さないことが私の務めです。
専門分野以外の医療の研鑽も深め、適切な治療の提案を
患者さんと接するときに大切にしていることはどんなことですか?

まず患者さん自身がどうしたいのかを知ることです。よく患者さんにお伝えするのが、異常な所見があるからといって病的なわけではない、病的だからといって絶対に治療するべきだとは限らないということです。まず、病的なものと病的でないものの見極めをします。そして、これは病的で治療をしたほうがいいと判断したときに、医療者としては当然、治療方法の選択肢を提示します。しかし一方で、大がかりな治療はしたくないとか、逆に徹底的に治したいとか、患者さんの考えもそれぞれあるわけです。患者さんのニーズに応えるというのは大事にしています。
患者さんと医師双方が、納得した上で治療に入るのですね。
薬一つとっても、患者さんと話し合いをしなければなりません。例えば、症状を悪化させないためには長期にわたって服用を続けることが望ましい薬があるんですね。けれど、患者さんからすると、金銭的問題や、薬を飲み続ける負担もあるでしょう。ですから、勧めはするけれど、頭ごなしに「こうしなさい」とは言いません。一方通行では治療は進まないからです。患者さんに敬意をもって接し、治療の必要性について理解してもらうこと、そして一緒に治療していくという姿勢を大切にしています。とはいえ、患者さんのことを思うあまり、つい強めに言ってしまうこともあります。そんなときは開業時から勤務している看護師長が、患者さんのフォローをしてくれるのでありがたいですね。受付も含めて、長年同じスタッフが患者さんを見守っているという安心感が、当院の特徴だと思います。
今後どのようなかかりつけ医をめざされていますか。

どの分野の医療も常に新しくなっていくので、アンテナを張って追っていかなければなりません。当院には、標榜科目と関係なくさまざまな症状の患者さんがおみえになります。ですから、各分野の先進的な医療について具体的に知っておかないと、適切な医療機関につなげることができないのです。そして、その中で当院でもできる治療があれば、積極的に取り入れていきたいと思います。当院の特徴として、特別な治療を施さなくても、笑顔で帰っていかれる方が多いことがあります。それは、父が開業の際にクリニックの雰囲気づくりにこだわったことも理由の一つだと思います。日当たりのいい待合室に、広くて明るい診察室、それに、気軽に話せるスタッフたち。こうした財産を大切にし、今後もかかりつけ医として地域のお役に立ちたいと思います。

