不妊治療の成功を支える培養部
その徹底した管理と知られざる努力
アイブイエフ詠田クリニック
(福岡市中央区/天神駅)
最終更新日:2025/04/07


- 保険診療
高度生殖補助医療として知られている体外受精や顕微授精に深く関わる培養部。そんな重要な役割を担っていながらも、患者と接する機会はなく、フォーカスされることが少ない部門だけに、自分たちの受精卵がどのように見守られ、成長していくのか気になる人も多いのではないだろうか。約25年にわたり不妊治療を専門に診療を行ってきた「アイブイエフ詠田クリニック」。同院の培養室で指揮を執る胚培養部長兼副院長の泊博幸(とまり・ひろゆき)さんは、全国でも貴重な畜産学分野と医学分野の博士号を持つ、胚培養分野における専門家だ。卵子や精子、受精卵の声なき声を聴き、日々小さな小さな命を大切に育む泊副院長に、同院の培養室ならではの特徴や取り組み、普段聞くことができない培養士たちの想いを聞くことができた。
(取材日2025年3月13日)
目次
不妊治療の成功を支える縁の下の力持ち、徹底した管理で受精卵の成長を見守る培養部の弛まぬ努力
- Q不妊治療において培養部はどのような役割を担っているのですか?
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A
▲胚一つ一つの特徴に合わせ、個別凍結を行う
当院では妊娠へ導くために、「ホルモン」「卵巣」「着床」「培養」と、4つの環境構築を治療コンセプトに掲げています。その中で、卵巣から採取した卵子を体内と限りなく同じ環境に近づけた体外で育てることが培養部の役割。培養士の技術、培養室の設計、胚培養に使用する器具、胚を保存する培養液、培養器の温度や気相、これらの培養環境を常に一定の理想的な状態で持続することが、体外受精治療の成功につながる重要な鍵となります。つまり、医師が患者さんを診るように、私たち培養士は精子、卵子、受精卵を診るのが仕事。患者さんと直接お会いすることはありませんが、お預かりした受精卵を大切に、そして徹底的に管理していきます。
- Q培養部の特徴についても教えてください。
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A
▲一般手術室以上の清浄度を保つ培養室
業務を円滑に進めるために、培養部は、培養士、情報管理の専門家であるラボコーディネーターで構成し、業務を細分化させています。その背景にあるのは、全国的な培養士の不足。まだまだ人数の少ない職種ですので、どのクリニックも培養士の確保に苦慮している中、いかに効率良く胚培養業務を進められるかを考慮した結果、ラボコーディネーターという職種を当院独自に考え、13年ほど前に導入しました。培養部で行ったすべての情報管理を担ってくれるスタッフがいることで、培養士は技術面に集中して業務を進められます。これは当院ならではの大きな特徴だといえるでしょう。
- Q胚培養の成功率を高めるために取り組まれていることとは?
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A
▲培養環境を、常に一定の理想的な状態で持続することが重要
科学的根拠に基づいた培養環境と技術の構築です。私たちがやるべきことは、「確実な技術の提供」と「最適な培養環境の提供」。しかしながら、まだ歴史が浅く解明されていないことが多い分野ですので、確立されていることは一つもありません。そのため、世界中から出てくる新しい情報をインプットし最適化していくことが重要。技術面においても、一人ひとりのスキルを毎月評価しながら、不足していると感じた場合は再教育プログラムの実施など技術力の向上を図り、患者さんが不利益を被らないよう、磨き抜かれた技術を提供できる人のみ臨床に携わることができるシステムを採用。これらの取り組みが胚培養の成功率向上につながると考えています。
- Qでは、妊娠率向上における胚選びの評価基準は何でしょう。
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A
▲ダブルチェックや培養に伴う情報の記録などを確実に実施する
保険適用には回数制限がありますので、1回の胚移植で妊娠率を高めるために着床の準備が整った胚盤胞での移植を基本に、そのグレードを見極めるガードナー分類を採用。当院では、胚盤胞に至るまでの分割スピードや形態における研究にも注力してきましたので、胚盤胞に至るまでのさまざまな評価も加えた上で選択をします。私たちの責務は、培養の環境、機械の管理、人の技術、そのすべての質を上げていくこと。そのため、培養液を入れる容器であるディッシュにしても、使用前に都度不純物が混入していないか、傷がないかなど一つ一つ顕微鏡で確認し、問題ないと判断したものだけを使用。このように、すべてにおいて徹底した管理を行っています。
- Qこちらの培養部の雰囲気や魅力について教えてください。
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A
▲医師・培養士・ラボコーディネーターで連携し患者を支える
培養、受精卵、どれに対しても真っすぐな目で見ている人が多いことですね。どんな状況でも最善を尽くし、受精卵が順調に育つための努力を惜しまない熱意に満ちた空間です。というのも、送り出した受精卵が子宮内に着床できたかどうか、パソコン上でリアルタイムに見ることができますので、培養部も最後まで見守っています。培養士それぞれの想いがあると思いますが、私たちは受精卵をいつも見ていますので、ご夫婦にお子さんが授かってほしいというより、大切に見守ってきたすべての受精卵たちが赤ちゃんになってほしいという想いが強いんですよね。それは患者さんの想いとも一致する部分だと思いますので、モチベーションにもなります。