嘉村 駿佑 副院長の独自取材記事
嘉村産婦人科医院
(福岡市博多区/南福岡駅)
最終更新日:2025/05/19

1957年の開院以来、長年地域の周産期医療に貢献してきた「嘉村産婦人科医院」。レンガ造りの建物に一歩足を踏み入れると、クラシックホテルを思わせる優美な待合室が広がっており、花の飾りも訪れる妊産婦の心を和ませている。嘉村駿佑副院長は、国立成育医療研究センター、九州大学病院などで研鑽を積んだ、産婦人科・周産期医療を専門とする医師。父の嘉村憲純院長を含む医師5人体制で、周産期のより良い生活の実現のために診療にあたっている。設備も陣痛室、分娩室、回復室が一体となったLDRの個室、4Dエコーなどを備え、専門知識を持つ助産師や看護師が在籍するなど、母子の身体的・精神的な安心をさまざまな面からサポートするのが同院の特徴だ。インタビューでは嘉村副院長に、診療にかける思いを語ってもらった。
(取材日2025年2月5日)
3代続く産科に特化した産婦人科医院
歴史のある産婦人科医院と伺っています。院内はとても居心地の良い空間ですね。

当院は1957年に祖父が開院した産婦人科で、産科に特化したクリニックとして長年地域の周産期医療を担ってきました。今の建物は2001年に現院長である父が建て替えたもので、当院が何年たっても色褪せない存在であるようにと意識して作ったようです。外来のフロアは全面大理石で、リラックスできるように大きなソファーや、花の飾りも置いています。清潔感を保ち続けるために、メンテナンスもしているんですよ。建った当時の患者さまが年を重ねられて、今度はお子さまの出産の付き添いで来られた時、「ここは変わらないですね」と安心したようにおっしゃられたこともありました。私が診療に加わったのは2023年のことで、クリニックの歴史に比べれば日が浅いですが、このクリニックと同様に患者さまに安心感を与えられる存在でいられるように努めたいです。
クリニックの診療方針について教えてください。
患者さまに寄り添う「患者さまファースト」を医師だけでなく、スタッフ全員が心がけています。出産は、新たにご家族が増えるという患者さまの人生の中でも大きな出来事の一つです。だからこそ「たくさん来る患者さま」の1人としてではなく、お一人お一人に親身に寄り添った対応をすべきだと考えているんです。そのために毎日朝礼をしていて、患者さまのお体の状態や、ご様子などについて情報共有をしています。スタッフ皆で一丸となって対応していくためには欠かせない時間です。
充実した入院食をはじめ、院内でのイベントなど多彩な取り組みをされていますね。

当院に入院する患者さまには、慌ただしい日常を忘れてこのひと時を過ごしてほしいという想いがあります。入院食とはいっても、毎日の食事は楽しみでもあると思うので、四季折々の旬の食材を生かし、栄養面はもちろん季節メニューや食器にもこだわっています。会食やイベントにご活用いただければと、院内にレストランも備えていますよ。また、入院中に赤ちゃんが使うおくるみは、肌触りの良い品質のものを選んだり、患者さまが集うクリスマス会では、クリスマスの日に産まれた赤ちゃんにプレゼントを渡したりするなど、少しでも楽しく、そして快適に過ごしていただけるようさまざまな取り組みを行っています。入院中の出来事が、患者さまの後の人生においても宝物のような記憶になればという気持ちで、何事にも心を尽くしているんです。
厳密な管理下で、ニーズの高まる無痛分娩に注力
副院長にご就任されるまでの先生のご経歴を教えてください。

久留米大学医学部を卒業後、福岡赤十字病院での研修を終えて九州大学病院の産婦人科に入局しました。その後、JCHO九州病院や福岡市立こども病院などに勤務。さらに東京都の国立成育医療研究センター、九州大学病院の総合周産期母子医療センターで研鑽を積み、2023年4月に当院の副院長に就任しました。専門は産婦人科と周産期で、日本産科婦人科学会産婦人科専門医でもあります。子どもの頃から医療が身近にある環境で育ち、家業を継承したいと思っていましたから、医師になり、産婦人科を専門に選んだのは、私にとって自然なことでした。
副院長にご就任されてから特に注力されていることはありますか?
父の代から続く「患者さまファースト」のモットーは大切にしながら、最近の患者さまのニーズに沿った医療の提供の充実を図っています。例えば、妊娠期間の不安を取り除くサポートをするために母親教室など各種教室を開催する取り組みも、その一環ですね。また、特に無痛分娩は希望する患者さまが増加傾向にあり、当院でも力を入れているところです。何より母子の安全が第一ですから、無痛分娩のプロトコルも作成しました。効果的かつ安全な無痛分娩を実施するための手順書のようなものです。さらに、毎月1回、実施した無痛分娩について振り返りを行い、より質の高い医療を提供できるよう心がけています。
こちらの無痛分娩の特徴を教えてください。

当院の無痛分娩は硬膜外麻酔を用いて実施しています。私は国立成育医療研究センターで多くの産科麻酔に携わっていましたし、院長も硬膜外麻酔の処置の経験が豊富ですので、麻酔に不安がある方もご安心ください。現在、経産婦さんは計画無痛分娩を原則としていますが、初産婦さんは、24時間陣痛が来たタイミングで対応するオンデマンドを活用した無痛分娩に移行中です。また、患者さまのお体の状態に合わせて柔軟に予定を組むことも心がけています。例えば、あらかじめ計画日を決めておいても、そのタイミングで子宮口が十分に開いていないことも少なくありません。そのまま進めると出産まで何日もかかる恐れがありますので、当院では妊娠10ヵ月以降の、分娩が近くなったタイミングで計画日を決めています。加えて、無痛分娩をご希望の方には月2回の説明会で詳しくお話しする機会も作っています。
お産の管理とホスピタリティーを大切に
先生が診療で心がけていることは何でしょう?

患者さまが診察室に入って来られた時の表情や歩き方などをしっかりと見た上でお声がけしています。不安そうな顔をしていれば、お体に負担がかかっているのか、何か症状があるのかなどを推測しますね。中には、気持ちを伝えづらいと感じる方もいらっしゃると思いますので、そういう時はスタッフにお声がけをお願いして確認してもらっています。そのため、スタッフとのコミュニケーションは大切にしていますね。診療においては「病気」や「症状」だけを診るのではなく、患者さまのお気持ちなども含め、「人」として総合的に診ることが求められていると思います。患者さまをより近くに感じながら診療に取り組んでいきたいですね。
医師としてやりがいを感じたエピソードがありましたら教えてください。
副院長に就任してから、地域の皆さんに喜んでもらいたいという思いでハロウィーンパーティーを開催したことがありました。その時、以前当院で出産した方がお子さんを連れて来てくださったんです。出産後は基本的に産院には来なくなるので患者さまや生まれたお子さんと関わる機会がないのですが、パーティーでその方に「子どもに『ここがあなたの産まれた場所だよ』と話せる機会をもらってうれしかった」と言っていただけて、企画したかいがあったなと思いました。これまでここで出産したお母さん、生まれた皆さん、そしてこれからご縁があるであろう方々のためにも、これからも当院を継承し守っていきたいです。
地域にとってどのようなクリニックでありたいとお考えですか?

母子の安全のため、これまで積み重ねてきた経験を生かして、引き続きしっかりと分娩を管理していければと思います。そのために診療体制も整えており、現在は常勤の医師3人を中心に、5人体制です。一方で、医師の人数が多いと、健診が毎回「はじめまして」になって緊張するという方もいらっしゃるかもしれないと思い、水曜以外の健診は常勤の医師が担当するようにしています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
父の座右の銘である「温故知新」を今後も引き継いでいきたい、というのが私の考えです。患者さまが快適に過ごせる環境づくりや安全性向上のための技術研鑽など、日々の診療の一つ一つを怠らずに、「患者さまファースト」にさらに磨きをかけていきたいですね。出産に際して患者さまは不安も多いと思いますが、どうかお一人で抱え込まないでください。私たちが「何でも打ち明けられる相談相手」になれるように努め、妊娠期から産後までサポートいたします。