岸本 啓志 院長の独自取材記事
きしもとクリニック
(北九州市門司区/門司駅)
最終更新日:2024/05/14

吉志バス停から徒歩1分の場所にある「きしもとクリニック」は、内科診療のほか、透析治療にも対応するクリニック。現在、3代目院長を岸本啓志先生が務めている。先代院長であった父が腎臓を専門としていたことがきっかけで自身も腎臓の分野に足を踏み入れ、日本腎臓学会腎臓専門医の資格を取得。「透析導入のための手術からその後の透析治療、患者さんの負担の少ない腹膜透析の提案まで、患者さんのライフスタイルに応じた治療をともに考えていくのが、腎臓内科の医師としての醍醐味ではないかと感じています」と語る岸本院長は、朗らかな雰囲気で笑顔を見せる。そんな岸本院長に、診療で心がけていること、そして生活習慣病と腎臓内科との密接な関わりなどについて詳しく語ってもらった。
(取材日2024年5月2日)
透析治療から生活習慣病まで、内科診療に幅広く対応
先生は3代目院長だそうですね。

当院は祖父が開業したクリニックです。祖父は内科医でしたが、父が内科と腎臓を専門としていたことをきっかけに、私自身も腎臓内科に興味を持ちました。実際に勉強をやっていくと、腎不全を抱え、透析を行いながら生活していく患者さんがこれから先、病気とどう付き合っていくのかということをともに考える点や、治療そのものなどにも興味を持つようになりました。九州大学卒業後はJCHO九州病院や製鉄記念八幡病院の腎臓内科に勤め、九州大学の大学院にも進み、透析患者さんの心不全の原因についての研究を行っていましたが、その間に父が体調を崩し、研究と並行して当院での診察を開始しました。無事に博士号も取得し、2023年の11月に正式に院長として当院を引き継ぎました。
どのような患者さんが多いのでしょうか?
周辺に内科のクリニックが少ないこともあり、風邪などの日常的な体調不良の方や、学校で熱中症になった生徒さん、喘息のお薬のご相談に来られる方など多岐にわたります。ですが、最も多いのは生活習慣病の方です。周辺の企業の健康診断も行っているので、その流れで当院に通ってくださる方も多くおられます。ただ高血圧症や糖尿病などの生活習慣病は自覚症状がなく、患者さんもなかなか治療に本腰を入れにくいという課題は、当院でも感じています。また生活習慣病が将来的にもたらすリスクとして心筋梗塞や脳梗塞などを思い浮かべる方も多いと思いますが、高血圧症や糖尿病が原因で腎不全になるケースも見られます。生活習慣病の治療は腎臓を守ることにもつながるのです。
腎臓内科の治療は、生活習慣病にも通じる点があるのですね。

ある日急に透析が必要になるわけではありません。日々少しずつ腎臓の悪化が進み、ある程度の状態になると「透析を行ったほうが良いでしょう」という判断になります。そうならないように患者さんの日々の生活習慣や適切な治療を促すことももちろんですが、透析が必要になった方のライフスタイルや治療のやり方などを一緒に考えていくのが、私たち腎臓専門医の重要な役割だと考えています。そしてそれは生活習慣病も同じですよね。腎臓への影響のほか、例えば糖尿病が進むと糖尿病網膜症などのリスクも考えられるため、眼科の診察を受けてほしいと患者さんに促すこともあります。患者さんを取り巻く状況や疾患の進み具合などを考えて提案をする点は、腎臓内科で学んだことが大きく生かされていると感じます。
患者の様子も注視し、見落としがないように努める
診察で心がけていることは何ですか?

基本的にはフランクな、威圧感などはまったく感じさせないような雰囲気で患者さんと接していますが、これ以上放置してはいけないと判断した場合は厳しい言葉を選ぶこともあります。生活習慣病は今すぐに困るということはあまりありませんが、心疾患などの命に関わる疾患につながる恐れがあります。「このままでは仕事ができなくなりますよ」「この数値のままだと脳卒中や心筋梗塞になることも考えられますよ」など、治療や生活習慣の改善を行わないとどうなってしまうのかという点をイメージしてもらえるように心がけています。また、患者さんの様子をよく見ることも大切ですね。というのも、いつもと違う足を引きずった感じに気づいてよく調べたら、脳梗塞だったといったようなケースもあるからです。
血液検査やエコーなど検査以外の、患者さんのご様子を見るのも大切なのですね。
もちろんです。むしろかかりつけ医の役割はこの変化を見逃さないことにあるとも言えるでしょう。当院で対応できることを考えるのも大切ですが、「もしかしたら心筋梗塞かもしれないから、この病院に送ろう」と、考えられる疾患や重症度に応じて病院へと適切につなぐのもかかりつけ医の大切な仕事の一つです。それは日々の診察も同様で、定期的な通院の中でどのような変化があるか、疾患の見落としがないかという点にはかなり注力しています。父の代からの患者さんも多くおられるので、当院での治療を始めた当初は「この方にはこういうご家族がいるんですよ」などと看護師にもいろいろと教えてもらいました。生活習慣病の治療を行う上では患者さんの生活背景を知ることが欠かせないため、本当に助かりましたね。
透析治療について教えてください。

前述したように、急に透析が必要になることはほとんどなく、まずは血液検査や尿検査などで定期的に数値を見ていくのが基本です。その中で透析が必要だと考えられる場合は小倉記念病院などに紹介し、透析の導入をお願いします。またその逆で、病院側から当院へ「この患者さんの維持透析をお願いします」と紹介されることもありますね。透析は長いお付き合いになっていきますから、やはり患者さんが病気とどううまく付き合っていくかを一緒に考えていくことが大事です。こういう点は内科とは領域が異なりますから、腎臓専門医の知識を生かして治療を行っていきたいですね。また基本的な血液透析だけではなく、腹膜透析のニーズにも対応していきたいと考えています。
腹膜透析や訪問診療など、患者のニーズに応えていく
腹膜透析とはどのようなものなのでしょうか?

おなかにカテーテルをつけ、1日に3~5回、透析液を交換する透析の方法です。血液透析との大きな違いは、ご自宅でも透析ができる点です。その分患者さんのご家族に透析液の交換などの負担が生じることは考えられますが、年齢を重ねてなかなか通院がしづらくなってきた透析患者さんに適している方法です。血液透析と比べて血圧の変動が少ないので、患者さんご自身のつらさがかなり軽減される点もメリットですね。当院では訪問診療にも対応していますが、今後は腹膜透析が活用できるようなニーズがあればお応えしていきたいと考えていますし、まずは腹膜透析を検討している方や、今後の透析のやり方について相談したいという方がいればもちろん対応していくつもりです。
そういった選択肢があることを伝えることも、かかりつけ医の大切な役割なのですね。
高齢になって食事量が減り、通院もしづらい患者さんの場合、透析の際に点滴代わりとして糖分をいれることも可能です。このように、どうすれば患者さんやそのご家族が、これから先、負担をできるだけ軽くしながら生活を維持していけるかを考えていくのは、内科では領域が異なるため、相談などもなかなか難しい点があります。腎臓専門医としての専門的な治療や生活の提案を行っていくことが、地域医療の一角を担う者として求められるのではないでしょうか。また、専門的な立場から言うと、足のむくみも一度検査を受けてほしい症状の一つです。むくみが気になるという方が実は末期の肝臓がんだったというケースもあります。もちろん検査をしても何もなかったということのほうが多いのですが、やはり大きな疾患を見逃さないためにも、気になることがあればぜひ気軽に相談にいらしてほしいと思います。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

この場所に移って28年ほどが過ぎたこともあり、数年のうちに新しい場所への移転を計画しています。とはいえ、今の場所からそう離れていませんから、今通っておられる方の負担になることはないでしょう。それに私はまだまだ若いですから、あと30年はしっかりと皆さんとお付き合いできると思います(笑)。患者さんにお伝えしたいことは、ぜひ気軽に相談に来てほしいということです。生活習慣病や健康診断結果のご相談、内科全般のご相談にも対応していますし、適切な病院へのご紹介も可能です。腎臓内科での経験を生かしながら、地元の患者さんと長くお付き合いできればうれしいですね。