井上 香奈子 院長の独自取材記事
井上整形外科医院
(四国中央市/伊予三島駅)
最終更新日:2026/06/04
1975年の開業以来、四国中央市で地域医療を支え続けてきた「井上整形外科医院」。2025年には開業50周年という節目を迎えた。現在は創業者である井上力先生と、娘であり院長を務める井上香奈子先生による二診体制。「入り来る人に安らぎを」という力先生の想いを受け継ぎながら、赤ちゃんから高齢者まで、幅広い世代の患者が通う地域密着型の整形外科だ。腰痛や膝痛、頸部痛、スポーツ外傷、骨粗しょう症、子どものけがまで幅広く対応し、患者一人ひとりの生活背景に寄り添った診療を大切にしている。近年はリハビリテーションのさらなる強化に努め、理学療法士や看護師とのチーム医療を通じて、健康寿命の延伸にも力を注いでいる。そんな香奈子院長に、地域医療への思いや、父から受け継いだ診療姿勢について話を聞いた。
(取材日2026年5月13日)
親子二診体制で、幅広い世代の体の悩みに寄り添う
院長に就任されるまでの経緯を教えてください。

父が故郷である四国中央市に開業したのは1975年、私が小学2年生の頃でした。私自身は帝京大学医学部を卒業後、愛媛大学へ入局し、宇和島や新居浜、松山などさまざまな病院で経験を積みました。1年間だけ、父が留学していたドイツのデュッセルドルフ大学でも勉強させていただきました。こちらに帰ってきてもう16年になりますが、現在も父と二診体制で診療しています。父は90歳になりますが、今も現役。父の患者さんの中には、子どもの頃からの幼なじみも来られていて、本当に地域に根差した診療を続けてきたんだなと感じますね。
患者さんはどのような方が多いのでしょうか?
本当に幅広いですね。父の代から通ってくださっている患者さんが多いので、3世代で来てくださるご家族もたくさんいらっしゃいます。私が帰ってきて16年になるので、当時子どもだった患者さんが、今はご自身のお子さんを連れて来てくださることもあります。「私も年を取ったな」と思いますね。整形外科というと高齢の方のイメージが強いかもしれませんが、実際には赤ちゃんからご高齢の方まで、本当に幅広い年代の患者さんと関わる診療科です。私はドイツで小児医療を勉強し、療育センターにも関わっていた時期がありますので、小児科の先生から股関節に問題を抱える赤ちゃんのご紹介もあります。
特に多い症状や疾患について教えてください。

やはり圧倒的に多いのは、慢性的な腰痛や首の痛み、膝の痛みですね。それに加えて、スポーツでの捻挫や突き指、転倒によるけがなど、急性の外傷も多いです。四国中央市は製紙工場が多い地域なので、重いものを持つ作業や、立ちっぱなし、同じ動作の繰り返しなど、仕事内容に由来する症状が出ることも少なくありません。なので、単に痛みの場所だけを診るのではなく、「どんな仕事をしているのか」「どんな姿勢が多いのか」といった背景もできるだけ聞くようにしています。場合によっては、踏み台を使うとか、机の高さを変えるとか、日常生活や仕事の中でできる工夫もお伝えしています。
力を入れている治療や予防について教えてください。
近年、特に力を入れているのは骨粗しょう症の予防とリハビリテーションですね。高齢の方の圧迫骨折は本当に多いので、骨密度を測ったり、必要に応じてお薬を使ったりしています。また、健康寿命を延ばすためには、筋力維持がとても大切なんです。「歩いているから大丈夫」と思われる方も多いんですが、実は歩くだけでは筋力強化にはなりにくいんですね。ですから、リハビリルームにはトレーニングマシンを多く備えて、患者さんには無理なく続けられる筋トレをお勧めしています。父が90歳で今も元気に診療しているので、それを目標にされる患者さんも多いんです。父自身も地道に筋トレしていますし、「元気に年を重ねる」ことの良いお手本になってくれていると思います。
なんでも相談できる、医療の窓口でありたい
先生が診療で大切にされていることは?

何でも相談できる、アットホームな医療ですね。帰ってきた当初は、「当院は整形外科なのに、なんでこの相談を?」と思う患者さんも多かったんです。でも父を見ているうちに、「とりあえずここへ相談に行こう」という存在なんだと気づきました。例えば、「血圧が高いんだけど」と相談に来られる方もいらっしゃいますが、「それは内科ですね」とお伝えするのではなく、まずはお話を伺い、血圧を測って必要なら内科をご紹介する。地域の窓口として、まず相談を受け止めることが大切なんだと、父から学びました。患者さんと接する時も、できるだけ緊張しない雰囲気づくりを心がけています。看護師も、私が子どもの頃からいるスタッフが多くて、「今日どうしたの?」みたいな、ちょっとくだけた感じで話してくれるんです。それが患者さんの安心感につながっていると思います。
お父さまから受け継がれたものが多いのですね。
父から教わったことで大切にしているのが、「必ず患者さんを触って診る」ということです。今はエックス線検査やCT検査など画像検査も進歩していますが、父は患者さんを必ず触って診察していました。話を聞いてエックス線検査をして薬を出すだけではなく、きちんと触って診る。それは患者さんの安心感にもつながると思っています。また、理学療法士や看護師とも情報共有をしながら、チーム医療で患者さんに寄り添っています。そして何より、整形外科は痛くて困って来られる方が多いので、まずはその痛みを和らげることを一番に考えています。
病院勤務から地域のクリニックの院長になって変わったことは?

基幹病院で勤務していた頃は、患者さんからお手紙をいただくことって、あまりなかったんです。でも、こちらへ帰ってきてからは、お子さんが絵を描いて持ってきてくれたり、お手紙をくださったりすることが増えました。骨折で入院していた子が退院後に笑顔で報告に来てくれたり、進学で外に出た子が帰省の度に顔を見せに来てくれたり。そういうつながりができるのは、地域医療ならではだと思います。長く付き合っていく中で、患者さんと一緒に当院も育っていく感じがありますね。私自身も、患者さんに育ててもらっている部分がすごくあると思います。
地域に密着したアットホームな医療を
先生が整形外科の道に進まれた理由は?

やはり父の影響ですね。決して強制されたわけではないですが、いずれは私が継ぐんだろうなと思っていました。研修でいろいろな診療科を回っても「整形外科に行く」という気持ちはぶれなかったですね。私が整形外科を選んだ頃はまだ女性医師が少なかったんです。それで、股関節や肋骨の診察など服を脱ぐ必要がある時には「女性の先生で良かった」と言っていただけることは多かったです。学校健診でも女の子が安心してくれているのを見ると良かったなと思いますね。同じ女性だからこそ気づけることや、特有の悩みに共感できる部分もありますし。そういう意味では、女性医師としての役割を感じています。
お休みの日はどのように過ごされていますか?
趣味はダイビングとゴルフです。愛媛や高知の海は本当にきれいで、東京や大阪から来られる方も多いんですよ。実は、ダイビングの免許自体は昔から持っていたんですが、本格的に楽しむようになったのは50歳近くなってからなんです。ダイビングって、年齢を重ねてからでも始めやすいスポーツなんですよ。海の中では体への負担も少ないですし、高齢の方もたくさんされています。ゴルフも、生涯続けられるスポーツとしていいなと思っています。私自身、ずっと座って診療することが多いので、健康維持のためにも休日はアクティブに。患者さんにも筋力維持や運動習慣の大切さをお話ししていますが、自分自身もできるだけ体を動かしながら、長く元気に仕事を続けていきたいと思っています。
今後の展望、読者へのメッセージをお願いします。

父を見ていると、患者さんと一緒に病院が育っていくような感覚があるんです。私も患者さんと一緒に年を重ねながら、地域に根差した医療を続けていきたいですね。父の患者さんから、「お父さんにお願いしたいなあ」と言われることもあるんですよ。同じ話をするにしても、父にしてもらうことに意味があるんでしょうね。そういう長年の信頼関係ってすごいなと思います。そんなふうに私も、何でも気軽に相談できる、地域に密着したアットホームな医療を、これからも続けていきたいです。

