西田 泰敏 院長の独自取材記事
西田クリニック
(松山市/松山市駅)
最終更新日:2025/01/23

松山市の中心街すぐ近く、千舟町通り沿いのビルの中に位置する「西田クリニック」。現在は心療内科・精神科・神経科を主に診療しているが、元は50年以上前に内科を発端として開業したクリニックだと、3代目院長・西田泰敏先生は語る。クリニックには軽微な心身の不調を抱える患者から、アルコール依存症に統合失調症など、やや症状の重い精神疾患を抱える患者まで、さまざまな人々が通っているそう。大学卒業後は関東、そしてここ愛媛でも、各地で10年以上、大勢の心の病を抱える患者に接してきた西田院長。精神科医として長年培ってきた人を“診”ることの難しさとやりがい、そして近年の精神医療を取り巻く社会環境まで。多方面にわたる話を、今回は聞かせてもらった。
(取材日2024年11月21日)
医学の道に真面目でなかったからこそ精神科の道へ
まずは、クリニックの歴史について教えてください。

当院の始まりは1972年なので、かれこれ50年以上この地にいることになりますね。もともと県病院の内科外来長を務めていた父が独立して、「西田内科」としてこの場所に病院を開業したのがそもそもの発端です。当初は父のみで診療を行っていたのですが、2006年に私が関東から戻り、心療内科・精神科も診療科目に加えて再スタートを切りました。ですが、その翌年に父が病気で亡くなりまして。その後は私一人で、現在のようにメンタルクリニックとして運営を行っています。一方で父の代から通ってくださっていた患者さんもまだ数人いらっしゃるので、その方々は私が引き続き対応している、という形ですね。
先生が医師の道へ進んだ経緯についてもお聞かせいただけますか。
出身自体は東京なのですが、先述の父の赴任の関係で2歳の頃に愛媛へ引っ越し、そこから学生時代はずっと松山で過ごしました。もともとバンド音楽が好きで、中学の頃はその道で生きていきたいとも考えたのですが、高校進学に伴い周囲の影響もあって、一応の体で医学部の道を選んだ形です。やはり周りには幼い頃から医師になりたいと意欲的に学んでいた人も大勢いたのですが、あいにく当時の私には彼らのような高い志がなく……。ですが、だからこそ精神科という道を選んだ部分もありました。音楽が好きで、やや内向的だった自分の一面が生かせるのでは、という淡い期待もありましたしね。そういった経緯で日本大学医学部へ進学して、卒業後も10年以上関東で精神科の医師として勤務し、2006年に松山に帰ってきて今に至ります。
クリニックには、主にどのような患者さんが多く訪れているのでしょう。

精神科というとまだまだハードルが高い印象もありますが、やはり多いのは日常生活の中でさまざまな悩み事を抱える方ですね。職場の悩みや人間関係の悩み、あるいはそういった悩み事が不眠などの睡眠症状に現れる方も多いです。その他にも意外と身近に潜んでいるアルコール依存症に悩む方や摂食障害、適応障害など、程度の差はさまざまですが、そういったいろんな精神疾患を抱える方も大勢通院しています。本人に病気の自覚がなくとも、よくよく話を聞くと表出する症状が精神疾患に該当するケースも多々あります。その中でも当院では比較的、統合失調症の患者さんをよく診ていると思います。統合失調症に関しては、私自身も啓発に力を入れている分野でもあります。
想像以上に身近な精神疾患、統合失調症という病
統合失調症とはどのような病気か、もう少し詳しくお伺いできますか。

統合失調症は、平たく言えば思考や行動、感情にまつわる脳の機能が低下する精神疾患です。人口の約1%、100人に1人程度が罹患するといわれているので、実はかなり身近な病でもあるんですよ。具体的な症状としては幻聴や幻覚、あるいは極端な思考・妄想。著しく共感性が低い、という症状も時折見受けられます。統合失調症には一概に病名を断定できる検査がないため、診断は長年の病歴と諸症状の総合的な評価に基づいて行われます。そのため、大勢の患者を診てきた経歴のある医師に診断を仰ぐことをお勧めしますね。患者さんの中には何かのきっかけで自分が“おかしい”と気づき、それを治したいと相談に来る方も時々いらっしゃいます。ですが統合失調症に完治はなく、症状が治まり穏やかな状態をキープする「寛解」をめざすしかありません。一度発症すると生涯付き合い続ける病気なので、なるべく早く適切な診断・治療にたどり着くことが非常に重要ですね。
ここ十数年で、心の病を取り巻く環境も大きく変わっている印象があります。
大衆への理解が進んでいるという点では、世の中の流れは良い方向に向かっているな、と感じています。関東での勤務時代や愛媛に戻ってきたばかりの頃はまだまだ心の病がタブー視され、「精神の病気の話なんて聞きたくもない」と忌避感を示す方も大勢いました。現在の統合失調症も、昔は「精神分裂病」というとんでもない名称で呼ばれていましたしね。過去にはマスコミの影響で、センセーショナルな事件が起こった際にそういった精神疾患が過剰に報道される一面もありました。ですが近年は病気の名称や症状なども徐々に認知が進み、少しずつですが心の病が正しく理解される世の中になってきたのかな、と。気づけば松山の街にも、心療内科や精神科のクリニックがずいぶん増えました。こうした風潮が、今後もより広がるといいですね。
患者と向き合う際、気をつけていることや意識していることなどはありますか。

やはり一番は対話ですね。当院へ訪れる患者さんも、やはりお話の好きな方が多い印象もあります。特に私が音楽に造詣が深いこともあり、そういったお話を好む方も多くて。音楽の話は一人ひとりの方の価値観や深層意識に通ずる部分も多く、そういった心の深い部分を誰かに開示できる機会は、普段の日常だとなかなかない方が大半なのではないでしょうか。そういった場を求めて、当院へ足を運んでくださる方も多いのではないかな、と感じています。ただ同時に、私自身は患者へ寄り添いすぎないことも念頭に置いておかなければなりません。重ねてそれらのコミュニケーションを単なる雑談で終わらせるのではなく、その中で私は相手を“診”る必要があります。どんな患者さんと向き合う際も、そのバランス感は常に頭の隅で意識していますね。
心の不調から自力で立ち上がるためのサポートを
先生のご趣味や、お休みの日の過ごし方なども教えてください。

学生の頃から好きだった音楽は今でも大好きですね。古き良きロック・バンドをずっと聴いています。先ほども少しふれたとおり、通っている患者さんとはその共通項で距離を縮められることも多いですよ。また音楽を聴くだけでなく、楽器演奏も趣味ですね。ベース担当として、休日は友人とバンドをやったりもしています。どんな形であっても音楽を暮らしに取り入れることは、心を安定させるのに非常に良い方法の一つだと思いますよ。
今後の展望などについても伺えますか。
父の代から半世紀以上続いてきたこのクリニックを、まずは今後も続けていければと思っています。それとこれはやや個人的な話ともなるのですが、現在娘も医師をめざして勉学に励んでいる最中でして。今は医学部で小児科の医師をめざして研鑽を積んでおり、卒業後は愛媛に帰ってきて研修を受けないか、と助言しているのですが、娘自身はやはり大学近辺で働きたいらしく。もちろん彼女には自分の人生を歩んでほしいですが、将来一緒にこのクリニックで働きたい、というのが今の親としてのささやかな夢ですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

先述のとおり、近年は心の病や不調に関しても社会全体がずいぶん寛容になってきました。ですがそれでも、まだまだそんな悩みや不調を外に出しづらい、打ち明けづらい方もいると思います。あるいは心のダメージに自覚がなくとも、それらの不調が体のサインとして現れる方も潜在的に大勢いることでしょう。特にその兆候が睡眠不足に現れた際、そこからより心身ともに調子を崩してしまいかねません。そういった場合はまず一度、当院までご相談ください。悩みや心身の不調をきっかけにきちんと自身の心へ向き合うことで、多くの場合は時間による解決が望めるでしょう。最後は誰でもなく自分の力で悩みを解決する必要がありますが、そのためのお手伝いであれば、当院にもできることがあるかと思いますので、ご相談ください。