酒井 亮 院長の独自取材記事
明石内科クリニック
(廿日市市/山陽女学園前駅)
最終更新日:2025/03/10

山陽女学園前電停から徒歩1分の場所にある「明石内科クリニック」。酒井亮院長は2021年に院長就任してからも、午前中は外来診療を、午後からは訪問診療というスタイルを続けている。幼少期から「人を治す」ことに憧れを抱き、大学を卒業後は外科を専門に学んできた酒井院長。勤務医になってからは、臨床をしつつがん治療の研究にも取り組み、留学したアメリカのがんセンターでも知識と技術を磨いた。がん患者と接する中で訪問診療に出合い、その重要性を認識したという酒井院長。病気だけを見るのではなく、患者のバックボーンまで知ることで、患者が納得する最期のサポートができると考えている。いつ呼ばれてもいいように、休日も遠出はしないと語る酒井院長は終始穏やかで、インタビューに答える姿からは温厚で誠実な人柄が垣間見えた。
(取材日2025年2月15日)
「治す」医師から「支える」医師へ
医師をめざしたきっかけについて教えてください。

きっかけというよりは、身内に医師が多かったからというのが大きな理由ですね。医師として働く姿や仕事の話を聞くうちに、患者さんを「治せる」というのはかっこいいんだと感じるようになりました。小学校の卒業文集に「夢はエイズをなくすこと」と書くぐらいには、医師に憧れがありましたね。外科を専門に選んだのも、患者さんの「治った」という状態が明確だったのと、当時の外科は患者さんの診断から完治もしくは亡くなるまで診られたから、というのがあります。大学や臨床研修でお世話になった先生方も、患者さんの最初から最後まで寄り添っている先生が多かったです。
がんの研究もされていたと伺いました。
そうですね。治せないものを治せるようになったらいいなと思ったことがきっかけで、がんの研究を始めるようになりました。岡山大学ではまだ日本では珍しかったがんの遺伝子治療に取り組んでいたので、そちらで学ばせていただきました。その関係で、3年ほどアメリカのがんセンターに留学したこともあります。遺伝子治療やウイルス治療など、がんの治療法について多方面から研究しました。研究しながら勤務医として働く中で、多くのがん患者さんに出会いましたね。患者さんの中には身寄りがなく、一人で旅立ってしまう方もいらっしゃいました。「最期は自宅で」という患者さんの希望で、在宅医療の医師に看取っていただくこともあり、そこで初めて訪問診療に出合ったんです。病気を治すのではなく患者を支える医師という存在は、私の医師観を変えてくれました。
なぜ訪問診療の道に進もうと思われたのでしょうか?

外科で手術をする医師は数多くいますが、在宅で看取りをする医師は決して多いとはいえません。訪問診療をしたいと思った理由は「人の役に立てるかも」と考えたからです。勤務医時代に出会った患者さんで、病院嫌いで勝手に病院を抜け出し強制退院させられ、病状が悪化して私の勤務する救急に運ばれてきた方がいらっしゃいました。どうにか自宅に帰れるくらいまでには回復しましたが、その方はもともと足が悪く、家に帰ったとしてもどうするんだろうと思いましたね。もし訪問診療があれば、その方を自宅でケアすることができるんだと気づきました。当院は義父の明石先生が開業したクリニックで、当院を継承する話が出たとき、明石先生に訪問診療をやってみたいことを伝えたんです。明石先生が快諾してくれたときはうれしかったですね。
患者に寄り添い、家族にも寄り添う
訪問診療について教えてください。

訪問診療は、基本は月に数回ご自宅を訪問して、患者さんのケアを行います。今は緩和ケアの患者さんが多いですね。病院は病気を治すために100点の治療をめざしますが、在宅医療で100点の治療はめざしません。これは私の方針でもありますが、患者さんご本人や、介護されているご家族が納得できる医療を提供することが目標です。「最期は自宅で迎えたい」という患者さんご自身、またはご家族の希望をくんだ在宅医療を提供していきたいですね。病気が進行している患者さんが多いため、治療だけにこだわるのではなく「この先どう生きたいか」「どんな最期を迎えたいか」といったことに焦点をあてて今後を考えていきます。時間があるときは、患者さんの昔のアルバムを見せてもらったり話を聞いたりして、元気な頃の患者さんを教えてもらうようにしています。患者さんの人となりを知ることで、患者さんの希望や夢を考え、それをかなえるお手伝いをしたいんです。
患者さんに寄り添う診療を大切にされているんですね。
そんな診療ができるように努力しているつもりです。旅行や食事会など、患者さんのイベントに合わせた体調管理をすることもあります。患者さんやご家族が安心できるよう、患者さんに関わるのは私だけではなく、訪問看護ステーションや地域の包括支援センターといったところとも連携を取っています。現在はカルテも電子化されていますから、データはすぐに共有することが可能です。それから医療だけでなく、介護をされるご家族へのアドバイスも行っています。介助テクニックや、介護保険で使えるサービスの紹介などですね。患者さんとご家族を支える仕組みづくりをしています。
現在はどのような体制で訪問診療をされていますか?

午前中は明石先生と外来診療を行い、午後から私が訪問診療をしています。先ほどはがんの末期患者さんの訪問診療についてお話ししましたが、ほかには筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脳卒中の後遺症で体が思うように動かせなくなった患者さんや、認知症が進んで自宅でご家族が支えている患者さんなど、いろいろな方がいらっしゃいます。診療内容は患者さんによって異なりますが、何かあれば夜でも対応できるようにしているので、ご安心ください。いつ呼ばれても大丈夫なように、休日も遠出はしないようにしているので。
患者が納得できる「最期」のサポートを
外来ではどのような患者さんが多く来院されますか?

一般的な内科の患者さんが多いですね。町の医療窓口といいますか、取りあえずなんでも診ますという感じです。専門的な処置や検査が必要だと判断したら、近隣クリニックや病院をご紹介します。大がかりなものは難しいですが、簡単な外科的処置であれば当院でも可能です。消化器内科も標榜に掲げていますので、内視鏡検査もできますね。今まで私は漢方に接してこなかったんですが、明石先生は漢方にも詳しいので、現在は明石先生に教えてもらいながら漢方を学んでいる最中です。
今後の展望についてお聞かせください。
ひとまずは今の、午前中は外来診療・午後は訪問診療というスタイルを安定して続けていきたいですね。現在の訪問診療に関してはご紹介いただく患者さんが多いんですが、今後は当院に通院していたけど通うのが難しくなった患者さんへの訪問診療もしていきたいと思っています。外来に通院している患者さんであれば、自分で歩けたり話せたりといった姿を知っているので、訪問診療へ移行してもご本人の要望や希望が察知しやすいと思うんです。それから訪問診療という存在をもっと広めていきたいと考えています。在宅で介護しなければならない、自宅で最期を迎えるつもりだという患者さんやご家族で、訪問診療をご存じない方も少なくありません。患者さんとご家族の負担を軽減し、安心感が得られる訪問診療をめざしています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

患者さんご本人からでもご家族からでも、相談は随時受けつけているので、お気軽にご連絡ください。「訪問診療っていくらぐらいかかるの?」「こういう病気だけど訪問診療ではどんなことをしてくれるの?」「通院や入院とはどう違うの?」そういった疑問も、遠慮なくお尋ねくださいね。「今は通院・入院しているけれど、いずれは在宅で医療を受ける予定だ」という方は、どのタイミングで在宅に切り替えるかのご相談も受けつけています。治療できる病気であれば一日でも早く良くなるよう尽力しますし、緩和ケアであれば、患者さんご本人が納得できるような最期のサポートをしていきたいと考えています。